#1―鳴らない音―
あと2週間ほどで夏休み。
日が経つにつれ暑さも増す。
「あーつーいー…」
放課後英治は校庭のベンチでうなだれていた。
「お前最近そればっかだな。それよりドラム探さなくていいのか?ほれ」
「冷たっ!」
直人が缶ジュースを投げた。
「んなこと言ってもよぉ…軽音部のやつ引き抜こうとしたら見事に拒否られたじゃん…」
連日軽音部に足を運ぶも門前払い。部員は15人を超える大所帯だが、部内でバンドを組んでいる為、引き抜きなどは当然お断りだったのだ。
「まぁ…確かに。ドラムなんてその辺に余ってるわけねーしなぁ」
ドンドンドコドコドンドコドンドン!!
ドン!カッ!ドドン!ドコドコ…
ベンチの後方から威勢のいい、力強い音が流れてきた。
「ん?太鼓…部か…?」
英治が振り向くと汗だくになってバチを叩く太鼓部が練習していた。
「おー!!すんげーなおい!!見ろ直人!」
「…確かにすげーけどドラムとは………ん!?……英治!もしかしたらいけるかも!」
「俺も同じこと考えてたー!!」
二人はベンチを飛び出し太鼓部の練習スペースに走りだした。
部員6人と少数だが、毎年コンクールで入賞を果たすほどの実力派集団だった。
「待てよ」
練習中の部員に声をかけようと近づく二人に声がかかった。
「あぁん?」
英治は喧嘩ごしで振り向く。
「練習の邪魔なんだよ。近づくな」
色黒のこの少年も負けず劣らずの喧嘩ごしだ。
「落ち着け英治!…ごめんごめん。ところで君も太鼓部?」
直人は大人だ。こういう場を落ち着かせるのがうまかった。
が、しかし…
「うるせぇ!お前らには関係ねーだろーが!!」
色黒の少年は立ち去ってしまった。
「なんだよアイツ。部員じゃねーのになんでここにいるんだよ」
明らかに英治は機嫌が悪い。
「そう怒るなって。練習終わったみたいだし聞いてみようや」
2人が話をしにいくと部長が対応してきた。
「悪いけど夏のコンクールに向けて忙しいんだ。今部員が減るのは困るし、多分抜けるやつなんていないと思うよ」
言い返す言葉は当然なく、英治が引き返そうとしたその時直人が口を開いた。
「あいつ…さっきまであそこにいた色黒のやつはなんですか?部員じゃないんですかね?」
部長はしばらく考えたあと話始めた。
「彼はね…元部員だよ。今年の始めのコンクール前に肩を脱臼して…ドクターストップ。その後すぐに退部届けを出してきたよ…。彼の気持ちを考えると引き止める事はできなかった…なぜなら……」
二人はその場を後にし帰路につく。
部長の言葉が頭をよぎる
なぜなら……
なぜなら彼は……
もう太鼓を叩くことができないんだから………
「俺がもしギターはもう弾けませんて言われたら…どうなんだろ…」
「そんなの……本当に言われた奴にしかわからねぇよ。下手な同情はかえってあいつを苦しめるだけさ。忘れようぜ。」
「……あぁ…だな」
英治は分かっていたがどうしても気になって仕方がなかった。
色黒の少年
瀬能周介【セノウシュウスケ】
17歳
元・太鼓部
腕前は歴代太鼓部員一だったという