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A.I.~アイ~(1話完結)

作者: 卯月 柊

満天の星空の下、私達は山頂の草原に寝そべっていた。

「……キレイ」

私が一筋に星を見ている横で微笑んでいるのが分かった。

「これは何?」

「これって、星のこと?」

「いや、なんて言うか、言葉に出来ないんだけど、胸のあたりがムズムズというかざわざわというか……。」

「……泣きそう?」

「……うん。」

私の事を抱き寄せてくれた。私は2度目の涙を流した。

「星を見てると落ち着くでしょ?」

「うん。落ち着く。」

「もしかしたら星マニアになれるかもね」

「マニア?」

「うーん、なんて言うんだろ。好きがいっぱいになる。つまり"愛"の1種だよ」

「好き……愛……。」

"愛"。それは私がざわつく思考回路の中最後に覚えた感情だった。


そしてその日から彼女と出会うことは無くなった。


私は母と一緒に田舎の一軒家に住んでいる。生まれつき感情が無い病気だった私は今までずっと病院生活だった。そんな私を見兼ねた母は医者の意向を無視し私を連れ出してくれた。その先がこの自然豊かな田舎だ。私はこの場所が大好きだった。うるさく話しかけてくる人もいなかったし、何より大好きな母と一緒に暮らせるからだ。

しかし、母は仕事で忙しく昼間は基本的に独りぼっちだ。その時間は家にいることが多いのだが母から「色んな世界を見てみなさい。」としつこく言われるのでその日は散歩に出ることにした。真夏の日差し、カラカラした風、ざわめく草木。初めて1人で踏んだ土は私の事を後押ししてくれているようだった。

家からしばらく歩いた先にある長い一本道、そこに1人の女性が歩いていた。20代ぐらいの女性で白いワンピースに白い帽子、星の飾りのついたネックレスを身にまとっていた。

「こんにちは。」

その女性は笑顔で私に話しかけてくれた。その笑顔に一切の不純物はないように見え、なぜかとても美しく見えた。私はおどおどしながら小さな声で精一杯の挨拶をした。母以外と言葉を交わすのは久しぶりだった。

「その本って……星の本?」

私は考えよりも先に言葉に出ていた。なぜか分からないが彼女が持っている本に興味をそそられた。

「そうだよ、子供の頃お友達からもらったの。」

「私もお星好きだよ。」

「ほんとに!?私も昔から星が大好きだったの。友達に星マニアになれるかもよって言われた事もあったな〜。」

「そ、そうなんだぁ、」

"マニア"私はその言葉の意味が分からなかった。しかし聞き返すことはできなかった。話すという行為に戸惑いがあったのだ。

「ふふっ、嬉しいな、話が合う人がいて」

「嬉しい?」

「うん!とっても嬉しい!」

「私も……嬉しい。」

「ほんと?よかった!」

この胸の高鳴りが嬉しさを表しているのか、確信はできなかった。しかし確かに今までに味わったことのない感情だった。

「じゃあまたお話しようね、バイバイ。」

そう言い彼女は歩いていった。私は先程よりも少し大きな声で返事をした。"1人の女性"それだけのはずなのになぜか違和感を覚えた。夕方になり家に帰ると母が夕食を作っていた。

「ただいま」

「おかえり〜、何かあったの?」

母は微笑みながら聞いてきた。何のことかと聞き返すと同時に気づいた。自分の頬が綻んでいることに、

「なんかおかしな顔してる……。」

「それは"笑顔"だよ。」

「笑顔……。」

彼女の事を思い出した。いつか私もあんな笑顔が出来るのかと思うと少し嬉しかった。その日のご飯はいつもより美味しく感じた。


その日、母はいつものように仕事に出かけた。私もいつものように散歩に出かけた。今日はあの人に会えるのだろうか、そう思いながら歩いていた。一本道、そこにはいつもより少し寂しい表情をした彼女が立っていた。

