運命の王子様を探す生活の終わり〜王子様少女〜
その日、私は母親と一緒に買い物に行った帰りだった。お店のお姉さんにピンク色の風船をもらった私は、かなり上機嫌だった。
『まもなく、三番ホームに、電車が、到着いたします。白線の内側に下がって、お待ち下さい』
私達親子は、電車待ちの列の最前列にいた。アナウンスが流れ、後ろから少しずつ列が動いていく。
その勢いに押され、私は邪魔にならないように手元に持っていたはずの風船を手放してしまった。
すぐに諦めればよかったのだろうけど、そのときの私は思わず、手を伸ばしてしまった。その際に点字ブロックにつまずき、私の体は前のめりになった。母親も突然のことに手を引くのが遅れ、私の眼前にレールが近づいてゆく。
「痛っ! ふえぇん…」
「芽以!」
キキィーと耳障りな音を響かせながら、線路に落ちた私に接近してくる、鋼鉄の箱。
私は落ちた痛みで半泣き状態だった。母親が必死に手を伸ばしてくるが、私の両手は涙を拭うために塞がっていた。
視線の先に、死線が見える。
「はぁっ!」
私の目の前に降りてきた、ひとつの小さな影。私と同じくらいの大きさの手が、私を地面に押しつけた。額に石がぶつかり、非常に痛かった。
私の後ろで、何かが通った。視界が暗くなり、またしばらくして断続的に光が差す。
音が、完全に止んだ。
自身の安全を確信した私は、顔を上げて、影の正体を見やった。
それは…前髪を留め、レモン色のTシャツにデニム生地のオーバーオールに身を包んだ少女だった。
「大丈夫だった…?」
「う、うん…」
私と同い年、小学三年生くらいの少女。彼女の問いに、私は答える。
「…よかった。私、理想の王子様に近づけたかな…?」
「…ふぇ?」
『あかね、どこ行ったの! あかねっ!』
遠くから聞こえる、誰かを呼ぶ叫び声。
「…そろそろ、行かなきゃ。お母さんが呼んでる」
彼女はホームの方を見上げ、そう呟いた。
その少女は、私が瞬きしている間に消えてしまった。たくさんの人達に線路から引き上げられる中、私はある単語を何度も反芻し、心の奥底に刻み付けた。
「…王子様。私の、王子様…」
それが、私と鎖役朱音との出会いだった。