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13話 戦闘狂シスター

 どうしてこんなことになってるんだろうね。

 今の状況を簡単に説明すると、シスターに襲われている。


 性的な意味じゃないよ? 物理的に。


「おらぁ! どうした? テメェはその程度かぁ? あ゛ぁ゛!?」


 シスターの放つ異常なまでに重たい拳を捌きつつ、後方へと下がる。


「ねぇ、いきなり襲うなんて酷いんだけど」

「あ゛ぁ゛? 俺がテメェを襲う理由なんざ一つしかねぇ。……楽しいからだ!」


 うわぁ、出た。バトルジャンキーだ。戦いに飢えた人だ。

 地球にもいたよ、そんな人たち。僕の苦手なタイプだ。


 この人種の困ったところは話し合いが一切通じないって言うところだよね。


 何を言っても無駄。唯一会話する方法が殴り合いっていうね。


「おらぁ! 来ねーならこっちから行くぞ!」


 とりあえず、あんな強力な一撃をもらうわけにはいかない。


「【止まれ】」

「おぉ!?」

「キミにはしばらくそのままでいてもらうよ」

「クソッ! なんだこれ、体が動かねー!」


 これでしばらくはーー


「チッ、死に損ないのクソ神! 力を貸しやがれ!」

「嘘でしょ!?」


 強引に破ってきたんだけど!?

 いや、これは……。


「……神力」

「おお、よく知ってんな。俺にこれを使わせるたぁ、やるじゃねーか」


 なんでこんな人が神力使ってるの?

 いや、理由はわかってる。神の加護だ。


 一般人でも神力を使う方法。それは神から加護を受けることだ。


 そうすれば、神の力を借りることができる。

 でもただ借りるというだけ。

 身体能力の強化はできても、それ以外に自由に使うことはできない。


 僕が作った短刀のように何かに神力を込めることなどはできない。


 それは分かっている。


 問題は、


「なんでこんなバトルジャンキーに加護を渡したの?」


 謎。

 全くの謎だ。

 彼女の信仰する神も戦闘馬鹿なのか?

 それなら一理ある。


「さーて、第2ラウンドと行こうか?」


 付き合いきれないよ、もう。


「ねぇ、この辺でやめるつもりはない?」

「はぁ? 何言ってんだ? こっからがおもしれーところだろ?」


 はぁ、ほんと嫌になるよ。


 なんか観客も増えてきてるし。

 仕方ないか、こんだけ暴れていれば人も集まるよね。


 ねぇ、賭けとかしないで欲しいな。


「来ねえならこっちから行くぞ!」


 もういいや。

 観客も含めて有罪(ギルティ)


「【威圧】」


 レン以外の人間すべてが気絶し、その場に倒れた。

 もちろんあの暴力シスターも含めて。


「……な、なにが?」

「レン、今のうちにギルドの中を見てこよう」

「あ、ああ」

「どうかした?」

「いや、お前ってすごいやつだったんだな」

「怖い?」

「いや、単純に驚いただけだ」


 ふむ、嘘は言ってないね。


「まさかこの国で五本の指に入るほどの強者である冒険者ギルドのマスターを倒すとは思わなかった」

「マスター?」

「この冒険者ギルドで一番偉い人物だ」


 ……控えめに言ってこの冒険者ギルドは終わってる。






 中に入ってみると、部屋の中心に大きなボードが置かれ、ボードにはたくさんの紙が貼り付けられていた。


 奥には一番から五番までのカウンターがあって、各カウンターに人が立っている。


「あのボードに書かれている様々な内容の依頼書を持って、奥のカウンターに提出する。そして、その依頼をこなしてお金をもらうっていう仕組みだな」


 なるほど、簡単に言えば何でも屋ってことかな。

 ボードを見てみると草むしりや掃除から、魔物の討伐と幅広い仕事がある。


 流し読みで見て行くと、何やら見てはいけないものを見てしまった気がした。


「……ねぇ、レン。あれ、何?」

「ん? 王族からの依頼書か、珍しいな。内容は……精霊様を連れた少年の捜索?」


 うーん、やっぱりリンを見られたのはまずかったかもしれない。

 すぐに特定されちゃうもんね。

 

「レン、これがいつ張り出されたかわかる?」

「今朝来た時はなかったからさっきなんじゃないか? 一応朝昼晩の三回に分けて張り出されるからな。だけど、王族の依頼書は最も最優先されるから正確な時間は受付に聞かなきゃわからないな」

