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11話 治療

「うん、とても美味しかった。ロンドさんがオススメするだけあるね」


 数十分待って出てきたのは、ジュウジュウと音を立てたハンバーグだった。


 見ただけで濃厚と分かるソースがたっぷりとかけられており、ナイフを通すと肉汁が溢れ出してきた。

 そして一口食べると、口の中で程よくほぐれる。


 これほど美味しいハンバーグを僕は食べたことない。


 ロンドさんになんの肉か聞くと、カウトンという名前の動物を使っているらしい。


 他の店でも良く見かける肉だけど、ここの店以上に美味しい店はないのだそう。


「確かにこんなに美味しいと毎日通っちゃうね」

「そうなのですよ。それだからこんなに太くなってしまったのですが」


 ロンドさんが笑いながら自分のお腹をポンポンと叩いた。


 さて、ロンドさんと会話を楽しんでもいいんだけど、ちょっとした用事を済ませないとね。


「キミは……えっと名前を聞かせてくれる?」

「俺はレンだ」

「じゃあ、レン。どうしてあんなことをしたのか聞かせてくれる?」

「……それを話したら見逃してくれるのか?」

「言わなくても僕の条件を飲めれば見逃すつもりだけど」

「……妹が病気なんだ。治すのには薬がいる」


 なるほどね。よくある話だね。


 地球でもたくさん見てきた。

 薬を買いたくても買うお金がない。だけど家族の病気は進行するばかり。


 すぐに薬を手に入れるため仕方なく……ってね。


 僕がここで仮に助けたとしても、レンの妹がまた病気になれば、レンはまた盗みを働くだろう。


 根本を変えなければ意味がないんだよね。


「レン、キミの妹は僕が助けてあげるよ」

「本当か!?」

「ただし、条件がある」

「頼む、何だってする。奴隷になれと言うのなら喜んでなろう。だから妹を助けてくれ、いや、助けてください」

「別にそんなこと要求しないよ。条件は――」






「本当にあんな条件でいいのか?」

「構わないよ」


 レンの案内でレンの家へと向かって二人で歩いている。

 本当はロンドさんについて行って職人に会う予定だったんだけど、予定を変更してレンの妹の病気を治しに行く。


 職人に会いに行くのは急ぎではないからね。

 また時間が空いた時に会いに行こう。



「……疑うようで申し訳ないんだが、ユートは病気が治せるのか?」


 ごもっとも。でも多分大丈夫。

 神力は本当に万能だからね。困った時の神力だよ。


 まぁ、それでダメなら()()()もあるしね。


「ところで、レンは働いているの?」

「……いや、どこも雇ってもらえなくてな」


 そんなことだろうと思ったよ。

 これは国王がどうにかすべき問題なんだろうけど。


 まぁ、難しい問題ではあるね。

 僕個人がどうにかできることでもないし、僕が国王に口を出す筋合いはない。


「レンはどうしたい? 働きたいの?」

「勿論だ! 働いていれば金が入る。そうすれば妹もこんなに苦しむことはなかった……」


 よかった。これで働きたくないって言われたら僕もどうしようかと悩んだけど、働きたいのなら話は簡単だ。


「具体的に何がしたいか決まってる?」

「いや、特にないが……。いや、できれば俺の妹みたいに苦しんでいる人を助けることができればと思っている」

「そっか」


 それだけやりたいことが決まっているのならどうすればいいかなんて簡単なことだ。





「ここだ」


 どうやらレンの家に付いたようだ。だけど、レンの家は正直言ってかなり古い。

 所々壊れており、隙間風が入っているように見える。


「悪いな、こんなぼろい家で」

「いや、大丈夫だよ。慣れているから」


 地球にいた頃はもっとひどい小屋に泊まったこともあったし、野宿も一度や二度では済まない。

 屋根のあるところに住めるだけ幸せというものだ。


「リーシェ、起きているか?」


 家の中に入ると外観とは反対に意外と綺麗に片付いていた。

 所々壊れている箇所はあるものの、ゴミなどは一切落ちていない。


「にいさん、おかえりなさい」

「こら、起きたらダメだろ。ちゃんと寝てろ」


 上半身を起こしているレンの妹に視線を向ける。

 病的なまでにやせているわけではないが、顔色がかなり悪い。見ただけで何らかの病気にかかっていることが分かる。


 肩口まで伸ばした茶色の髪は一目で傷んでいると分かる。健康であれば、もっときれいな髪をしているだろうに。


「あれ、お客さん?」

「ああ、お前を治してくれる……医者みたいなものだ」

「お医者さん? でも、お金が……」

「それは気にしなくてもいい」

「ダメだよ、そんなお金ないでしょ。それに、私知ってるんだから。にいさんがいつも私のために悪いことしてるって」

「っ!! どうしてそれを!」

「分かるよ。にいさんの妹だもの」

「……」


 何やら深刻な様子だけど、とりあえず妹さんには元気になってもらおうかな。


「えっと、リーシェちゃんでいいかな。とりあえずキミの病気を治してしまうね」

「やめて。私たちに払えるお金はないの」

「大丈夫。お金はいらないから」

「っ! もしかして、にいさんを奴隷に!? 今すぐ帰って! 二度と来ないで!」


 ずいぶんと嫌われたものだ。

 まぁ、それもそうか。タダで治してあげるなんて明らかにおかしいからね。

 僕だって疑う。

 でも、もう助けるって決めちゃったからね。リーシェちゃんの言い分は無視させてもらう。


「レン、ちょっとどいて」

「あ、ああ」

「こないで!!」


 拒むリーシェちゃんの手を掴んで腕を動かせなくする。

 そして、リーシェちゃんのおでこに手を当てた。「うぅ」と唸るような声を上げるが、無視しておいた。


「なるほどね」


 たぶん風邪のようなものだろう。加えて栄養失調だから顔色が悪いみたいだね。

 まぁ、何が原因だろうと関係ない。


 暴れるリーシェちゃんを押さえつけつつ、手のひらから神力を少しずつ流し込む。

 すると、今まで暴れていたのが嘘だったかのように静かになった。


「……体が温かい。それに体が軽いよ」

「まぁ、これで大丈夫だと思う。でもあと数日は安静にね」


 僕はリーシェちゃんから離れると、それと入れ違いにレンがリーシェちゃんに近づき抱きしめた。


「……よかった。本当に、よかった」


 とりあえず二人きりにしてあげた方がいいね。

 僕は二人に背を向けるとこっそりと家から出た。




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