「こんにちは」

私がいつものように挨拶をすると、彼女はいつもより沈んだ声で話した。

「今日は大雨が降るから帰った方がいいよ、」

「え?ほんとに?」

私は一切疑わなかった。なぜなら彼女は私の唯一の友達だったからだ。

「そうなんだ……。じゃあお家に帰ろっかな……。」

「うん。私も帰るところだったから。」

「わかった。じゃあバイバイ。」

「バイバイ」

私は家に向かった。母は雨が降ることを知っているのだろうか。そんな事を考えながら歩いていった。

家についた瞬間、私は声を荒らげた。

「お母さん!どうしたの!」

玄関に母が倒れていたのだ。私はすぐに駆けつけ何度も母の名前を呼んだ。しかし返事は帰ってこない。私は病院に電話をかけた。

「助けて!お母さんが!」

私はとても動揺していた。昨日まであんなに元気だった母が今目の前で倒れていたからだ。私がなんとかしなくちゃいけない。私に出来ることは、そんな事を考えていると救急車の音が聞こえてきた。私は家を飛び出し救急車を呼び止め私達は母の元へ駆けつけた。

母が運ばれ私も乗ろうとした時、遠くで彼女が悲しそうな顔をしているのを見かけた。家に帰ったのではないのか、私は一瞬立ち止まったが隊員に呼びれたので声をかけることなく救急車に乗り込んだ。

救急車の中で私は母の手をずっと握っていた。母が心配だったのだが、それよりも私が母に触れていないと落ち着かなかったのだ。病院に着き母は手術室に運ばれた。私はそれを見ている事しかできなかった。

母を待っている間私は自分が入院している時の事を思い出した。母は私を元気つけるため色々な事をしてくれた。その中、母が持ってきてくれた星の写真に目が離せなかった。

「この写真……キレイ。」

私が初めて夢中になったものが星だったのだ。母は喜んで星の話を沢山聞かせてくれた。その時、母は私に"好き"という感情を教えてくれた。それは私が初めて感じた感情だったのだ。

何時間経ったのだろう、時刻は夕方になっていた。時間が経つほど、私の不安は増すばかりだった。その間、私は母のこと以外考えられなかった。母は無事なのだろうか、もう会えないのだろうか、そんな事を考えている時、手術室から医者が出てきた。私は一目散に駆けつけ母の容態を聞いた。どうやら母は毎日病院に通っていたそうだがその努力も虚しくしだいに病は体を蝕んでいたそうだ。医者は「お母さんが会いたがってる、行ってあげなさい。」と言った。私は部屋に入った。そこには今までの元気な母からは想像できない母の姿があった。母は力無く息をしながらが眼だけをこちらに向けていた。私は母のところへさっと駆けつけた。

「お母さん!大丈夫なの?なんで教えてくれなかったの?」

「ごめんね……。心配かけないようにしようと思ったんだけど……。」

「嫌だよ!お母さんがいなくなるなんて……。私どうしたらいいの?」

「大丈夫。あなたはあなたが思ってるよりも強い子だから。大丈夫。あなたは私がいなくても生きていける。」

母はいつものように私に微笑んでくれた。今から亡くなるとは思えないくらいに。

「ねぇ、約束して?」

「なぁに?」

「あなたはこの先色んな苦痛や不幸を味わうと思う。でもそれに負けてはいけない。あなたは誰よりも強い子になってこの世界を羽ばたいて。そして色んな世界を見て。私はいつでもあなたのことを見守ってる。だから何にも負けてはいけないよ。」

「うん、分かった。」

母の言っていることは幼い頃の私にはよく分からなかった。けれど母の言った言葉は1字1句忘れずにずっと覚えていた。

「目から水が出てきた。」

私は初めての体験に驚きを隠せなかった

「それはね"涙"って言うんだよ」

「なみだ……?」

「涙は悲しい時や嬉しい時に流れるものなの、」

「嬉しい時にも……?」

「そう、いつかそんな涙を流せるような優しい子になってね」

「うん……うん。」

涙。それは母に教えてもらった最後の言葉だった。

どのくらい話したのだろう、私は母の手を握りながら母の顔をずっと見ていた。母は目を瞑り安らかに眠りについた。この世を去ったとは思えないほどに……。私は涙を流さなかった。母の言った通り強い子になろう。そう誓った。その日の空はとても澄んでいた。


お葬式が終わったあと私は家に戻る事にした。今後おばあちゃんの家で暮らすことになったので荷物整理をするためだ。親戚が来るまで1人で荷物整理をしていた。それはとても大変で心が折れかけた。そんな時母の部屋にあった1冊の日記を見つけた、私は不意にそれを手に取り読み始めた。そこには私との思い出がびっしりと書かれており病気に対する弱音は一切無かった。母は強い人だったのだ。するとその本の間から1つの封筒が落ちてきた。彼女がいつも身につけている星のネックレスが入っていた。彼女は今どこにいるのだろうか、私は彼女に会いたくなり家を飛び出した。向かった先は彼女に教えて貰った星のよく見える丘。私は頂上を目指して登っていった。道は整備されていて登りやすくものの数十分でについた。そこにはやはり彼女が立っていた。