「そう、ありがとう」


 ロンドさんの宿でリンが見られているから、その場にいた人の中に冒険者がいればすぐにでも僕を捕まえようとするはず。

 でも、今だにそう言った輩がこないということはまだ知られていないんだろう。


 仮に見つかったとすれば、何がなんでも僕を捕まえようとするだろう。

 そうなったら面倒だ。


 ならひっそりと生活するか、他国に行けばいい。

 普通ならそう思うかもしれない。


 でも、僕はそうはしない。


 あくまで僕の信条は()()に旅をするということだ。


 他者が僕に何をしようと、僕は自由を貫き通す。


 それが僕の(じんせい)だ。


「レン、僕は受付の人に話を聞いてくるけどキミはどうする?」

「なら俺はここにいる。新しく出た依頼書に目を通しておきたいからな」

「分かった」


 受付に向かうと、女性が立つカウンターには長い列ができていたけど、男性が立つカウンターにはほとんど人はいなかった。


 まぁ気持ちはわからないでもないけど、あからさまだね。

 そんなんじゃ女性の心は奪えないんじゃないかな。結婚とかしていない僕がいうのはなんだけど。


 むしろ女性たちの負担が増えて嫌われているんじゃないかな。


 そんなことを考えつつ、人のいない髭の生えた初老の男性が立つカウンターへと向かう。


「こんにちは、ちょっと聞きたいんだけど」

「おう、ガキンチョ。どうかしたか?」


 もう諦めよう。この世界では僕は子供にしか見えないみたいだ。


「冒険者ギルドについて聞きたいんだけど」

「なんだ? 冒険者になりたいのか?」

「ううん、ただ知っておきたいだけ」

「そうか。冒険者ギルドっていうのは、簡単に言えば、一般市民や貴族、王族から依頼を受けて、それを冒険者ギルドに所属する冒険者たちにこなしてもらう。そして、依頼の達成料として冒険者たちに金を払い、俺たち冒険者ギルドは依頼主からお金を受け取る。っていうような仕組みだ。ここまでは分かるか?」


 うん、ここまでは大体想像がついていた。


「大丈夫、分かったよ」

「で、こっからは俺自身の考えなんだが……聞くか?」

「もちろん」

「冒険者ってのはな、夢のある職業だな」

「夢のある?」

「ああ、ダンジョンに潜って財宝を山ほど手に入れた奴もいれば、巨大な魔物を打ち取って英雄になった奴もいる。ああ、冒険者から国王になった奴もいるな」

「へぇ、確かにそれは夢のある職業だね」

「だがな、夢が大きい代わりに賭けるのが自分の命だ。決して安くはねぇ。だから冒険者っていうんだ。冒険に危険はつきものだろう?」


 命をかける代わりに一発当たれば大逆転か。そりゃそうだよね、なんの危険もなしに出世できるんだったら、今頃みんな王様やってるよ。


「まぁ、そんな奴らばかりじゃないけどな。ここには一般市民からの簡単な依頼が集まるから、地道に稼ぐっていうのも一つの手だ。お前も金が欲しけりゃ働け」

「分かった。ありがとね」


 この世界には大型の魔物がいるらしいし、地球よりも危険かもしれない。

 だからといって、僕にできることは気をつけて旅に出ることしかない。


 僕の中に旅をやめるという選択肢などありはしないのだから。


 まぁどんなことになっても、どうにかする自信はある。

 そのための力もね。


「よぉー、会いたかったぜ?」


 だから、さっきのシスターが扉をぶち壊して中に入ってきても僕は動じたりなんてしない。

 それなりに地球でメンタルも強くなったつもりだし。


「もうひと勝負やろうぜ! 俺かテメェが****になるまでよぉ!」


 やらないよ。あと口が汚すぎ。顔とかもう、閲覧注意だよ。

 っていうかあれを食らっておいて、よくもまぁもう一度僕に挑む気になったよね。


 もう一度シスターを無力化しようとすると、首元でもぞもぞと動く感覚がした。


 え、ちょ、まっーー


「もうー! うるさい! しずかにして!!」


 リンの甲高い声が建物中に響いた。


 まさかこのタイミングで出てくるとは思わなかったよ。


 レンなんて驚きすぎて目を見開いて王族の出した依頼書と僕を交互に見ているし、あの暴力シスターでさえ驚いて止まっている。


 その場にいる全ての人間の注目がリンに向いていた。


 ……これどうしよっかな。


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