表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/161

15話 豊穣を司る神

「大人しく捕まれクソガキ!」

「【止まれ】」

「うぉッ、クソ!」


 ーー数分後。


「ほら、一緒に行こう。ね?」

「下心丸出しすぎ、【眠れ】」

「……グゥ」


 ーー数分後。


「俺と世界を目指そうぜ!」

「意味がわからない。【どっか行って】」

「俺と! 世界をぉぉぉぉ……」


 先程から何が起きているのか。

 説明は簡単だ。


 報酬のいい依頼に目が眩んだ奴らが僕を捕まえようとしているっていうだけ。


 最後の奴はよく分からないけど。


 リンが僕の頭の上にいるから余計に目立つんだよね。


「おいしいー!」


 僕の頭の上でリンゴを食べないでほしい。

 汁が溢れてるじゃない。


「リン、今日はどうする?」

「予知するー?」

「どうしようかな」


 ロンドさんに、次に職人に会いに行く日を聞いたら一週間後って言われたんだよね。

 だから今日はどうしようか。


「そういえば教会に神様がいるって言ってたな」


 この国の姫は確かにそう言った。

 前から一度挨拶に行こうと思ってたんだけど……。


「まさかあの暴力シスターの信仰する神じゃないだろうね?」


 それだったら積極的に会いたいとは思わない。

 いきなり喧嘩をふっかけてきても困るし。


 でも勝手な想像で会わないって決めるのも嫌だな。


「リン、今日は教会に行こうか」

「いいよー」


 展望台に登って時に場所は確認してある。

 かなり大きな建物だったからすぐに分かった。


 僕らは襲って来る人たちを適当にあしらって教会へと向かった。

 話が通じる神だったらいいんだけど……。





 移動している間にまたリンが寝てしまった。

 食っちゃ寝してるけど太らないのかな?

 太ったリンは見たくないんだけど。


「ここだね」


 数十分歩いてようやく教会についた。


 教会は木造建築じゃなくて石造建築でできている。

 こういった所にはお金が集まるし、権力もあるからだろうね。

 流石に城ほど大きくはないけれど、教会もかなり広そうだ。


 石造といっても城と同様にただの石ではなさそうだ。

 日の光に少し輝いて見える。


 中に入ると、何人か長椅子に腰掛けて祈りを捧げているようだった。


「どういったご用件でしょうか?」


 立ったまましばらく様子を伺っていると、部屋の隅で立っていたシスターが声をかけてきた。

 どうやらこのシスターは話が通じるようだ。昨日の暴力シスターとは大違いだ。


「いや、ちょっとした挨拶にね」

「教皇様にでしょうか? 申し訳ございませんが、一般の方はお会いすることはできません。それとも何かお約束されていたのでしょうか」

「違うよ。僕はその教皇様っていう人に会いにきたわけでもないし、約束をしていたわけでもない。それよりも一つ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「はい、なんでしょうか」


 若干訝しんでるみたい。でもちゃんと話が通じるっていうのは嬉しいね。


「昨日冒険者ギルドのシスターと会ったんだけど、あのシスターとキミたちって同じ神を信仰しているの?」

「そんなわけあるはずがないじゃないですか! あのような乱暴者と一緒にするのはおやめください!」


 怒られた。

 そうだよね。同じだったらどうしようかと思ったよ。


「あの方の信仰されている神様は武を司る男神様で、私たちの信仰している神様は豊穣を司る女神様です。武の神様はとにかく強い方がお好きなようで、強い方には力をお与えになるようです」


 なるほどね。

 強ければ性格なんてどうでもいいっていうわけか。

 ……まさか悪人にまで力を貸してないだろうね?


