表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
154/161

132話 神の力

『力を持てば、それ相応の困難が待ち受けている』


 出会い頭に、魔術の師匠は僕にそう言った。加えて、その覚悟があるのか、とも。

 その時の僕はまだ何も知らない。未知や出会いを想像していた、ただの少年。

 “自由”に憧れた、どこにでもいるただの少年だった。


 神力の力を多少なりとも使えるようになって、増長していたのかもしれない。……いや、実際そうなんだろう。

 僕は、師匠の言う困難の重みを理解していなかった。

 ……リンの死という現実に、耐えきれなかった。


 そうなる運命だった? ……いや、違う。

 力を持てば、当然それを振るうことになる。そして振るったが最後、もう後戻りはできない。


 結局のところ、僕がリンを巻き込んでしまったんだ。

 僕が本当になんの力も持たない少年のままだったのなら、こんなところまで旅をすることもなかっただろうからね。

 ……でも、何度考えても、何度自分に問いかけても。“他の誰かを助けなければよかった”、なんて答えは浮かんでこない。


 僕は馬鹿なんだ。リンにもいつも言われていた。

 僕は学習能力のない馬鹿。大馬鹿だ。

 だから……、助けるよ。

 僕が僕であることを証明する。

 たとえ()になっても変わらないっていうことを。


 ――証明するッ!






 街の外から聞こえてきた腹に響く爆発音と同時に、僕らは互いに駆け出した。


 フィリアを助けるには、まずは動きを止めないといけない。

 でも、さっきみたいな力を使った拘束はダメだ。単純だけど、あれはなかなかに高度な術。

 流石にそんな術を使いながらフィリアを元に戻すなんて高等技術は、僕にはできない。

 となれば、必然的にフィリアを気絶させる他ないわけなんだけど……、言うは易く行うは難し。

 以前の僕と同等の力を持った神のような存在を相手に、殺さずに手加減をする、なんて条件がついてくる。

 ……もうちょっと困難のレベル、下がらなかったのかなぁ。

 まぁでも? 幸い、フィリアに戦いの技術はない。

 たとえ世界最強の力を手に入れたとしても、それを扱う技術がなければ宝の持ち腐れ。

 か弱い少女が相手なら、そこまでの脅威は――、


「……」

「えっ?」


 フィリの首を狙った手刀が、あっさりと捕らえられる。そして次の瞬間には、僕の視界は青空が見えていた。

 背中に洒落にならない衝撃が走る。


「――ゲフゥッ!?」


 むせている間に、フィリアの小さな拳が僕の顔面へと近づいて……、


「ちょっ!?」

「……」


 咄嗟に首を曲げて、その拳から逃れる。

 横目で見てみれば、顔のすぐ側の地面へ。それも拳ひとつ分どころか、手首を超えて深々と突き刺さっていた。


「……あれ?」


 ……か弱いって、なんだったっけ?

 今すぐに日本に帰って、辞書を引き直したい。


「……フィリア、どうしてそんなに強いのかな? ……なんて」

「……」


 ダンジョンコアを飲まされたのは分かる。

 でも、だからといって戦闘技術まで覚える?

 今の動きは、その辺の引きこもり少女にできるような動きじゃなかったよ?

 ……と、そんなことを言っている場合じゃないか。

 追撃が来る前に抜け出して……て、体の重心を抑えられてるせいで立てない。

 なら、


「痛かったらごめんね? 【吹き飛べ】」

「ッ!?」


 フィリアの腹部に手を当てて、術を発動。神力で練り上げられた神術によって、フィリアの体が宙へと浮く。

 ……というよりも、空高く打ち上げられた。


「……あ」


 風の力で持ち上げる程度にしたはずだったのに、フィリアがホームランボールのように飛んでいる。

 ……なんで?


