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2話 トラベラー

 僕が目を覚ました時には、何故か縄で両手両足を縛られたうえ、父さん、母さん、姉さんの3人が僕の周りを囲んでいた。


「さて、何か言いたいことはあるか?」


 父さんが無表情で尋ねてくる。

 というより、全員無表情だね。これは完全に怒ってるね。


「話をしようとしたら姉さんに気絶させられて、こんな状況になってるんだけど、先にそっちを説明してもらっても?」

「簡単な話だ。ただお前に逃げられないようにしただけだ」

「そんなことしなくても逃げたりしないって」

「そんなことを信じるほど馬鹿な俺たちではない。それで、どうして家出なんてしたんだ?」

「そうだね、何から話そうか」


 正直、僕が今回帰ってきたのは全てを話す決心をしたからだ。

 もちろん、家族に心配をかけ続けるということに罪悪感を感じているというのもあるけれど。


「じゃあ、まずは3人には心配をかけたね。……本当に申し訳ございませんでした」


 僕は縛られたままだが、3人に深々と頭を下げた。

 頭を上げると、驚いた表情の父さんと目が合った。


「そ、そうか。……まあいい、それで何があった? 誘拐でもされていたのか?」

「そんなことはないよ。僕は僕の意志で家を出たんだ」

「なら、その理由を聞かせてもらおうか」

「まず一つ目の理由なんだけど……」


 僕はいつものように意識を集中させる。そして――


「なっ!?」「どうして!?」「えっ!?」


 3人の驚く声が聞こえる。まあ、それは驚くよね。

 突然、()()()()()()()()()()()()


