8話 忍び寄る悪意
何故か少女から神様扱いされたんだけど、一体どう言うこと?
地球ではそんなこと一度もなかったんだけど。
「いや、僕は神様じゃないよ?」
「……で、でも、神様の力を纏ってますよね」
おっと、この子魔眼……いや、神眼持ちか。
魔眼や神眼を持つ者は、魔力や神力を目で見ることができる。
魔眼は数年に一人と言われ、神眼は数万年に一人と言われている。
それほどまでに神眼は貴重な存在なのだ。
ちなみに僕は神眼だけど、元は普通の眼で、神力を持っていたために神眼になった、特殊な事例らしい。天照さん曰く。
「キミ、神様を見たことがあるの?」
「は、はい。以前教会でお会いしました」
教会か。確かにそう言ったところに神様はいるね。
いない場合もあるけど。
一度挨拶に行ったほうがいいかな。
「あの、あなたは神様ではないのですか?」
「厳密には神様じゃないね」
「どうして私を助けてくださったのですか?」
「それはーー」
「リンのおかげなのだー!」
リンが首の間から顔を出した。
今はフードをかぶってるから隙間から出てくるしかないみたい。
なんのためにこの服に胸ポケットを付けたのか分かってないみたいだね。
ちょ! 首がくすぐったい! あまり動かないで!
「せ、精霊様ですか?」
「そーだよー」
「初めて見ました」
「ここら辺にはそういえばいないね」
地球ならいろんなところに湧くようにいたのに。
「精霊様たちはどこか遠くの土地で国を作ったと聞いております」
「へー。そんなに賢い個体がいたんだ」
「むぅー! リンはバカじゃないもん!」
「分かった、分かったから首筋で暴れないで」
リンは参ったかと言わんばかりに胸を張った。
全く、そう言う所がバカっぽいんだけど。
「まぁ、今回は僕がいたから良かったけど、気をつけたほうがいいよ? お姫様はこう言う輩に狙われやすいんだから」
「あ、ありがとうございました。あの、どうして私が姫だと分かったんですか? ほとんど人前には出ていないのですが」
「知り合いに姫がいてね。キミはよく似ている「姫! ご無事ですか!」おっと」
誰かが飛び込んできたと思ったら槍が飛んできた。不審者が入り込んでるって流石に気づかれたかな。
多分僕が黒づくめの不審者を壁にぶつけたからだね。
よく響いたもんね。
「じい! 待って、その方は――」
「ヌゥ! 私の一撃を避けるとは。貴様、何奴!?」
なんだか騒がしくなってきたみたい。
後は任せて帰ろうかな。
「では、お姫様。バイバイ」
僕はポケットの中から煙玉を取り出し、地面に投げつけた。
ドロン……なんちゃって。
「じい! 話を聞いてください! 彼の方が私を助けてくださったのです!」
「姫! 何を言いますか。あのような怪しい者を庇うなど!」
もう! じいの分からず屋!
「あの方があそこにいる黒ずくめの暗殺者から救ってくださったのです!」
「なんと! では私は……」
そうです。反省してください! あの神の力を持つ方に矛を向けるなど、言語道断です!
「誰か、あの曲者を捉えてください」
「はっ、承知しました」
ふぅ、安心したら力が抜けてしまいました。
ベットに腰掛けながら私は先ほどのことを思い出しました。
嫌な予感がしたのでベットから飛び起きてみれば、目の前にはあの暗殺者がナイフを取り出しているところでした。
私は慌ててベットから転がり落ちてナイフを避けましたが、次の瞬間にはもうナイフを喉元に突きつけられていました。
助けを呼ぼうにも声が出ず、もうこのまま死んでしまうと思ったところで、彼の方が助けてくれました。
彼の声に反応するように暗殺者が止まったり吹き飛んだり、すごいの一言でした。
怖かった。でも、今はなんだか顔が熱いような気がします。
もう一度彼に会いたい。
会って、お礼をして、それから……!
私はなんと言うことを考えているのでしょう!
思わず顔を手で覆い隠します。
「もう一度……会いたいなぁ」
願望がポロリと口から溢れました。
「そうか、娘は無事か」
「はっ、今は部屋でお休みになられております」
「分かった。下がって良いぞ」
「はっ」
娘が本当に無事で良かった……。
「あなた……」
「ああ、この国の者の差し金か、それとも国外か」
「国内でしょうね」
「ああ、私もそう思う」
妻の言う通り、これはこの国の貴族の仕業だろう。
そして理由はもちろん。
「女が王になるのはそれほど嫌か……」
「それしかありませんね。……ごめんなさい、私がもう子供を産めないから」
「お前のせいではない。貴族どもを抑えられない私が悪いのだ」
これまでエルムス国は初代を除き五百年間の間ずっと男が国を治めてきた。
私達の間には娘が生まれたが、その際に妻は病で子供が産めなくなってしまった。
それからというもの、貴族たちの一部が、娘が王になることを強く反対し出した。
なんとか今までは抑えてきたが、それももう限界のようだ。
「すまないな」
「情けないですよ、現国王がそのような態度でどうします。若い頃のあなたはもっと輝いておりましたよ。ウォルス・リフィト・エルムス」
「……そうだな。私がしっかりしないとな。ありがとう、エルミア」
私達の子、フィリアのためにも、私が頑張らなくてはな。
「何! 失敗だと!?」
「申し訳ございません。 何者かによる乱入があったようで」
「ふざけるな! これではあの小娘が国王になってしまうではないか!」
クッチャクッチャと音を立てながら脂肪の塊のような男が骨つき肉を口にし、鬱憤を晴らすように部下に食べかけのそれを投げつけた。
部下の顔にそれが当たったが、部下は身じろぎひとつしなかった。
「あんな小娘にこの国は任せられん! どうにかしてあの地位から引き摺り下ろさねば……」
男は思案を巡らせる。
両手が油でベトベトなのだが、それを気にすることなく頭をかきむしった。
しばらくの間そんなことをしていたが、男がにちゃりと醜い笑みを浮かべた。
「おい、お前に特別に機会をやろう。……失敗を帳消しにする、な」
どんなことをやらされることになっても、それをこなさねば自分がどうなるかくらい部下は分かっていた。
故に、部下が答えられる言葉はただひとつ。
「なんなりと申してください」
ただそれだけだった。