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第一話 白羽の天使

 


 今日も空は透き通るように晴れ渡り、天上のこの地には穏やかな風が吹いていきます。


 死んだ後は天国へ行き、そこで両親と再会できるものだと思っていたのですが、どうやら違うようでした。


 なんとわたし! この度天使として生まれ変わったのです。


 びっくりしました……クリス様を庇ったあの後、気がついたらわたしの体は赤ちゃんになっており、しかも背中からは、真っ白い小さな羽が生えていたのですから。





 目が覚めた部屋の中は、何処かの神殿のようにも見えました。

 周りを見回すと、わたしと同じように、たくさんの小さな天使達が真っ白な布に包まれて、大理石でできたベッドのようなもので寝かされているようでした。


 その子達の側には、割れた卵の破片が。そういえば、わたしのところにも置いてありますね。

 不思議に思い、もう一度よく周りを見回してみると、一箇所だけ、大きな卵のみが置かれている大理石のベッドがありました。


 —————————ピシリ。


 卵の表面にうっすらと罅が入る音がしました。そこを起点として罅は伝染し、どんどん広がっています。それが卵全体に行き渡る頃、遂に卵は割れました。


「……あぶう」


 内側から出てきたのは、ちいさなちいさな手。中から精一杯身体を動かして、翼を使いながら、ゆっくりと時間をかけて、可愛らしい赤ちゃんが出て来たのです。

 もちろんその背中には、これまたちいさな羽が、ちょこん、と生えています。


 ———衝撃です。

 天使って、卵から生まれるのですね……!

 じゃあ、わたしの側に落ちている、この卵の破片……わたしもあの子とおんなじように、卵を突き破って出てきた、という事でしょうね。


 全ての卵から天使が孵ると、成体の天使様達が、上空から室内へ舞い降りて、生まれたての雛のようなわたし達をその手に抱き、育てて下さいました。


 温かな腕に抱かれて、うつらうつらと過ごしました。誰かに守られながら眠るのは酷く心地良いものでした。


 緩やかに、日々は過ぎていきます。ただ、人間だった時よりも成長が早いようですね。体感的には一週間ぐらいでしょうか? すぐに3歳児ぐらいの大きさに育ちました。


 どうやらある程度大きくなるまで、この成体の天使様達はお世話をしてくれるようです。その頃には、生まれた部屋からやっと出ることが出来るようになったのです。


 それからはお勉強をする部屋へと集められ、わたし達天使の成り立ちを教えて貰います。


 天使様達には細かい階級があるようで、現在、わたし達幼体は、十三階級ある内のずっと、ずっと下。いわゆる一番の下っ端だそうです。


 わたし達に教えて下さったのは、金色の髪が大変美しい、中性的な容姿の大天使様ですね。外見年齢は18歳くらいでしょうか。

 背中には大きな二対の羽が生えています。この方が、主にわたし達の教育係をして下さっています。


 ちなみに階級的には上から十二番めに偉いところに所属するお方みたいですね。わたし達の一つ上の位、とも言います。


 習った内容を反芻するに、天使は最上位階級のアルムディスティス様に仕え、このお方の御心の元、人間達を慈しみ、正しく導く役目を担っています。


 そして、天使はわたし達が生まれた部屋に集まった大気から、自然発生するそうなのです。

 ですが稀に、わたしのように善なる行いをした者も、天使の一員として生まれ変わらせ受け入れているらしいのです。それ以外の人間は、もう一度人間として生まれ直し、新たな人生を歩むのだそう。


 おとうさんとおかあさんの姿が見えないので、もしかしたら、もう一度、人間として生まれ直しているのかもしれません。再会を夢見ていただけに、少し、残念です。


 ただ、娘のわたしの方だけが何故天使になったのかを大天使様に伺ったところ、「おそらく貴女が受け入れられた理由は、生前、慎ましやかに暮らしていた事と、最期にあなたの大事な友人の命を助けたからでしょうね」と微笑まれました。今回のような事は、非常に稀なケースなのだそうです。だからでしょうか? なんとなく、大天使様から受ける眼差しに優しいものを感じます。


 自己犠牲の精神を、アルムディスティス様は最上の美徳として評価して下さるそうなので、わたしの行動は随分と評価して頂いたようでした。


 それならば彼は……クリス様は、幸せに過ごせているのでしょうか? わたしがいなくなったあの日から、彼の命は害されてはいないでしょうか。辛い日々と縁遠いぐらい、心穏やかに人生を歩んでいるのでしょうか?


 それに。今はいったい、どれ程の時が経ったのでしょう。彼が生きているのなら、その後を知る事が出来るかもしれません。


 両親が新たな人生を歩み出したのなら、わたしの中にある、たったひとつの心残りはクリス様の事です。


 ———クリス様。

 わたしの事は覚えていなくたって構わないの。

 だから、どうか、どうか幸せに暮らしていて下さいね。




 ーーー

 ーーーー※




 あの子が居なくなってから、瞳に映る全てのものは色を無くし、目の前で起こる全ての出来事は、酷くどうでもいい。


 成人し、王位を継いだ今でも、時折思い出すのは、あの子の温かな笑顔だけだ。


 最後に君にさせてしまった顔を、もう思い出せない僕の事を、君は決して赦さないでほしい。


 苦しかったろう、怖かったろう。……そして、もっと生きていたかっただろう。

 それなのに、君の命を、僕が奪ってしまった。

 自身の命が狙われているのを知っていたのに、心に溜まったつまらない澱みを聞いて欲しくって、君のもとに来てしまった僕を、ずっと恨んでいるだろうか?

 でも、君は優しかったから、そんな事は思わないのかもしれないね。


 今日も、黄色いリコリスの花束を抱いて、君が暮らしていた小屋へと向かう。君の為に用意した、真っ白な大理石で作った墓石を、君は気に入ってくれるだろうか。


 アミィ……君が救ってくれたこの命を、僕は早く失ってしまいたい。


 君の笑顔が思い出せなくなる前に、君と過ごした記憶を抱いたまま死んでしまいたいと言ったら、君は怒るかな。


 もう、まもなく全てが整え終わる。


 僕を害したもの達は、皆処分してきたから安心して。もっと早くこうすればよかったね。ロクな人間達じゃなかったから、君は気に病まなくてもいい。

 弟にあたる人間だけは種として生かしているけれど、適当な令嬢を当てがって次代の王族を産ませたら、追って処分するから大丈夫。


 後は、君を殺したあの男を見つけ出し、死よりも苦しい目に合わせてみせるから。許しを乞い詫びようとも手は緩めない。 

 ———必ず殺してやる。


 アミィ……それまで一人にしてしまうけれど、どうか待っていてほしい。




 ———僕ももうすぐ、君の元へ逝くからね。





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