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02 脱出不可能な勇者の居城



 魔王城から助け出されて勇者様の居城に連れて来られた後は、特にひどい扱いをされているわけではありません。


「姫、愛しているよ」


 こんな具合に、勇者様に愛を囁かれるぐらいです。


 特に拘束されるわけでも、監禁されるわけでもありませんでした。


 でも、自由にだけはしてくれないです。


 眩しいくらいの金の髪に青い瞳。

 整った顔の勇者様は、甘い声を駆かけ続けています。

 ですが、私はそれを遮りました。


「あっ、あのっ!」


 愛おしそうに微笑む勇者様は、普通ならときめき対象ですが、今はひたすら怖い。


「あのっ、勇者様」

「何だい、クリスティーゼ姫」


 クリスティーゼというのは私の名前です。

 クリスティーゼ・シュラインバース・アルケミシア。


 長ったらしくて覚えるのが苦なのが欠点ですが、勇者様は記憶してくださっていた様です。


「そっ、そのっ、えっと。どうしてこのような事を?」

「何かおかしいかな?」

「えっ」


 あまりにも堂々とした態度の勇者様は、この現状に何にも疑問を抱いていないようでした。


 まるで、私の自由を奪って愛を囁く事があたりまえの日常だと、そう思っているように。


「ああ、私の、私だけの姫」


 熱に浮かされているかのような様子でうっとりと名前を呼ぶ勇者様ですが、私の心は急速冷凍。

 この人怖いです。


「あっ、あのっ。勇者様、いえっ、そのっ、アルト様」


 勇者アルト様。

 彼は、普通の女性たちなら見つめただけで虜にできそうな美貌の持ち主です。

 そんなアルト様に、愛しているだなんて言われたなら、喜ばないわけにはいきませんが、そんなものに紛らわされるような間抜けではありません。


 私は一度は国の……世界の命運を背負った人間なのですから。


「何の目的でこんな事を」


 私の力に目がくらんで悪事を働こうとしているのなら、世界の敵になるというのなら、私はここから逃げ出さなければなりません。


「何をしたいのですか」


 けれど、不可解でした。


「何も、ただ姫と共にいたいだけですよ」


 アルト様はまるで私しか見えていないようで、他の事なんてどうもいいような態度です。


「なら、帰してください。国王様に、お父様に魔王討伐の事を報告したいのですが」

「大丈夫だ。私の姫、他の事なんて気にしなくていい。国の責務なんてここでは関係ない。放り出してしまえば良いんだよ。一緒に幸せになろう」


 どうしましょう

 とりあえず何とかしてここから脱出しなければ。






 ちょっとおかしな勇者様の元から逃げ出そうと決意した私ですが、脱出は思うようにいきませんでした。

 と、いうのも。


 なぜか勇者様がいらっしゃる居城がダンジョン化していたからです。


「……」


 十メートル歩けば、横の壁から弓矢が飛び出てきたり。

 二メートル歩けば、床面が開いて落とし穴になっていたり。


 三メートル歩くと、どこからともなく煙が発生して視界を遮りますし。

 四メートル歩いた頃には、同じような場所をぐるぐると周っている事にき気がつきます。


 分かりました。

 さすがに悟りました。


 だから、自由を奪うまでもない、という理由なのですね。


 頑張って歩いても、まったく出口に辿り着く気配がない事に膝をついていると、背後から気配が。


「姫、ここは危険だよ。安全な場所に戻ろう」


 勇者様の声はどこまでも慈愛に満ちたものでした。

 だからこそ余計に怖い。


 お姫様一人にここまで手の込んだ仕掛けを作るなんて。

 一体どんな恐ろしい事を考えているのだろう、と私は震えあがるしかありません。



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