『言い忘れていたが、お前の神力は以前とは別物だ。今まで通り使っていると、色々と破壊しかねんぞ』


 と、明らかに手遅れな忠告をしてくる、憎たらしいやつ。


「もっと早く言ってくれないッ!?」

『言っただろう? 言い忘れていたと』

「そんな重要なことを言い忘れないでよッ!!」


 ……いや、言い争っている場合じゃない。

 早くフィリアを助けて、


『いや、その必要はない』

「はぁ? どうして――」

『それよりも、避けるなり防ぐなりしろ。死ぬぞ』

「え?」


 ふと見上げれば、目前に禍々しい剣を手にしたフィリアの姿が。


「ッ!?」


 咄嗟に腕を前に出す。

 すると、刀身から柄までが真っ白な、見覚えのある剣が手の中に出現した。

 握りしめ、力を込めてその一撃を耐える。


「ッ……危なかった。って、これはリチェルさんの……」

『危機一髪でしたね』

「この声はリチェルさん……。ありがとう、助かったよ」

『いえ、私は何もしていません。あなたが無意識に願い、剣がそれに答えたのでしょう』

「そっか……。でも、ありがとう」


 手に馴染ませるように数度振り、フィリアへと切っ先を向ける。


「……ふぅ」


 一呼吸。

 にしても、僕が思っている以上にフィリアは強い。

 それがムトの強化によるものなのか、はたまたフィリア自身がそれだけの力を持っていたのか……。

 どちらにせよ、フィリアを無傷で抑えるのは厳しそうだ。


『自由を奪ってから気絶させれば良かろう?』

「そんな簡単に言わないでよ。あの術は随分と神力を食う上に、集中して練らないといけない。油断している時ならまだしも、今みたいに警戒されている状態でかけることなんてできないよ」

『はっ、我なら数秒でかけると言うのに』


 成り立ての神にそんな高等技術を要求しないで欲しいな……。

 それに、神力の質が変わったせいで力を調整しないといけないんだ。

 それらを同時にする自信はない。


『……術を練る、ですか。ユートは術を発動する際に陣を使用しているようですが、それが無いと発動できないのですか?』

「えっ? 確かにそうだけど、リチェルさん。その言い方だと、力の発動に陣は必要ないって聞こえるけど」

『ええ。と言いますか、神の中で陣を使用する者がいるとは、聞いたことがありませんが』

「……うそ」


 そんなの、師匠からは一度も……って、そうだっ! 神術は僕のオリジナルだった。

 師匠からは神力の扱い方を教わっただけだ。


「神術って、陣を使わなくても使えるの?」

『神術……神力を使用した術のことですか? …ええ。神であれば、誰もが手足を動かすように使えるでしょう。むしろ、あなたのような使い方をしているのは初めて見ました』


 そんな……。いや、待てよ。

 もしかすると、僕が半人半神だったのが関係しているのかも。

 あの時の僕は半分神ではあったものの、もう半分は人間だった。

 だから、神であるもう一人の僕は自由に神力を使えて、人間である僕には制限がかかっていた……とか。

 いや、でも言霊はどうだろう? あれなら陣を使わなくても発動できる。けど、言霊にはいくつも制限が……っと。

 今は究明している場合じゃない。


「リチェルさん、どうやったら力を使えるの?」

『それは――』

『おい、待て。何故我に聞かん』


 ……それは、


「だって、キミって教え方下手そうだし」

『んなっ!……』

「それで、リチェルさん。どうしたら力が使えるの?」

『本来、司るもの以外の力は使用できません。が、あなたの“自由”であればそれは問題ないでしょう』

「うん。それ――でッ!」


 切りかかってきたフィリアの太刀筋をずらして、距離を取る。


「それから?」

『手足を動かすように、神力も動かすのです。そして、その力に願いを込めれば――』

「こうかなッ!」


 神力の扱い方は、以前から知ってる。

 だから、あとはその使い方さえ分かれば……、


「……ッ!?」


 ゴウッ! と、台風のような風がフィリアへ向かって進んでいく。

 子供が全力で走った程度の速さだ。威力はあるけれど、簡単に避けられてしまうような風。

 間違いなく、僕が願い、想像した力だ。


「ははっ」

『……凄いですね。たったあれだけで実現してしまうなんて』

「元から、神力には慣れていたからね」

『そうとは言っても……』

「それよりも、リチェルさん。ありがとう」

『……いえ。私は少し助言をしただけですから』


 もう少し、この力に慣れる必要はありそうだ。

 今の練度じゃ、陣を組み上げるのとほとんど変わりない。だけど、もう何度か試せば、陣を使わなくても術が使える。

 陣が無い分速く発動できるし、必然と陣を思い浮かべる必要もなくなる。

 そうすれば、おそらく……。


「よしっ!」


 気合を入れ、剣の柄を握り直す。

 これで……、これでやっと二人を救えそうだ。


 飛ぶように向かってくるフィリアを見据え、戦いの感覚へと身を委ねた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