「ふふ、ご安心ください。悪い人にまで力をお貸しになることはありませんから」

「顔に出てた?」

「ええ」


 僕ってたまに顔に出ちゃうんだよね。ああ恥ずかしい。

 取り敢えず、話し合いが通じそうでよかったよ。

 ()()()もきたみたいだし……。


「初めまして、豊穣を司る女神」

「えっ?」

「なんじゃ、気づいておったのか」


 そりゃ、そんだけ神力を撒き散らしていたら気づきもするって。

 にしても小さい神様だな。小学生くらいの身長しかない。


「アルミルス様!?」


 シスターさんだけでなく、その場にいる全ての人が頭を下げた。

 僕を除いてだけど。


「ほほぉ、これだけの神力を受けても平然とするとは。お主何者じゃ?」

「ちょっとした旅人だよ。僕は唯斗。呼びにくかったらユートでいいよ」

「わしはアルミルス。お主が言ったように豊穣を司る女神じゃ。お主とは少し話がしたい。少々場所を変えるが良いか?」

「いいよ」


 許可を出すと同時に視界に映る風景が変わった。

 小高い山の上のようで、見下ろすと先ほどまでいた街が見えた。


「では改めて、僕は唯斗。よろしくね」

「うむ。ユート、お主は旅といったが、もしかするとトラベラーかのぅ?」

「そうだよ。地球って呼ばれていたところからきたんだけど」

「おお、昔、確かそんなことを口にした若者がおったのぅ」


 僕と同じトラベラーか、不慮の事故で転移した人かな?


「しかし、お主には神力が宿っておる。神ではないのか?」

「いや人だよ?」

「そうか……ふっ!」


 まずい!

 アルミルスの拳を避けるように僕はその場から飛び退いた。

 僕が先ほどまで立っていた場所に目を向けるとアルミルスの拳の風圧で抉れていた。


「人の身で神になった神殺しか。わしを殺しにでもきたか?」


 ……何か盛大に誤解していらっしゃるようで。


「一体なんのことかーー」

「惚けるな! わざわざ教会にまで乗り込んできよって。わしの力を奪おうとでもいうのか!」

「いや、別にそんなことーー」

「問答無用!」


 くそっ!


 アルミルスの拳を避ける。避け続ける。


 一撃一撃にかなりの神力を込めている。

 当たったらタダでは済まないだろう。


「話を聞いてくれないかな!」

「お主の言葉など聞く必要はない!」


 アルミルスはどこからか槍を取り出し、僕めがけて突き刺してきた。

 それを紙一重で避け、一度距離を取ろうと後方へ下がろうとするが、何かに足を取られた。


「かかったな!」


 見れば植物に足を取られていた。

 どうやらアルミルスの力で植物を操っているらしい。


「まずっ!」

「油断したお主が悪い。後悔して死ぬが良い!」

「がはっ!!」


 アルミルスは槍を手放すと、神力を込めた右手で僕の心臓を貫いた。

 僕の口から大量の血が溢れ落ちる。

 そして……。







「ふぅ、終わったか……」


 数日前のことじゃ。わしのいるこの街に一人の子供が入ってきた。

 それはおかしいことではない。この街は王都。

 他の町からくる人間もたくさんおる。


 だが、こやつは普通の人間とは違った。

 神力を持っておったのじゃ。

 人の身で神力を持つものなど存在せぬ。

 わしら神が力を貸し与えたのとは訳が違うのじゃ。


 故にわしはずっと見張っておった。

 すると今日になってわしの住む教会へ直接乗り込んできたではないか。


 故にわしは思った。

 こやつはわしを殺すことによってさらなる力を得ようとする、元人間の神殺しだと。


 昔、神を殺すことによって神の力を得た者がいた。

 結局身に余る力を得て狂い、死んだがのぅ。


 だがこやつは力を使いこなしておった。

 恐ろしく危険な奴じゃ。


「だが、これでーー」

「ああ、久しぶりだよ。こんなに死にかけたのは」

「何!?」


 あれを食らって生きておるはずがない!!

 確実に心臓を潰したはずじゃぞ!?

 何故()()()()()()()()()のじゃ!?


「流石にやられっぱなしは嫌だから、ちょっとばかり本気を出そうかな」


 わしの目に映る奴の姿が化け物のように見えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