「こんな所で何してるの?」

「星を見ているんだよ。一緒に見る?」

「うん。」

満天の星空の下、私達は山頂の草原に寝そべっていた。

「……キレイ」

私が一筋に星を見ている横で彼女が微笑んでいるのが分かった。

「これは何?」

「これって、星のこと?」

「いや、なんて言うか、言葉に出来ないんだけど、胸のあたりがムズムズというかざわざわというか……。」

「……泣きそう?」

「……うん。」

彼女は私の事を抱き寄せてくれた。私は2度目の涙を流した。

「私、お母さんのこと大好きだった。なのに……。」

私は涙が止まらなくなった。

「私は強い子にならないといけないのに涙が止まらないの。」

「大丈夫。泣きたい時は下を向いていっぱい泣けばいい。そして泣いてスッキリしたら前を向いてまた歩き出せばいいの。」

「……いいの?」

「うん。泣かない事が強いってわけでもないんだよ。強さって言うのは誰にでも優しく、そして嬉しい時に笑ったり悲しい時に泣いたり、感情が豊かな人のことを言うんだよ。」

「じゃあお姉さんは強いんだね。」

「うーん、そうなのかな?」

私は少しずつ落ち着いてきた。彼女はいつものように話しかけてくれた。

「星を見てると落ち着くでしょ?」

「うん。落ち着く。」

「もしかしたら星マニアになれるかもね」

私は初めて彼女にあった日のことを思い出した。今度こそは聞き返そうと思い口に出した。

「マニアって?」

「うーん、なんて言うんだろ。好きがいっぱいになる。つまり"愛"の1種だよ」

「好き……愛……。」

"愛"。それは私がざわつく思考回路の中最後に覚えた感情だった

「あ!この本プレゼントするよ。」

「え?いいの?」

彼女は初めて会った時に持っていた星の本を差し出してくれた。

「うん。私は内容覚えるくらいに読んだから。」

「そうなんだ……。じゃあ欲しい!ありがとう。」

「いえいえ、」

私はとても嬉しかった。この本が欲しかったからとか、彼女のものだったからとかではない。なぜか分からないがとてもあたたかく感じたのだ。

「ねぇ、次はいつ会える?」

私がそう聞くと彼女は少し悲しそうな顔をして口を開いた。

「ごめんね……。多分当分会えないの。」

「……え?どうして?」

「私は遠いところに引っ越す事になったの。もう当分帰って来れないと思う……。」

「そうなんだ……。でもいつか会えるよね?」

「そうだね……じゃあ君が立派な大人になって強い子になった時に会いに来るよ!」

「ほんとに?分かった!私頑張るね!」

私は悲しかったが、なぜかとてもワクワクした。そしてふと彼女の胸元をみた。そこにはいつも身につけている星の飾りのネックレスが付けられていた。やはりそれは私が母からの贈り物と同じものだったからだ。

「そのネックレスって誰から貰ったの?」

「ん?これはねお母さんから貰ったんだ。」

「お母さんは元気?」

「ううん。お母さんもうこの世にいないんだ」

私は驚きを隠せなかった。なぜ彼女が私と同じものを持っているのか、なぜ彼女が私と同じ境遇におかれているのか、頭の中に答えはよぎっていた。しかし本当にそんな突飛な出来事がありえるのか、私は確かめるため聞いてみた。

「ねぇねぇ、お姉さんの名前ってなぁに?」

すると彼女はいつものように微笑んだ。そしてその瞬間、彼女は光に包まれ姿を消した。そこには元から誰もいなかったかのように何も残っていなかった。私はこの時のことを一生忘れない。


私は今、真夏の日差しの下を歩いている。久しぶりに踏んだこの土は私のことを出迎えてくれているようだった。そこに1人の少女が歩いてきた。私は微笑みながら少女に声をかける。


「こんにちは。」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 会話だけで主人公の繊細な心が見えてくる、とても素晴らしい短編小説です。 独特の雰囲気も凄い好きです。 こういうのが欲しかった。
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