彼と我(ヒトガ)
例えば世界が善い人ばかりなら僕は悪人になっていただろう。
もし世界が悪い人ばかりなら僕は善人になっていたに違いない。
だが実際はぐちゃぐちゃとしていたから、僕は心底どうでもいい人間になっていた。
そして軽い自己不信状態の中で事実を知った。
人の死を喜ぶ、そんな人間が実際にこの世の中には存在するのだ。これまで考えなかった訳ではない。だが僕が抱く人間像のなかの人間はヒトを敬慕していた。
でもそれが―悲しいことであるが―僕の淡い幻想と同時に願望だということに気付かされた。