終焉 始まり
わあわあとサッカーをして外を走り回る男子を見ながら(感じながら?)手元のフライパンを動かす。
今日は男子はサッカー。
女子は家庭科の調理テストで、好きなものを作ることになっている。
有名な高校、『リズエラ高校』。
勉強からスポーツまで、様々な教科を全て全国トップの座に鎮座する超有名高校。
三年生トップはこの少女、リリス。
両目を包帯で巻き、結び目から先を長く垂らした凜とした佇まいは、男子からも女子からも人気だ。
学年2位は、リリスの双子の妹リリア。
リリスよりも騒がしく、どちらかというと男子と遊びまわるようなバタバタとした性格である。彼女も包帯で目を覆っている。
「うわぁ、すごーい!」
綺麗に盛りつけされたデザートをクラスメイトたちが寄ってきて口々に褒める。
「うぎゃーーーー!!!」
隣の班からは双子の妹の悲鳴。
リリスは呆れ気味に妹の救出に行き、ドタバタとした日々を過ごしていた。
「目が見えないのにすごいよねー!」
「空気で感じてる?とかそんな感じだよー」
リリアが答える。
「ちょっと早く着替えなよリリア。あんたが最後よ。」
「え、嘘!?」
体育のためバタバタと着替えを済ませ、慌てたように外へと飛び出す。
校庭では男子が待っており、サッカーボールを足で押さえている。
わあわあと男子対女子の戦いが始まれば、女子がいきなり3点リード。
その後は、体育の苦手な女子にボールを回すなどして、余裕で圧勝したのは、双子の活躍。
まさに文武両道。
次の時間は音楽。
大好きな教科。
リリスとリリアのハモりは綺麗で、クラスメイトにアンコールを受けて困り果ててしまうこともしばしば。
給食中。
ビービーと音が鳴れば、それは不審者侵入の合図。
落ち着いて移動する生徒たち。
有名高校の中でも特別なこの高校は、侵入されてしまうことも多い。
しかし、この場合は違った。
放送をしていた先生の声が途切れ、代わりにグチャリという音。
そのせいで、生徒たちは不安を一斉に掻き立てられる。
ざわり、ざわりと不安の波が伝わり、席を立ち逃げ出す者、震える者。中にはボロボロと涙を流す生徒もいた。
隣のクラスから悲鳴が聞こえた。
それが合図だった。
うわあああ、と教室を飛び出した男子。
一度飛び出したが、外の様子に驚き戻ってきた。
「廊下が・・・」
好奇心のある女子が思わず覗く。
「待て!」
そう言って制止した男子にも構わず、覗き込んだ女子は盛大な悲鳴をあげることになった。
死体死体死体。
耳を塞ぎ、
「あ・・・ああ・・・」
と放心状態になるもの。
初めて女子が動く。
双子だった。
自分のロッカーに向かい、大きな箱を取り出し、紐を肩にかけて背負い、放心状態になった女子をリリアが抱きしめる。
「大丈夫、大丈夫だよ・・・」
その声と様子に、次第にみんなの心が落ち着いてくる。
男子が立ち上がる。
「出よう、外に!」
「うん!」
リリアが力強く答える。外にも人が集まっていた。
行動力のあるクラスらしい。
先生は既に逃げ出していた。
元々無口なリリスが小さく悪態を吐く。
「役に立たない奴」
校庭に逃げ出すことができた。
それは犯人たちの予想通りだったらしい。
待ち構えられていた。
親に言われたこと。
今は亡き美しい母に告げられた人間とは異なる存在。
私もそうよ、と告げた母。
「その包帯はとってはいけないわ」
と言って二人の眼と片腕に包帯を巻きつけ、微笑んだ空気がした。
今ならわかる。
(母さんは生まれた時に死んでいた)
(初めて見たのは両親の血)
(あれは)
(母さんの)
(亡霊)
(亡霊になっても見守ってくれた母さん)
(今ここにあなたと同じ種の敵がいます)
((私達はどうするべきですか?))
リリアの仲の良い女子も男子も
リリスの仲の良い男子も女子も
屍と化していった
平然としたリリス
手を震わせて激怒するリリア
心の内は
二人とも同じ
人間ではない相手に勝てる見込みはない
「殺す・・・」
そう漏らしたのはどちらだったか。
「もう、戻ることはできませんよ」
仲間なのか敵なのかわからぬ緑の少女が囁く。
リリスの伸ばした手は届かず
リリアは駆け出す
「全てが今終わります。双子の鋏姫、それがあなたたちの名前・・・」
禁忌の箱に手をかけて
取り出すは月と薔薇の鋏
今宵生まれし惨劇は
新たな物語の幕を開けるだろう