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地平線に沈む夕日は明日への希望  作者: 上月 佑幸
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気怠そうな部隊長ブラド

 夕日が窓から室内を橙色に照らしていた。一日の中で人々に寂しさを与えるその色をヨムカは嫌いだった。自分の髪と瞳と同じ色をした夕日を見ているだけでより一層に自己嫌悪に陥るからだ。


「……はぁ」


 どうして、私は産まれたんだろう。あの日父と母に捨てられてから今までずっとそればかりを考え生きてきた。神話信仰が根強いこの大陸では身体的特徴で赤色を持つ者は迫害を受けてきた。だから、皆それを隠すべく髪を染め他色に見える薄い膜を瞳に被せたりしていた。


 もちろんヨムカも周囲に溶け込む為に髪を染め瞳の色を隠そうと試みたが、髪は色が乗らず瞳は色の強い膜を被せても、忌むべき夕日色を隠すことが出来なかった。


「いっそ、髪を全て剃って目玉も抉ってやろうかな……」


 そうすれば、誰にも苛められる事も無いと、乾いた笑いがこぼれる。


「女がそんな事言うなよ。まったく……」


 独り言に応える男性の声にヨムカはハッと顔を上げると、部屋の入口に立つ青年の淡い青色の瞳と視線が交差する。

 

 青年は気怠そうにボサボサの金髪を掻き、大きな欠伸をしてはヨムカのベッド脇に置かれている椅子に腰を落ち着けさせて、ポケットから一冊の本を取り出し読み始める。


「ヴラド先輩、何しに来たんですか? 小説が読みたいならほかで読んだらどうですか?」

「ああ? 何しにって見舞い以外にないだろ。つか、相変わらず隊長扱いしてくれねぇのな」


 手元の小説から顔を上げることなく、その眼はひたすらに文を追っている青年にヨムカはわざとらしく盛大に溜息を吐いてやった。


「隊長として認めて欲しいなら、ちゃんと仕事してください。今回の任務だって隊長が受注してくれないからロノウェ副隊長に頼んだんですよ。それに普段だって机の周りに小説の城塞なんか作って……この前本が崩れて私の机を飲み込んだんですから!」

「ははは、悪い悪い。でもなぁ、所詮下位部隊にまともな仕事なんて来ないだろ?」

「む……それは、そうかもしれないですけど。それでも、部隊の隊長なんですから体面とかは保ってください」

「あ~、善処しとく」


 ヨムカはヴラドの言葉に一切の期待を抱かず、最後にもう一度今度は小さく溜息を吐く。


「先輩……その、先輩は私が怖くないんですか?」

「は? なんだいきなり」

「私は災いを運ぶ者です。本当は部隊にいてほしくないんじゃないんですか?」


 誰もがヨムカの容姿を視れば、腫れ物に触るような視線を向ける。今在学している王立魔術師養成学院での入学式の日もそうだった。割り当てられたクラスに足を踏み入れた瞬間に教室の空気が一変したのを今でも覚えている。それからしばらくは朝登校すると机が無くなっていたり、教科書が破かれていたりしていた。それでもヨムカは涙を見せることなく喚き散らすことなくそれら全てを飲み干し勉学に励んでいた。


「神話信仰か……馬鹿らしいな。そんなお伽噺を信じる奴は異常だろ。誰が何と言おうがお前は俺の部隊の隊員だ。それにロノウェやクラッド、フリシアがお前を一度でも腫れ物を触るように見たか? 接したか? そもそもがだ、俺達第七八部隊自体が腫れ物の集まりだろ?」

「先輩……」


 ヴラドは読んでいた本を閉じ、優しくヨムカの頭に手を乗せてワシワシと力強く撫でまわす。


「痛いッ、痛いです」

「二度とそんな馬鹿げたこと言うなよ」

「……はい」

「あぁ? 聞こえないな」

「はい!」


 ヴラドは壁に掛けられた時計を見やり席を立ち「明日はあの馬鹿と部隊対抗戦があるからな」と告げて部屋を出ていった。

こんばんは、上月です(*'▽')


冬休みもあっという間ですね。このお休みを皆さまは充実していましたでしょうか?


さて、次回の投稿ですが1月5日の夜になりますので、よろしくお願いします!

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