侮蔑は背で流し
そのカビの生えたパンを教室の片隅にあるゴミ箱に捨て、一般生徒に支給される魔導書をぼんやりと眺めていると同じクラスの生徒が数人談笑しながら入って来るが、ヨムカの姿を見るや会話を打ち切りニヤニヤと嫌らしい笑みを向ける。
「ねぇ、私の机にカビの生えたパンを入れたのってだれ?」
問い掛けても返答なんて返ってこないのは百も承知だが、流石に腐ったパンを机に入れられて頭に来ないはずがない。だから、ヨムカは声の怒りの感情を抑えて聞いた。
「はぁ? カビの生えたパンだぁ? そんなの俺達が知るわけねーだろ。もしかしたら貧乏なお前に神様からのプレゼントかもしれねーな」
「つか、悪魔が俺達に話しかけてくんな。どうして名誉ある我が魔術学院にお前のような悪魔を入学させたのか理解に苦しむね。そうは思わないか?」
「まったくだ、その眼で見られてると災いが降りかかりそうなんですけどー」
彼らに問いかけたのが間違いだった。ただ質問しただけでここまで罵られなきゃいけないのかと、我慢の限界を迎えたヨムカは軽く溜息を吐き、ゆっくりと三人の男子生徒の方へ歩みだす。
「こっち来んなよ化け物!」
「そうだ、カビ臭ぇんだよ悪魔! お前を生んだ両親は罪深かったんだろうなぁ」
ヨムカの冷たい視線に臆することなく罵声を浴びせ続け、それでも足を止めないヨムカに舌打ちをして対抗するように立ち上がり少女一人を包囲するように囲む。指を鳴らしては単純な力で分からせようと正面に立つ少年が殴りかかる。
「うらぁ!」
「…………ふぅ」
当たれば良いという考えなしの拳はヨムカの頬を目掛け飛んできたが、呼吸に合わせ男子生徒の腕を掴んでは捻りあげ全体のバランスを崩した所で足を払い床に転ばす。
「この腕折ってもいいけど、どうする? 土下座して謝るなら許してあげてもいいけど」
自分の言葉を信じ込ませるように関節をキメてみせる。
「痛い、クソッ! おい、なにボサっとしてるんだよ、早くこのクソ女をぶっ飛ばせよ!」
「お、おう!」
呆然とその様子を見ていた残り二人の生徒もようやく我に返り、身動きの取れないヨムカに飛び掛かるが、ヨムカは冷静に近くにある机の脚を蹴り飛ばすと二人は勢いよく机にぶつかり横転する。
「三人がかりでこの程度って……ちょっとダサくない?」
「七八部隊のくせに調子こいてんじゃねぇぞ!」
「言っておくけど、入学式に問題を起こさなかったら二一部隊に配属される予定だったけど。キミ達
って第なん部隊なの?」
「二一部隊!?」
番号の若い部隊の方が強くより高度な術式を習う事が出来るのだ。配属先は実技試験と筆記試験の結果で決まるのだが、一年の実力でせいぜい六五部隊が限界だった。
「そろそろ朝礼始まるから片付けといてね」
ヨムカは床に倒れる三人の男子に言い置き自席に戻り荷物を整理して時間を潰しているとチャイムが鳴り、教室には全三〇名の生徒が着席していた。
「おはよう、諸君! 今日は部隊対抗戦だ。ヨムカ・エカルラート君は朝礼後に部隊控室に急行するように」
独特な口調の担任の挨拶も短く、朝礼は三分も経たずに終わってしまった。
「はぁ……」
溜息しか出ない。それは全校生徒の視線を集める中で無様に降参する未来像が容易に描けるからだ。
「クスクスクス、無様に負ければいいのよ」
「つか、死ね!」
「その忌々しい瞳と髪すげー目障り」
教室を出るヨムカの背に侮蔑の視線と程度の低い悪口が投げかけられるが、そんなものはもう慣れたと言うように聞き流し、各部隊の控室がある別棟へ向かう。
こんばんは、上月です(*'▽')ノ
カビの生えたパンの件はすぐに終わらせて部隊対抗戦へ行こうとしたのですが、意外と長くなってしまいました。次こそは対抗戦を開始できるとは思います……(たぶん)
次の投稿は3時間後の22時くらいを予定していますので、是非ともよろしくお願いします!