死の三姉妹
「待て!」
「・・・」
その声に振り向きもせずリリスは駆ける。
強く地面を蹴って大きく跳躍したリリス。
双子の妹、リリアの準備が出来るまでの時間稼ぎをするのがリリスの役目だった。
くる、と方向を変えて騎士団の方を迎え撃つように立てば、リリスの鮮やかな黒髪がザアッ、と舞った。
脚を開き、体を低く構えた状態で鋏を大きく開いて立ちはだかる。
急に姿勢を変えたリリスにダッシュしていた騎士団のメンバーたちも動きを止める。
「チッ、やっと止まったか。」
「本当だったんですね・・・」
「もう一人は何処にいる?」
リリスが姿勢を変えずに呟くように低く言った。
「・・・言う必要がどこにある?」
「なるほど。」
次の瞬間、リリスの今までいた場所には、なにもいなかった。
「っ!あっぶね・・・」
剣で防いだレルガが言う。
その後もリリスは他の仲間よりもレルガを重点的に攻めていくが、イマイチ重い攻撃にならない。
それはそうだ。リリスは技巧で攻める、つまり力が弱い。それに反しリリアは力で押し切るタイプ。
リリスでは腕の立つ、しかも男であるレルガを押し切ることはできない。しかも敵はレルガだけではない。
リルムは魔法を駆使してくるし、他の三人の追撃も防がなければならない。突出したのはリルムとレルガだけだとしても、力のないリリスにとって数は1番きついものだった。
「くっ・・・」
リリスとレルガが同時に呻く。
リリスの鋏がレルガの肩に幅の半分が埋まり、レルガの剣の先端がリリスの脇腹に埋まる。
「レルガ!下がってください!血の量が・・・!」
「リルム・・・クソっ、逃げんじゃねぇ!」
「フンっ・・・!」
鼻で嗤うようにして暗闇にリリスが姿を消す。
「待てっ!」
「レルガ、その前に回復を!」
リルムが慌てたように手をかざせば、暖かい光が手から放たれる。
それから程なくして、全員の回復が完了した時、再びリリスが姿を現した。
「また来たんですか・・・!?なんで・・・!」
それには先程と同じように答えず、リリスが構える。
「また来るってか・・・!」
ダンッ!
と音がして、リリスが跳んだ。
振り下ろされる鋏に、レルガが剣を横にして防ごうとする。
しかし。
バキィッ!
「剣が折れた!?」
リルムが驚く。
「嘘だろ!?」
レルガも思わず言う。
「ヤベェな・・・」
「みなさん!?」
リルムの声にレルガが振り返れば、残りの三人は地面に倒れていた。
三人に気を取られていたレルガは、一気に振り下ろされた鋏を反射的に腕で防いだものの、出血の量はおびただしかった。
「レルガ・・・!!」
「ねーぇ、そっち見てていいのー?」
後頭部に冷たいものが押し当てられ、リルムは凍りついた。
レルガが声も絶え絶えになりながら言う。
「お前、は・・・っ」
リルムの前に回ったのは、アリスだった。
「人形師、さん・・・?なんで・・・?」
「私のお姉ちゃんがあの二人だから。あの時に諦めてくれればこんなことしなくても済んだのにさー、私気に入ってたのに。でもよかったね?お姉ちゃんにも気に入られてさー。」
「え?」
「リリア姉、固定。」
「はいよー」
「なっ!?放、せっ!」
リリアがレルガを固定すれば、レルガが残る力で暴れる。
「ああ無理無理。あなたたちと最初に戦ったリリス姉ならともかくリリア姉はバカ力だし。」
「レ、レルガに何をする気なんですか!?」
「さっき言ったじゃん。気に入られたって。殺すなってリリス姉に言われてるの。リリス姉は一番上だからねー。それにそっちの人の怪我見られたらホントに殺されるって・・・ん・・・?」
後ろにある殺気に怯えながら振り向くと、べしっと叩かれる。
「痛いよリリス姉〜。」
「あんたらじゃできないでしょ。」
「魔力増幅してこの子にやらせるつもりだった〜。」
「バカじゃないの。レディアクレセンツ」
あたりの広範囲に円型に広がる暖かい光のおかげで完治とはいかないがレルガの腕の傷が塞がる。
「んじゃバイバーイ!」
パッと拘束を解いたリリアがさっと闇に紛れ、リリスはいつの間にやら消えていて、アリスも「それじゃあね」と消えていった。
「とりあえず帰るぞ、リルム。」
「はい。」