「これがひとつめの理由。僕には他の人にはない力があるから」

「……一体何をしたの?」

「母さん、これはある人から教えてもらったんだ。旅に出るのなら自衛する方法は必要だから」

「それはいったいどういうものなんだ?」

「まあ、効果はいろいろかな。今のは自分の身体能力を高めて縄を引きちぎったんだ」

「……そうか」

「あれ? 案外驚いてないみたいだね」

「いや、十分驚いているさ。まさか、唯斗が俺の爺さんと同じことができるとは思っていなかった」

「父さんのおじいさんって確か……」

「ああ、相当な武術の使い手でな。氣と呼ばれる身体能力を上げる力を使うことができた」


 父さんのお爺さんも似たようなことできたんだ。ならそれも僕がこの力を使えたのと関係あるのかな……


「氣ね……まあ、それとよく似たものだと思ったらいいよ。厳密には違うけど」

「分かった。で、その力が使えるから家出したのか?」

「いや、その力が使えるのは本当の理由の一部でしかないよ」

「ならいったい、どうして家出することになったんだ?」


 そんなに怖い顔しなくたってちゃんと言うよ。


「僕は昔から何かが見えるって言ってたよね」

「ああ。だが、それはただ、お前が作り出している幻想に――」

「それって本当にあるんだよね」

「……まだそんなことを言っているのか? そんなものはない」

「そういうと思ってたよ。でもね……。リン出てきていいよ」


 僕はフードを少し広げてそこに話しかける。

 すると、羽の生えた人型の小さな生物が飛び出てきた。


「呼ばれましては、じゃじゃーん! リンはリンっていうんだよ! よ・ろ・し・く・ね?」


 なんだよ、その飛び出し方……。

 でも、3人はちょっと驚いたみたい。


「……なんだ? それは。 人形?」

「でもあなた、あれ動いてるわよ?」

「二人とも見えているの?」


 リンは自慢げに胸を張って僕の頭の上に立っている。

 何度も言っているのだけど、頭の上じゃなくて肩に乗ってほしいな……。


「これが2つ目。幽霊や妖怪、精霊はちゃんと実在するよ。実態化できるのは本当に少ないけど」

「……そんなばかな」

「でも実在してるでしょう? 僕の頭の上にいるのが精霊だよ」

「……触ってみてもいい?」

「いいよ。姉さんもその方が分かりやすいでしょ」


 姉さんはゆっくりと僕に近づき、恐る恐るリンに手を伸ばし、そっとリンの頭を指先で撫でた。


「本当だ……。実際にそこにある」

「……私も触っていいかしら?」

「……俺も」

「いいよ」


 二人も恐る恐ると言ったように触り始めた。

 父さんは撫で方が雑だったためか、リンが嫌がって俺のフードの中へと隠れてしまった。


「これで分かった?」

「……ああ、信じるしかないな。本当にすまなかった。お前の言うことを信じてやれなくて」

「私もごめんなさい。私の子供なのに理解してやれなくて」

「私もごめん」

「いいよ、別に。そのことに関しては特になんとも思ってないから」


 学校のクラスメイトに馬鹿にされたのは嫌だったが、家族のみんなは心配しているのだと分かっていたため、特にどうとも思っていないことは本心だ。


「これがお前の家出した理由か?」

「いや、確かにこれも理由の一つだけど、一番の理由は別のことだよ」

「それは?」

「それはね。僕は、僕はトラベラーになりたかったからなんだ」

「トラベラー?」

「そう、トラベラー。ある人に聞いたんだ。僕にはトラベラーが向いているって」


 そう、彼女が僕の人生を変えてくれた。


「ある人って誰だ?」

「ある人っていうのは――」

「そこからは私がお話ししましょう」


 噂をすれば何とやら。

 突如、僕のとなりに噂の人物が現れた。

 人間離れした美貌を持つ彼女。

 僕は彼女に再び会えたことで感激のあまり抱きついてしまった。


「久しぶり。天照(あまてらす)さん」

「おかえりなさい。唯斗」


「「「天照!?」」」


「うん、紹介するね。この人がさっき言っていたある人。僕の人生を変えてくれた、天照大御神(あまてらすおおみかみ)。日本の神様だよ」


「「「ええぇぇぇぇ!!!」」」







「天照っていえば、あの……?」

「ええ、その天照で間違いありませんよ」

「神様ってホントにいるんだ……」

「私以外にも居りますよ。滅多に人前には姿を現しませんが。……先に言っておきますが、私を大げさに敬ったりしないでくださいね。私は今回お話をしに来たのですから」


 そう言って笑う天照様はものすごくきれいだった。

 でも、私は納得することができた。だって、こんなに綺麗な人間見たことないもの。


「……お父さん、ぼけーとしてないで」

「っ!! おお、すまん。……謝るから、母さんもそんなに睨まないでくれ」

「私は睨んでなどいないわ」


 神様の前で喧嘩なんてしないでほしいのだけど……


「それではまず、謝罪させてください」


 そう言って天照様は頭を下げた。


「そんな、頭を上げてください!」


 お父さんの言うとおりだ。あの有名な天照様に頭など下げさせられない。


「唯斗にトラベラーを勧めたのは私です。ですから、唯斗の家出には私にも責任があります」

「すみません、そのトラベラーというのはなんなのでしょうか」


 それは私も気になっていた。お母さんも同様のようで頷いている。


「トラベラーというのは、文字通り旅をする者のことです。ですが、私たち神が言うトラベラーというのは人間が言うトラベラーとは意味が違います」

「その違いとはなんなのですか」

「私たちが言うところのトラベラーとは、数多の世界を旅する者のことです」

「世界は一つではないのですか?」

「はい。この世界は地球と呼ばれていますが、世界はこの地球だけではありません。他にも多くの世界が存在します。その世界を渡り歩く者のことをトラベラーというのです」

「……なるほど。納得はできませんが、神様が言うことです。世界は一つではないのでしょうな」

「ご理解いただき感謝します」

「それで、どうしてうちの唯斗がそのトラベラーに向いているのですか?」

「唯斗の力はご存知ですね」

「はい、先ほど見ました」

「あれは唯斗の力の一端でしかないのですが、唯斗は珍しくも人間でありながら神力を使うことができるのです」

「神力?」

「神力とは、文字通り神の力と書いて神力と読みます。人間の中にトラベラーに成る者は極稀にですがいますが、その者達は、魔術や超能力と言った力を使って世界を渡ります。しかし、それの上位互換である神力を持つ唯斗は、最もトラベラーに向いているのです」

「それで唯斗にトラベラーを勧められたのですね」

「ええ。もちろん他の道も教えたのですが、どれも気に入らなかったようで」


 なるほど。でもそれじゃあ、唯斗は今まで世界を旅していたってことなのかな?


「それでは、今まで唯斗は世界を旅していたのですか?」


 お父さんもそれに気がついたみたい。


「いえ、世界を渡るには条件がありまして、その世界をある程度旅していないと他の世界にわたることはできないのです。そのため、唯斗にはこの地球を旅してもらうことになったのです」

「なるほど。理解しました。では、唯斗は次の世界にわたる条件を満たしたのですな」

「はい。条件は満たされました。今すぐにでも次の世界に行くことはできるでしょう」


 え、それじゃあ、唯斗はもう行っちゃうってこと……?




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