夕日色の少女ヨムカ
この作品は「夕日色に染まる世界に抱かれて」を一から書き直したものですので、キャラの性格が違ったりしているかもしれません……というより、違っています。
甘口から辛口の感想等をいただけると、それを励みにしていきたいと思いますので、よろしくおねがいします。
他人とは特異な容姿を持ち生まれた。ただ、それだけで人生という道のりは険しく困難なモノとなる。そんな、不条理を誰が許せるというのだろうか……。
自身には何かを変えるだけの力も知識もない。
だから、少女はその不条理を覆す為に――その両方を求めた。
「ヨムカ、そっち! そっちに逃げた!!」
路地の奥から馬鹿みたいに叫ぶ若い男の声に、ヨムカと呼ばれた少女は溜息を吐き魔力を全身に巡らせ準備を整えては、路地に躍り出る。
「……うるさいってば、え~と」
駆け抜ける人物を、夕日のような朱色の瞳で捉え、授業で習った詠唱をその記憶から掘り返し読み上げる。
「闇夜を照らす色鮮やかな美しき炎は、人々が求め縋る温もりの希望である:世界を照らす黎明の炎」
その瞳と同じ色を持つポニーテールの髪は魔力の奔流になびき、手には魔力が変容した淡い夕日色の炎が纏われる。
「くらえッ!」
ヨムカはその腕を突き出すと螺旋を描いた炎が放たれ、薄暗い路地を照らすと同時に男の表情が驚愕の色に染まっていたのを視認する。
「魔術師……だとっ!?」
男は迫りくる炎の渦に体が強張り足をもつれさせ、前のめりに倒れるや炎相手に意味をなさぬと分かってはいても反射的に両の手で頭を抱え込む。
だが、炎の渦は男を襲うことなく、寸前の所で霧散してしまった。
「……はぁ?」
何が起こっているのか理解へと至る前に背後から先ほど叫んだ少年。そして前方からはヨムカが駆け寄り、男を組み敷き無力化させる。
「やったな、ヨムカ!」
「やったな……じゃないよ! クラッドの声大きすぎだし、そもそもあの程度の手合いくらい自分でなんとかしてよね」
ハイタッチを求めるクラッドにヨムカはピシャリと言い放つと、拘束した男性の身体をまさぐり始める。
「盗んだものはちゃんと返してもらうから。それと、これに懲りたらこんな汚い仕事から足を洗うんだよ」
「うっせぇ! こんな災いを運ぶ化け物を飼い馴らしてるこの国に将来はねぇよなァ、魔術師さんよォ!」
男はヨムカに侮蔑するような視線を向け「お前の事を言っているんだ」というように卑しい嗤いを浮かべて見せる。
「……っ!」
その言葉にヨムカの身体中を流れる血液は瞬時に沸点に達し、顔を真っ赤にして唇を強く噛みしめ、地に伏せ見上げる男の顔目掛けてブーツの底で踏みつける。
「ぎょえ!?」
「うるさい……うるさいんだよ、お前に私の何が分かるッ! えぇ、言ってみろよ! 私だって好きでこんな髪と瞳の色をしてるんじゃないんだ!」
何度も、何度も、力任せに男の顔を踏みつける。
「おっ……おい、ヨムカ。それ以上は不味いって」
「どいつもこいつも、忌み子だ災厄だと迫害して! 私がいつお前達に危害を加えたんだよ、言ってみろォ!」
クラッドの静止なんて耳に入らず、ヨムカはその怒りを地に伏せる男へと容赦なく振り下ろし続ける。
「ヨムカ、マジでヤバいって!」
強硬手段でヨムカを背後から羽交い絞めにして男と距離を離すが、怒りに我を忘れている少女をどうしようかと頭を悩ませているとクラッドの背後から声が掛かり安堵する。
「クラッド君、ヨムカさんご苦労様です。任務は成功ですので、その方を詰所に送り届けてください」
「ロノウェ副隊長!」
手入れの行き届いた藍色の腰まで伸びた髪を優雅に揺らし、女性であれば誰もが振り返るであろうその容姿をした長身痩躯の男性がヨムカの目の前で膝を折り、しなやかな白い手をゆっくりと涙を流す少女の顔にかざし小さく何かを呟くとヨムカの意識は薄れ、全身から力が抜ける。
「ヨムカさんは私が学院に運びますので、彼をよろしくお願いしますね」
「うっす、了解です」
クラッドからヨムカを預かり、その小さな体躯を背におぶり小さく微笑み路地を後にした。
こんばんは、上月です(*'▽')
一話目を読んでいただき、ありがとうございます。
次の投稿は12月31日の9時くらいになるとおもいますので、是非読んでいって下さい!