疎遠になった幼馴染のネコにニャっちゃった話
どうも幼馴染みマイスターの青春詭弁です。
今回から、ふわっと思いついた幼馴染みネタを短編で投稿していきます。
その中で、続けられそうなネタの短編があったら、改めて連載小説として執筆すると予定です。
それでは、よろしくお願いします!
新島みやびは、学校一の人気者である。
スポーツが得意という訳でもなく、勉強ができるという訳でもなく、かと言ってなにができるという訳でもない。
彼女が人気者である所以は、たった1つ――ただ美しいからだ。
煌びやかなセミロングの金髪、ガラスが如き碧眼の双眸、西洋人形を彷彿とさせる精巧な目鼻立ち。顔の造形だけでも、彼女レベルの浮世離れした美しい少女はいないだろう。
その上、身長は170センチと高く、スラッと長い手足と括れたウエスト、比較的に膨よかな胸元――なるほど、そりゃあ学校一の人気者になるわって感じのプロポーションをしていた。
見た目の美しさのみで、男女共に学校の……否、大人気売れっ子モデルとして日本中の人気を掻っさらう、日本で一二を争う美少女である彼女は、なんと僕の幼馴染みだったりする。
家が隣近所で、家族ぐるみで仲が良くてーみたいな、ありふれた関係だ。
そんなんだから、思春期を迎えた中学生頃になると、だんだんと疎遠になっていった。高校はお互いに近所の学校を選んだから、たまたま同じ高校に通っている。
けれど、一言も話さなかった。
仲が悪いとか、避けられているとか、そういう感じじゃない。単に無関心という印象を受けた。
だから、僕も彼女にはなるべく関わらなかった。
幼馴染みと言っても、僕は彼女と比べて地味だし、取り柄と言ったら勉強がちょっとばかしできるくらい。
日本中から注目されているモデルである彼女と僕とでは、雲泥の差があり過ぎて、幼馴染みと言っても基本的に信じてもらえない。
しかし……みやびが僕に無関心であったのとは反対に、僕はみやびのことが好きだった。
むしろ、好きにならない訳がないというか。
性格は割とサバサバしているけれど、人情深くて、動物に優しいし、何というか一緒にいて安心するのだ。
しかし、まさかみやびに告白する勇気なんて湧かず――まあ、そんなこんなで僕はとにかく、みやびと関わらないように高校生活を送ることを決めて、はや1年。
高校2年生の春休み。
まだ、肌寒い3月のこと。
僕こと、鮎沢小太郎は、なぜか新島みやびのネコとして飼われることになりました。
「にゃ」
にゃんでだよ。
※
僕は人間だ。それは間違いないはずだけど、今はどこからどう見ても全身毛むくじゃらの黒猫になっていた。
なぜネコになってしまったのか。その理由は分からないけど……ただ、1つ分かっていることがある。
突然、目が覚めたらネコになってしまい混乱する僕を助けてくれたのは、みやびだということだ。
「ほら、もう怖くない。怖くない」
みやびは子供をあやすみたいな口調で、冷たくなっている僕の体を毛布に包んだ。
ネコになり、露頭に迷い、自転車に轢き殺されかけたり、カラスやノラネコに絡まれ、とにかく散々な目に遭って途方に暮れていたところを、みやびが助けてくれた。
みやびからすれば、ノラネコが弱っているだけのように見えたのだろうが……本当に助かった。
「お腹減ってない? さっきキャットフード買ってきたんだけど」
「にゃ」
ありがという、みやび。
でも、僕は人間だ。キャットフードなんて食べないよ。
しかし、空腹には抗えず、僕はみやびの手のひらに撒かれたキャットフードを食べるのだった……。
「にゃ……」
はじめてのキャットフードは、意外とおいしかった……。
「お腹いっぱい?」
「にゃ」
お腹いっぱいです。
「そっか。それじゃあ……お風呂に入ろうか」
「にゃ……?」
え?
