7話 殺意
「えっと、言い忘れてたんだけど、僕は唯斗。言いにくかったらユートでいいよ」
「これは大変失礼を。私はロンドと申します。ユート様」
「いや、様とか付けなくていいよ。僕は別に神ってわけじゃないんだ」
「何を仰いますか! 神でなければあの様なもの創ることはできません」
こりゃダメだね。完全に信じきっちゃってるよ。
こうなったらちゃんと正しく伝えた方がいいかな。
変に否定すると余計ややこしくなっちゃうから、困ったときは本当のことを話すのが一番だ。
「あのね、本当に僕は神じゃないんだ。確かに僕は神の力、神力を持っているけど、正確には神様じゃないんだ。神の眷属っていうのが一番正しいかな」
すると、ロンドさんは真剣に聞いているようだった。彼なりに僕が嘘をついているのか本当のことを言っているのか確かめているようだ。
「……分かりました。ユート様は神ではないのですね」
「うんだから様は――」
「ですが! 神に準ずる者であることには変わりありません!」
「そ、そう」
もう修正は無理だね。一応本当のことは伝えたし、それでも態度が変わらないなら無理に変えるのも申し訳ないか。
「それで、僕の目的なんだけど」
「ええ、あの短剣を売りたいとのことですが、よろしいのですか?」
「うん。使わずに置いておくのは勿体無いからね」
「ですが、ご自身がお使いにならないのですか」
「僕は使わないね」
「分かりました。……では金額はこちらでどうでしょうか」
ロンドさんが手を叩くと、部下っぽい人が入って来て山盛りの金貨を置いていった。
「えっとこれは一体?」
「申し訳ございません、あのような神剣と言うべき短剣にこのような端金しかご用意できず……」
いや、十分多いんだけど……。
「ギルドからお金を降ろしてくればもっとご用意できるのですが、今すぐにとなると……」
「いや、十分多いから」
「そんな! あの短剣に値段をつけるのならこの十倍はします」
十倍!? もうすでに金貨何百枚とあるんだけど……。
っていうかあの端に置いてある金貨の小山って王金貨じゃないの?
実物は見たことがないからわからないけど。
適当に作った短刀でこんなにもらっても困る。
なので大きな金貨の山から数枚手に取る。
「こんだけで十分だよ」
「何を仰いますか!? それでは私は納得ができません」
なんで商人が金額を上げて僕が下げてるんだろう……。
「分かったよ。なら、今日の宿代を払ってくれないかな。僕、泊まるところがまだないから」
「それなら、私の経営する宿に泊まりますか? もちろん今後の宿代はいりません」
「いや、でも流石にそれはーー」
「いりません」
これはもうお世話になるしかないな。多分、ロンドさんは一度決めたことは死んでも突き通すタイプの人だ。
「それじゃあ、お願い。あと、短刀のお金はロンドさんに預けておくっていうのはどうかな」
「私に、ですか?」
「うん。あんなに貰っても使いきれないし、もし余ったら投資という形でロンドさんにあげるよ。ロンドさんならうまく使うでしょ?」
「……そこまで信用していただけるとは、感激でございます」
「いや、そんな泣かないでよ」
僕はそんなおっさんの泣き顔なんて見たくない。
「それでは、宿の方は準備させていただきます。この店の隣になります。受付にお名前を伝えていただければ案内させますので」
「うん、色々とありがとう」
これで宿の心配はしなくていいかな。
僕はロンドさんの店で商品を見て回ったあと、隣の宿屋へと向かった。
やっぱりでかい。ロンドさんの店と同じくらいあるだろうか。
一般の家屋の三倍は面積がありそうだ。
中に入ってみると、思っていたよりもかなり綺麗だった。
科学が進歩していないためか、木造建築がほとんどだ。
塗料なども塗られていないため木目が丸出しなのだ。
建物は土足で入るため汚れやすいのだが、ロンドさんの店と同様に隅々まで掃除が行き届いている。
こういったところがロンドさんの店が大きくなった理由なのだろうか。
「こんばんは、ユートだけど話は聞いてる?」
「はい、伺っております。先にお食事になさいますか? お部屋にお運びすることもできますが」
「なら食べて行こうかな」
「では、こちらへどうぞ。大食堂になっております」
受付の女性についていくと、ガヤガヤと話し声が聞こえて来た。
「こちらの大食堂は一般の方もよく食べに来てくださるんですよ」
なるほどね、宿兼お食事処ってことか。
食事を済ませ部屋を案内してもらうと、僕はベットにダイブした。
あ、料理は美味しかったよ? あれだけ混んでいた理由がわかったよ。
「あー、疲れた」
初日にしてはいろいろあったな。
それにしても王城に恐竜を転移させてしまったのは失敗だった。
下手をすると指名手配されるところだったよ。
「ふわー」
今日のことを思い出していると、フードの中からリンが這い出て来た。
そういえば、ずっと出てこなかったけど寝ていたのか。
まあ、いつものことだけど。
「リン、随分とお寝坊さんだね」
「うー、ユートのバカ。全然構ってくれないんだもん」
「仕方ないでしょ、異世界初日だよ? 」
「それでもだよー」
リンはぷんぷんと怒る。仕方ないので指先で優しく撫でてやると、さっきまでの怒りがなんだったかのように晴れ晴れとした笑顔になった。
全く……
「むぅー」
でも途端にリンが唸りだした。
「どうしたの? リン」
「なんだか嫌な感情が聞こえる。ここから近いよー」
「どんな感情? どっち?」
「あっち。これは……殺意」
どうやら寝る前にもう一仕事あるようだ。
リンの指し示す方向は王城の方だった。
随分と今日は王城に縁があるんだけど、なんでだろうね。
流石に王城で顔がバレるのはマズイので、とりあえずリュックの中から仮面を取り出して付ける。
この仮面は自分を隠したい時によく使う。
右目の下に書かれた雫がチャームポイントだ。
この宿から王城までは割と近い方だ。
神力で身体能力を強化すると、家の屋根を足場に走り、王城の塀はそのまま飛び越えた。
「リン、どこ?」
「あそこの部屋」
その部屋は5階にあった。
そのため、庭に生えている木を足場にひとっ飛びし、3階のベランダに乗り、そこから目的の部屋のベランダまで飛び上がった。
窓は開いていた。どうやら先客が開けたようだ。
中に入ると真っ黒な姿をした怪しい人物が少女の喉にナイフを突き立てる瞬間だった。
「【止まれ】」
いつものように言霊を使って対象を縛り付ける。
神力を使っているのでそうやすやすと拘束を解くことはできないはずだ。
「ふぅ、危なかった」
少女は大きな涙を流しながらその場でへたり込んでいる。
ああ、不審者が邪魔で動けないか。
「【吹き飛べ】」
不審者は何かにぶつかったように吹き飛び、壁に激突して気絶した。
「大丈夫?」
僕が手を差し伸べると少女はその手を――
「あ、ありがとうございます。神さま」
取らずに頭を下げた。
……どして?
12月17日9:52
設定とは異なる文章がありましたので変更しました。
削除部分
『科学が進歩していないためか、木造建築がほとんどだ。
塗料なども塗られていないため木目が丸出しなのだ。』
12月17日11:44
上記の方がイメージしやすかったため、元に戻しました。
何度も変更してしまい大変申し訳ございません。
今後このようなことは無いように気をつけたいと思います。
よろしくお願いします。