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恋愛はやっぱり厄介だ。

 それにしてもどんなに嫌な奴でも反省する時は反省するんだな。後悔しないって言われた時はぶん殴りたくなったけど、まあ謝ってくれたからよしとしよう。

 だけど許しはしない。


 水無瀬と久我先輩が去って行ったすぐ後に稔が教室に入って来たけど、わざわざ今起こった事を話す気にもならなかったので放っておいた。でも機嫌がよくなってたらしく、仲直りでもした? って聞かれた時は殺す勢いで睨みつけてしまった。

 さすがに八つ当たりするのはそろそろやめたほうがいいかもしれない。最近ずっと八つ当たりしてるのにキレ返さない稔には感謝します本当に。


 雑談しながら二人で帰り道を歩いていると、ふと稔がこちらを見た。



「ところで、話の途中だったんだけどさ、宮谷に告白とかされてない?」



 ピキッと青筋がたった気がした。



「さ・れ・て・ま・せん」

「なぁーんだ」

「なんだとはなんだ!」

「あいつ絶対彩那のことが好きだと思うのよねー」

「..........」



 稔のそういう発言のせいで勝手に噂が出回るんでしょーよ。まさか稔自身気づかずに噂を回して、それが自分に帰って来た時も自分が回した噂だって気づいてなかったとか?

 .....うわぁ、超あり得る。



「あのねぇ、確信も持てずにそういうこと言うから噂が回るのよっ。宮谷君があたしのこと好きでも好きじゃなくてもそういうことを軽々と言わない!」

「だってー」

「だってじゃない」



 ったく。どこの駄々っ子だあんたは。



「というかそういう稔のことが好きな男子だっているんじゃないの?」

「なんでいきなり私の話になんのよ!」

「さっきからずっとあたしの話してるんだからいいじゃん! そういえば稔の初恋話とかも聞いてみたいなー」

「誰が言うか! あ、信号変わったから私行くわ! じゃあねー!」

「あ、こら、稔! 逃げんな!!」



 チッ。人の恋愛沙汰にいつも首を突っ込むくせに自分の話になると絶対嫌がるんだから。

 ......ん? そういえば、稔って好きな人いるんだろうか。なんだか知らないけどいつもあたしの恋愛沙汰に結びつけるからよく知らないんだよなぁ。


 溜息をついてから歩き出して、家の前まで来た。

 ....また喧嘩とかしてなきゃいいんだけど。



「ただい—」

「私のやることにいちいち口を挟むぐらいに嫌になってるんだったら、さっさと出て行けばいいでしょ!!!」



 家のドアを開けた瞬間に怒声が聞こえて来て、驚いて息を詰まらせた。

 ....今の声は、お母さん...。いつもとは全然違う怒鳴り声。今にでも、泣き出しそうな....。



 あたしがドアを開けたことに全く気づかずに口論を続ける二人がいる部屋に、恐る恐る近寄ってみる。台所へ続くドアをほんの少しだけ開くと、部屋の真ん中で睨み合っているお母さんとお父さんがいた。

 お母さんの目にはうっすらと涙が浮かんでおり、お父さんの方は苦虫を噛み潰した様な顔をしていた。

 ....今まで何回も二人が喧嘩する所をみてきたけど、あんな....あんな状態の二人なんて見た事がない....。



「私が何をやってもネチネチネチネチと文句をつけてきて! だったら貴方は何かできるわけ!?」

「出来たとしてもお前が何一つやらせてくれないじゃないか!! 俺に何をしろっていうんだよ!!」

「ふざけんじゃないわ!! 私がやってと言っても何一つやってくれないくせに!! 都合のいい時だけ私のせいにしないで!!」

「お前こそ都合のいい時だけ俺のせいにすんじゃねぇよ!!」



 .....何なの。

 どうしてこの二人はいつも喧嘩しか出来ないの。どうしてそうやっていつもいつもいつもいつも喧嘩しないといけないのよ...っ! その度にこんな気持ちになるあたしは、どうすればいいっていうのよ!

 

 二人がこんな状態で家にいたくないと思ったあたしは、床に転がっていた鞄を拾い上げてから家から出て行った。








 







 あの状況じゃあ、あと一時間は険悪の雰囲気が続くだろうなぁ。水無瀬といい親といい、なんであたしはこんなに険悪な雰囲気にばっかり巻き込まれてるわけ? いや、まあ、水無瀬との険悪な雰囲気は今日で解決したからいいとして(多分ね)、両親が毎日あれじゃあ精神的に参るよ。ほんとに。


 はぁぁあ、と大きな溜息をついて、マックにでも寄るかと思ってる矢先、



「有賀?」



 最近その名前を呼ばれる時は同じ人だから嫌そうな顔をしそうになった。けど、寸での所でその声の持主が違うことに気づいて驚いて振り向いた。

 立っていたのは宮谷君だった。



「宮谷君...」



 名前を呟くと宮谷君がニッと笑みを浮かべた。



「こんな所で何やってんだよ、有賀」

「...ああ、いやぁ、なんか家に帰りたくなくて...」

「?」



 宮谷君が首を傾げた。

 ....宮谷君なら別にいいかな。



「両親が喧嘩しててね。すっごい大喧嘩。だから」



 にへらっ、と弱い笑みを浮かべると宮谷君が少し目を見開いた。それからそっか、と呟くと、あたしが入ろうとしていたマックを指差した。



「奢るよ?」



 ....宮谷君こそ真の優しさを秘めている男...っ!! さすがすぎる!

