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地平線に沈む夕日は明日への希望  作者: 上月 佑幸
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エカルラート家に生まれた新たな生命

 辺境の小さな村で両親の身体的特徴を一切受け継がれていない、夕日色の髪と瞳を持った少女は産まれた。本来であれば我が子の誕生を祝い、親としての責任を背負うと同時に新生した命に慈しみの表情を向けるであろうが、この母と父……そして助産に携わった医師や村の者達の間に流れる空気は重く、誰もが口を開こうとせずにただ、黙ってその赤子に困惑の視線を注いでいた。


「どうして……どうして、忌み子が生まれるのよ!」


 腹を痛めた母は体力を消耗しきっているにも関わらず、傍で呆然と立ち尽くす夫に強く掴みかかる。


「嘘だ……僕達は何も悪いことはしていない。なのに、どうしてこんな子が生まれてくるんだ。ああ、神よ何故に貴方はこのような惨い仕打ちを私たちにお与えになるのか」


 夫は膝から崩れ落ち、魂が抜けたかのようにブツブツと祝いの言葉ではなく、無意識に呪詛を吐き散らす。


「ゴホン! 気をしっかりと持てエカルラート夫妻。お主等の人間性は村長であるワシが一番知っておる。そんなおぬしらを神がこのような残酷な運命を押し付けるはずがない。これは悪魔の悪戯だ。早い段階でこの子を処理せねばならないな」


 口元に立派な白髭を蓄えさせた老人が手に持った杖をベッドに立てかけ、自由になった両の手でその小さくも温かい赤子を包み込むように抱く。


「いくら、忌み子といえどお前さんたちの子だ。我が子が死ぬ瞬間なんて見たくもないだろう? 安心しろ、お前さんたちは悪くはない。罪悪にとらわれる必要はないのだ」

「いえ、この子は確かに忌み子です。ですが……村長が言ったように僕達の子供でもあります。僕は……僕は、この子に人としての名を与えて育てたいんです!」

「あなた……」


 先程まで絶望に魂を抜かれた状態とはうって変わり、覚悟を決めたと強い意思は自然と言葉にも宿り、普段おっとりとしている彼の姿からは想像もできなかった。


「村長おねがいします!」


 ついには膝を折り頭を地面にこすりつける。


 そんな彼の覚悟をしかと見た村長は「子供の前でそんな無様な姿勢はやめないか」と立ち上がらせて、今自分が抱いている子を差し出す。


「親ならば抱いてあげなさい。それと、親ならばちゃんとその子を守り抜くのだぞ、いいな?」

「はい! ありがとうございます」


 父の腕に抱かれお日様のように暖かな寝顔を見て、先程の自分の言葉はあまりにも酷かったと己を恥じ親の顔を浮かべて見せる。


「ほら、僕達の子供だよ。お前も抱いてみるか?」

「え……ええ、じゃあ」


 戸惑いが残る母も愛する旦那に言われて恐る恐るその手に抱き、その子の体温、重量、柔らかさに表情がみるみる内に柔らかくなる。


「私達の赤ちゃん……ふふ、可愛いわね」


 プニプニとマシュマロのような頬を指で触れる。


「そうだね、僕に似ている場所はあるかい?」

「う~ん、外見的には私みたいな美人になるかもしれないから、貴方のように優しい子になるんじゃないかしら?」

「美人で優しい子かぁ……うん、それって完璧じゃないか!」


 そこに呪詛を吐いていた夫婦の姿は無く、己の過ちに気付きひたすらに我が子に暖かな笑顔を向けていた。


「エカルラート夫妻、悪いが家を引っ越してもらう。災いがこの村に振りかからないようにな」

「はい、承知しています。明日にでもこの村を出ていきます」

「いや、出ていく必要はない。少し村の者達と距離を開けてくれればそれでいい。もちろん仕事は今まで通りで構わない。」


 村長が村と距離を置きたいのはあくまでもその子供だった。それにこの夫婦には何度も村を助けてもらっているので、突き放すような真似は村長のプライドが許さなかったのだ。


「新居の手配はこちらでやっておく。お前さんはその間仕事は休んでいなさい」

「えっ、ですが――」

「案ずるな。ちゃんと給料は払う。それともあれか? お前さんは体が弱っている妻と生まれたばかりの子をそっちのけで仕事をするというのか?」


 村長のちょっと意地の悪い笑みに、ここは素直にその好意を受け取っておこうと礼を述べる。

こんにちは、上月です(*'▽')


今回はヨムカの出生の話しとなり、次回もこの続きを書いていきます。

注意:次回は少し胸糞な部分があるかもしれませんが、どうかお付き合いください。


次の投稿は本日の19時~22時を予定しています。

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