※
こんな形でみやびと顔を合わせることになるとは――なんて感慨に耽っている場合じゃなかった。
僕は人間、そして男としての尊厳を守るために、幼馴染みの女子と一緒にお風呂なんていうイベントを全力で避けるため、徹底抗戦することにした。
「ねえ、黒ネコちゃん。もしかして、お風呂嫌いだった? 言葉が分かるなんて頭いいんだね。私が悪かったからさ。なにもしないから、ベッドの下から出ておいでー」
「シャーッ!」
嘘である。
人間がネコや動物に向かって、「なにもしないから〜」と言って、なにもしなかった試しはない。
今はネコだが、人間がなにを考えているのかなんてお見通しだ。みやびのあの目は、僕を捕まえたのち、無理矢理お風呂に入れるつもりだ。
みやびはベッドの下を覗き込む姿勢で、僕を見ている。必然的に、胸元が見える体勢となっており、みやびの豊満な谷間が見え隠れしていた。
お風呂か……現役スーパーモデルの裸体って、すんごいんだろうなぁ……。
いや、落ち着け僕。
いくら今はネコだからって、そんなことをしてしまったら、人間に戻った時に、みやびを普通の幼馴染みとして見れなくなってしまう。
僕は本能に抗い、断固としてお風呂を拒否した。
みやびはそんな僕を見て、「困った」と呟いた。
「ばっちいからお風呂に入れたいんだけど……まあ、後でもいっか。それより、この子に名前でも付けてあげようかな」
彼女はそう言って、腕を組んだ。
どうやら、本当にお風呂は後回しにするつもりらしい。
それならと、僕は顔だけベッドの下から外に出す。
すると、みやびは僕を見て、なにか閃いたようすで僕を指差した。
「じゃあ……君の名前は、コタロウにしようかな」
え?
僕は驚いて、ベッドの下から這い出た。
すると、みやびは僕の体を「捕まえた」と言って抱き上げた。
「ふふ……コタロウってどうかな。気に入った?」
気に入ったもなにも、それは僕の名前だった。
意図的に付けたとは考えられないけれど、意図的じゃないのなら、なぜ幼馴染みである僕の名前をネコの僕に付けたのだろうか。
ふと、みやびに抱き抱えられた僕はさっきよりも目線が高くなったことで、棚の上に飾ってあったあるものに気がついた。
棚の上にあったのは、写真立てだった。
そこに飾られていたのは、僕とみやびが並んで立っている1枚のツーショット写真だった。
僕もみやびも、まだ小さかった頃の写真だろう。2人とも幼い顔立ちをしている。
「にゃーにゃー」
と、僕が写真に向かって鳴いていると、みやびは僕が写真に興味があることに気づいたみたい。僕を抱き上げたまま、写真の前まで移動する。
「この写真が気になるの? これはね。私の大事な思い出だよ。この金髪の女の子が私。その隣にいる男の子は、コタロウと同じ名前の……私の幼馴染み」
みやびを見ると、彼女はどこか憂いを帯びた瞳で写真を見つめていた。
僕が「にゃ?」と鳴いてみると、みやびはポツリと呟く。
「好き……だったんだ。小太郎のこと。今もだけど」
「にゃ?」
え?
僕は困惑した。
今、彼女はなんと言っただろうか。
「中学に上がる前まで、ずっと仲良しだったんだけどね。小太郎……急に私のこと避けてきて、嫌われちゃったのかなって。だから、今じゃすっかり疎遠になっちゃったんだけどね……それでも、私はずっと小太郎のことが好きなんだ。なんでかは……私も分かんないだけどね」
みやびはそう言いながら、恥ずかしそうに頬をポリポリと掻いた。
「って……私、ネコになんでこんな話してんだろ。しかも、ネコに初恋の人の名前付けるとか痛すぎだわ……あはは……」
初恋……。
みやびは乾いた笑みを浮かべると、ベッドの方まで移動し、僕を抱えたままゆっくりと横たわった。
「今日はもう寝よっか、コタロウ。明日は絶対にお風呂入れるからね」
「にゃあ」
「ふふ……コタロウは可愛いね」
しばらくして、彼女は気持ちよさそうな寝息を立てて眠ってしまった。
僕は彼女を起こさないように、こっそりと彼女の腕から抜け出し、先ほどの写真が置いてある棚の上にヒョイっと跳び乗る。
ネコの脚力というのは凄まじく、自分の身の丈よりも大きな障害物を軽々と飛び越えられた。
「にゃあ……」
僕はツーショット写真を眺めながら、思わぬ形でみやびの告白を受けてしまったことについて考える。
まさかみやびが僕のことを好きだったとは、まったく思ってもみなかった。そんな素振りもなかったし、むしろ僕の方がみやびに嫌われているのかと思っていたくらいだ。
「にゃ〜」
みやび――。
僕は、みやびのこの想いに応えなくちゃいけないんじゃなかろうかという使命感を覚え、なんとか人間に戻る方法を探すことにした。
なんとしてでもネコから人間に戻り、僕はみやびに告白する――!
僕はそう決意した。
※
それから、また紆余曲折があった。
人間に戻る過程で、いろいろな人に出会った。
動物の言葉が分かるという霊能力者。僕の地元を牛耳るボスネコ。あとは、まあとにかくいろいろだ。
いろいろな動物と、いろいろな人に出会い、そしてその人たちの助けで僕は1ヶ月の時を経て、4月1日――人間に戻ることができた。
桜彩る今日は始業式。
僕は今日、彼女に告白する。