 わーいありがとー♪ といいながらルンルン気分でマックに入って行くあたしを、苦笑を浮かべて宮谷君が追って入って来た。そのまま二人でハンバーガーと飲み物を頼むと、窓際の席に腰を降ろした。

 店内を見回すと制服を着ている子が多い事から、学校帰りの子が殆どなのだろう。まあ、確かにマックは小腹がすいた時にはもってこいの場所だから気持ちはよく分かる。勉強とかも出来るしね。あたしは人が多くて集中できないけど。


 コーラを飲みながら店内を見回していると、宮谷君の視線を感じて顔を戻した。

 ....うあ、稔の言葉思い出しちゃったじゃない! あああああだめだ。ここで余計に気にしたら絶対変だから普通に振る舞おう!



「そういえばさ、宮谷君はこんな所で何やってんの? 部活もないし、ずいぶん前に帰ってたんじゃないの?」



 宮谷君は野球部に属しているけど、確か野球部は四時半に終わったはず。

 あたしの質問に、ああ、と宮谷君が声を出した。



「いや、今日好きな漫画の発売日でさ。俺の家の周りって本屋がないからここで買ってこうと思ったらつい立ち読みしちゃって、こんな時間に....」

「そうなんだー。でもその気持ち超分かるっ。本屋って立ち読みしちゃうよねぇ」



 あたしが同意すると宮谷君が小さく笑い声をあげた。



「そうそう。一冊だけ買って行くつもりが三冊立ち読みして二冊買っちゃったよ」

「あははっ、そういうこともあるよっ。それがきっと本屋の目的だね」

「むっ、なるほど。本屋って商売上手なんだな。チッ、はめられたぜ」



 二人で笑い声をあげると、宮谷君がハッとした。



「そういえば、お前んちの親って、仲悪かったっけ?」 

「え?」



 いきなり会話が戻ったなおい。



「いや、中学の時に何回か見かけたことがあるんだけど、仲良さそうな夫婦だったから...」

「んー...。喧嘩を始めたのはあたしが高校に上がった頃から。去年はそんなに喧嘩することなかったのに、今年からは小さなことですぐにお互いに食いつくようになっちゃってるんだよねぇ...」



 今日みたいな大喧嘩もしちゃうし。

 はぁぁ、と深く溜息をつくと、宮谷君が少し眉を寄せた。



「俺んちの親も最近よく喧嘩すんだよ」

「え? そうなの?」

「うん。ほら、俺達来年は受験生だから、進路のことでよくもめるんだよ。母さんは俺に特定の大学に行ってほしいんだけど、父さんが俺の進みたい大学に行くべきだってね。嫌になるよ」



 ふぅ、と宮谷君が息を吐いた。

 ...そっか。そうだよなー。進路のことでもめるのはどの家族でもありそうだけど、どっちかといえば親と子供が喧嘩ってイメージがして、親同士が喧嘩するっていうのは考えなかったなー....。



「そっかー。宮谷君ちも大変なんだね」

「まあね。まっ、有賀の親が進路のことでもめているのかどうかは知らないけど、そんなに気に病むなよ? 親っつーのは兄弟並みに喧嘩するもんなんだからさ」



 ニカッと宮谷君が笑顔を浮かべて、あたしも小さく笑い返した。

 さすがクラスのムードメーカーだなー。人の気分をすぐに変えられるのがすごいや。



「へへっ、ありがとう宮谷君。ちょっと元気出たかも」

「そりゃよかった」



 その後も二人で雑談していると、いつの間にか六時になったのに気づいて慌てて二人して店内から飛び出した。

 話し込むと時間が過ぎて行くのを全然感じないんだよなぁ。お母さんもお父さんも喧嘩してなければいいんだけど....。


 はぁ、と息を吐いてから、まだ隣にいる宮谷君に向いた。



「それじゃあ気をつけて帰ってね、宮谷君」

「有賀こそ」

「今日はありがとう」

「いえいえ。励ましになれたのなら何よりでございます」



 スッと紳士的にお辞儀をした宮谷君に笑い声をあげると、宮谷君もあたしを見て笑った。それから一瞬真剣な表情になったけど、それに気づかずにあたしは踵を返した。

 家に帰ったらどうしようと考えながら歩き出した瞬間、



「っ、有賀っ」



 グイッ、と腕を引っ張られたと思うと、そのまま身体を翻された。驚いて目を見開くと、宮谷君があたしの両腕を強く掴んだ。



「はっ、え!?」

「有賀、聞いてほしいことがあるんだ」

「...え?」



 『あいつ絶対彩那のこと好きだと思うのよねー』


 稔の言葉が脳を横切った。このタイミングでそんな言葉が脳を横切ったのは、きっと気まぐれなんかじゃない。

 嫌味として言っているわけじゃないけど、告白されるのははじめてじゃない。だから、なんとなく告白される時は相手がどんなふうに振る舞いのかは、なんとなく分かってる。....つもり。

 少なくともこんな決死の表情であたしの両腕を掴んで『聞いてほしい事がある』って言われたら誰だってそう連想するでしょー!?

