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地平線に沈む夕日は明日への希望  作者: 上月 佑幸
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引き離された親子

 深い木々に囲まれた薄暗い森の中風邪を切る鋭い音が静寂を切り裂き、立ち上がった父の頬に赤い線を残し近くの気に突き刺さる。それが、矢だと瞬時に判断して身を低くしヨムカとルアに手で待つよう静止する。顔を僅かばかり覗かせ次なる攻撃が来ないかそして射た人物を探ろうと試みるが、深い闇が不気味に在るだけでそれらしき人物を捉えることが出来なかった。


「顔から血が!?」


 ルアが怯えた表情で血が流れる頬を指さす。


「ああ、大丈夫だよ。それより、この矢狙いが正確だった。僕が立ち上がって直ぐに射られたことから、僕たちの居場所は既に特定されていると考えた方がいい。たぶん相手は……」

「相手は……なに?」


 突如言葉を止めた旦那にルアは固唾を飲む。

 

「相手は……ここの地理に詳しく、ゲーム感覚で僕たちをなぶり殺すつもりだ」

「そんなっ……」


 大方予想は付いていた。だが、それを否定して欲しいと小石程度にも満たない希望に縋り見事にそれは打ち砕かれた。


「じゃあ、かつて宮廷魔術師として陛下にお仕えし数々の功績を残したオルファ・エカルラートに聞くけど、この状況をどうにかできる?」

「…………」


 夫としては妻を安心させる言葉を言って聞かせてあげたかったが、ルアは夫にではなく宮廷魔術師であった頃の彼に聞いていた。だから、耳に聞き心地の良い言葉を言ってあげる事は出来ない。


 オルファは自分が導き出せるありとあらゆる情報と知識を総動員させていた。もちろん周囲への警戒を怠らずに。そんな彼が導き出せた答えは――。


「僕が二人を必ず守るよ」


 その策略も根拠もない言葉にルアはクスリと笑う。


「ふふ、貴方らしいわね。それでこそ私が唯一愛した男性よオルファ」

「こんな事しか言えない自分が恥ずかしいけど、僕は言ったことには責任を持つし必ずやり遂げる。それはキミが良く知っているよね?」 

「ええ、もちろん。我が父を長い間支え国家の為に尽力し、私に恋をさせた貴方の言葉ですもの。信じているわ」

「ルア・セイ・マティルード様、我が命に賭けて貴女様と私達の娘を必ずやお守りいたしましょう」


 その言葉はルアに安心をもたらした。


 彼の守るという言葉は今まで一度たりとも裏切ったことがない。だから、ルアも言い返す。最大の敬意と信頼を持って。


「ならば、私と愛すべき我が子を守り抜きなさい!」


 そのやりとりを眺めていたヨムカは幼心には分かりづらいが強い絆のようなものを感じ取った。


「さて……僕はここだ! 卑怯なキミ達では討つことの出来ない男がここにいるぞ!」


 声高に叫びながら、オルファは足場の悪い地を駆け自分に注意を向けさせようとする。


「いい、ヨムカ。お父さんが時間を稼いでくれている間にこの森を抜けましょう」

「お父さんは後で会える?」


 不安げに夕日色の瞳は母を見上げる。


 ルアはそんな我が子を安心させるために優しく微笑みを浮かべて見せ「大丈夫よ、きっと会えるから」と優しくその柔らかく艶やかな瞳と同じ色をする髪を撫で、遠くでは轟音が鳴り木々が倒れるような音が聞こえるなかで警戒をしつつ行動を開始する。




「これは、先程の賊とは違うな、あきらかに戦闘慣れをしている」


 村を襲ったただ破壊の限りをつくす蛮族ではない。獲物を誘導させ罠にかかったところを始末しようという気配をその複数の視線から感じ取り、ならばその誘いに乗ってやろうと少々派手に術式を放つ。自分は喰われるだけの得物ではない。自分を殺りたければ人員を増やせというメッセージを乗せ少しでも妻と子から意識を逸らせればと願いを込めて。


 魔術師故に体力面は一般の成人より劣っている分、息が上がり始めるのも早い。だが、ここで足を止めれば彼らを”飽き”させてしまう。彼らが少しでも飽きを感じれば今オルファを影で嘲笑している者がルア達の方へ向かっていってしまうかもしれない。だから、無理やりにでも足を運ばなければならない。


「はぁ……はぁ、運動は……はぁ、苦手なんだけどね」


 自嘲しつつようやく開けた場所に出ると、そこには村を襲った出で立ちの男達と顔を奇怪な面で隠す謎の集団が待ち構えていた。


 肺を抑えつつ、小刻みに呼吸をするオルファは内心で不味いなと表情をしかめる。その視線の先には愛する妻ルアと子のヨムカが捕われていた。


「忌み子を匿っているという通達を受け災いに加担する悪魔を排除しに来た」


 オルファに言い聞かせる様に、仮面の人物はゆっくりとそしてハッキリと言葉を並べていく。声で彼が男であることが分かったが、そんなどうでもいい情報をオルファは記憶に留めない。


「はは、誰が通報したかは知らないけど、忌み子なんて僕は知らないな。僕が知っているのは愛する妻と将来美人になる娘だけだよ。だから、僕の家族を解放してほしいんだけどな」


 酸素が身体中を行きわたり、余裕が生まれ自慢するように語る。


 胸毛の濃い蛮族のリーダーと思しき男は仮面の男にどうするんだという視線を送る。


「女と男は好きにすればいい。だが、忌み子は我らが排除する」

「オイ、聞いたか野郎ども、女と男は好きにしていいんだとよ、久しぶりに楽しむぞ!」 


 その言葉に部下たちは興奮の色を隠さず雄たけびを上げルアを囲み始める。


「やめろ、お前達!」


 仮面の者達は蛮族から夕日色の少女を引き渡される。


「あなた、私の事はいいからヨムカを助けて!」


 オルファは奥歯を噛みしめつつ、魔力を放出させる。

こんにちは、上月です(*'▽')


次の投稿は本日の夜になります。

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