人形師アリス
「たっだいまー!」
リリアが元気よくドアを開き、中に入る。(もちろん裏口から)
「おー、おっかえりぃ。今回のお仕事どうだったぁ?」
と少女が出迎える。
「またハズレ〜。もーやんなっちゃうよー。」
むー、とリリアがむくれる。
「すいませーん!」
「あっ、ヤバっ!お客さん来ちゃった、早く早く!」
と少女が二人を奥の部屋へ押しやる。
「はぁーい!」
と元気よく答え、接客をしに行った。
奥の部屋では、2人が着替え始めていた。
先ほどの少女と全く同じ、大きく広がった白と黒のドレスを着て、大きなリボンのついたカチューシャをつける。
これは三人の『姉妹関係』を表す。
少女アリスの営む人形屋。
そこに双子は住んでいる。仕事の手伝いをしながらだ。
双子の事は都市伝説のようになっていて、騎士団も動き出したようだが、仕事着は着物とドレスで、色合いも違うので平気だ。
リリアのみ包帯を外す。
この間リリアがリリスの制止も聞かず解いたところ、
何もなかったのでリリアだけは安全なことがわかった。
母はきっと2人が判別のつかないようにすることで二人を守ろうとしたのではないか?ということはお姉ちゃんには何かあるのかな、という結論に至ったのでリリスは外さない。
念のためアリスに電話で安全を尋ねることになっている。
部屋の電話を手に取り、三つの部屋に分かれている内の真ん中の部屋、作業部屋に電話をかける。
少ししてガチャ、と電話を取る音がした。
『大丈夫?』
『それがさぁ、出ないほうがいいかも・・・』
『何かあったの?』
『騎士団の奴らもうこんなとこまで来てるよ・・・?どうする?ここから移る?とりあえずは出てこないで、シラ切っとけば大丈夫だから。』
『はーい』
ガチャ、と受話器を置く。
「騎士団の奴らもう来てるって!」
「・・・へぇ?」
帰ってからずっと無言だったリリスが口を開く。
「・・・静かにしてるのよ。」
「わかってるよ。」
アリスside
「はい、お待たせしました〜!ごめんなさいねー、注文の電話が入りましてー!」
相変わらずのニコニコ顔で応対するアリス。
「すいません、忙しそうなのに・・・」
可愛らしい少女が礼をする。
「私たち、すこししりたいことがありまして・・・」
「双子の話ですか?」
「は、はい!でも、なんでわかったんですか?」
キョトリ、と首を傾げる少女に、いやー似合ってるなーと思いつつアリスもそれに答える。
「いろんな人が聞いてくんですよー。でも生憎私は知りませんねー。」
「そ、そうですか、失礼いたしました・・・」
「でも」
「?」
「そんなものきっとただの噂ですよ。嘘ですよ。人形の素材は日中には売り切れていることが多いんです。そのせいでいつも夜に買い物する羽目になりますけど会ったことなんかないですし〜?」
「そうなんですか?でも調査は調査なので・・・」
「そうですか。・・・気をつけたほうがいいですよ。」
急に暗くなるアリスの声に、びくりとしたように少女が固まる。
「なんか収穫あったか〜?」
ドアの向こうから黒髪の青年が顔を出す。
(チッ、仲間がいやがったか。このまま諦めればよかったものを・・・)
アリスが心の中で毒づく。
「えっと、今教えてくれそうな時にレルガが来たんですよ。」
「ん?なんか知ってたのか?」
「知らないみたいなんですけど・・・気をつけた方がいい、と言われたのでその話を。」
「気をつけた方がいい、ねぇ・・・。あ、すまん。続き。」
「はは、そんな真面目なもんじゃないですよ。夜中に歩いていて出ないならターゲットがいるんじゃないかって話です。なら下手に手を出して刺激したらマズイんじゃないかって話ですよ。・・・あ、せっかくいらしたんですしこれいります?」
そう言ってクマのマスコットを二人に差し出す。
「うちの商品なんです。よろしければまたどうぞ。」
にこ、と完璧な笑顔(本人からすると営業スマイル)を浮かべるアリス。
それを受け取った少女と青年は、少し不思議そうにする。
「お前ってさ、子供なのに人形師やってんの?」
「あぁ・・・親が殺されてるもので。」
「!・・・悪りぃ。」
「いいえ。同じような人たちが私を支えてくれるんです。生まれて最初に見たのは親の死体と血だったそうです。あまりにも印象的で覚えていたのかもしれませんけど。だから私を妹のようにしてくれて。私が稼いでやりくりしてくれるのがお姉ちゃんなんですよ。」
「そうなんですか!いい人なんですね!」
「ええ。それでは、もしもの場合にお気をつけて・・・」