目撃
携帯のアラームが鳴る。山下達郎のライドオンタイムだ。水平線の辺りで目は冷め、アラームを切るが、そのまま寝てしまうのがいつものパターンだ。そのうち母親が起こしにきて、大学へ行く準備をし、少し遅刻する程度に家を出る。今日もそんな日が訪れると思っていた。
母親の声がなく、起きたのは昼の1時だった。
「おいおい嘘だろ、もうそんな時間かよ確実に3限も遅刻だよ」
何とも言えない倦怠感を身に纏いながら、部屋を出る。妙に静かだ。リビングに行くと机の上には朝食を途中でやめた跡がある。どうやらこの家には自分一人で、他の家族は外出しているようだ。テレビのリモコンを手に取り、あくびを一つした後電源ボタンを押した。
「大変なことになりましたね」
見慣れたキャスターが深刻な表情でそう言った。
「ええ、政府はこの一連の事件に対して、次のように言っています」
すると、大地震の時に見た大臣が軍服を着た人間たちに囲まれながらこう話した。
「まだ無事な人は一歩も外へ出ずに、戸締りをし、あまり大きな音を立てないでじっとしていてください。じきに自衛隊が救出に向かいます。落ち着いて、決して外に出ないでください」
何が何だかよくわからんが、これは大学も休講かもしれない。助かったと一息ついて、急いで大学のホームページを開く。休講の文字はそこになかった。落胆とともに、単位やばいなと焦りながら朝食のパンを焼きにキッチンへ向かった。包丁が床に落ちていて、血がべたりと壁にまでついていた。
「何だこれは、そうだ警察に!」
家族に何かあったかもしれない。急いで警察に電話をかける。しかし繋がらない。どういうことなんだ。
「キャァァァァ!来ないで!誰か助けて!!」
甲高い声がした。窓の外からだ。窓を開け外を見ると、女性が人に噛み付かれていた。
「ど、どういうことなんだ、、、」
「た、助けて」
こちらに気付いた女性は仰向けになりながら、助けを求めてきた。二階だから偶然目があったのかもしれない。すると1人危機を察知したのか女性の元に近づく。何してんだ早く助けてやれ!心の中でそう思いながら見ていると、女性に近づいたその男も加わって、女性の肉を食いちぎり始めた。昼ののものとは思えない凄惨な光景に呆然とするしかなかった。