 ちょっとパニックになってきた!



「え、あの、み、宮谷君?」

「俺、俺さ、」



 ちょ、いや、告白じゃないかもしれないし早まるなよ彩那! そんな自惚れみたいじゃないか! ああああだから宮谷君が決死の覚悟であたしと向き合ってるからって別にあたしに告白するわけじゃないだろーし!



「俺、有賀のことが、その」



 あたしの腕を掴んでいた力を緩ませて、一瞬だけ言葉を切った宮谷君が俯いた。

 ねえ、ちょっと、本当に....っ! あたし、宮谷君との関係壊したくないの....っ!! いやでも『好き』って言われたわけでもないのにそんなこと言うのもおかしいけど、だけど言われてからじゃ遅いしああもうっ!


 脳内で必死に思考を巡らせている間に宮谷君が顔をあげて真っ直ぐとあたしを見た。



「俺、有賀のことが—」


「彩那ちゃん?」



 ピタッ、とあたしと宮谷君の動きが止まる。気のせいであって欲しいかけど宮谷君の口の形が『す』で止まってる。いや、気のせいだよね。そんなそんな告白とかされるわけじゃなかったしね!

 .....はぁ...。


 と脳内でそんなことを思っていたけど、そんなことよりもあたしを呼んだ声にあたしも宮谷君も振り向いた。背中を流れる黒い髪に整った顔立ち、右手にはスーパーの袋。

 まぎれもなく斉木美智子さんだ。



「....美智子さん」



 予想以上に声に安堵が込められていて、しまったと思っている間に美智子さんがあたしと宮谷君を交互に見た。

 それから、あら、という感じで口元を覆う。



「....お邪魔しちゃったかしら?」

「美智子さん!」



 本当にこの人のタイミングはなんなのよ! 必死に、何も言わないで! 的な視線を美智子さんに送っていたら(それを分かってくれたかどうかは分からないけど)、宮谷君が困惑した表情であたしと美智子さんを交互に見る。

 ....そりゃあ、なんちゅうタイミングでくるんだって宮谷君も思ってるだろうね...。



「...有賀、知り合い?」

「えと、う、うん。知り合いのお姉ちゃん」



 なんとか宮谷君と目線を合わせてから美智子さんに視線を滑らせると、へぇ、と静かに宮谷君が呟いた。だけど美智子さんがニッコリと微笑むと少し目を見開いた。

 ...まああれだけ美人に笑いかけられちゃ...誰でもそうなるよ。うん。同性でも見惚れるくらいだからね。



「はじめまして♪ 斉木美智子です」

「あ、は、はじめまして、み、宮谷悠人です」

「よろしく宮谷君♪ あら、宮谷君は彩那ちゃんと同じクラス?」

「いえ、学年は同じですけど」

「あら、そう。じゃあうちの弟の愁也とも知り合い?」

「...愁也?」



 ひいいいいいいいいいい!!! 美智子さん!! 美智子さんなんてこと言うのよ!! ちょ、水無瀬のお姉ちゃんとあたしが知り合いとかが世に知られたらほかに何を言われるか分かったもんじゃない! あたしの『何も言わないで』視線は効果がなかったのかよ!!!

 ここは水無瀬じゃないと言った方がいいのかいやでも水無瀬じゃないって言ったって愁也っていう名前の男子なんてあいつ以外にいないじゃない! だけどだからといって水無瀬のお姉ちゃんとあたしが知り合いだってバレるのもなんとなくまずい気がするっていうかいや絶対やめたほうがいいっていうか! ちょ、どうするのあたし!!


 とか心の中で叫んでいる間に二人の会話が続いて行く。



「愁也って....まさか水無瀬のことですか?」

「み、みや—」

「そうそう! 水無瀬愁也、私は結婚してるから苗字は違うけど、私の弟なの♪」

「.......水無瀬が?」



 あああああぁぁぁぁぁぁ.........宮谷君の視線があたしに注いでくるのが分かる......。だめだ、どうしよう、ここで下手に言い訳してもごまかせないし、それどころか美智子さんが何を言っても全然平気よねみたいな雰囲気でいるからちょっと無理これは無理!



「み、美智子さん! あたしに話があったんでしょ!?」



 (美智子さんに取ったら)よく分からない沈黙に陥ると、すぐにあたしがそんな言葉を口にした。美智子さんが驚いて両目を大きく見開いたけど、今回はあたしの視線の意味が分かったのか、交互にあたしと宮谷君を見てから困惑気味に頷いた。



「えっ? あ、え、えと、そ、そうだったわね」

「ということだから、ごめん宮谷君! 今日はありがとう! 気をつけて帰ってね!」

「えっ、」



 返事を待たずに美智子さんの腕を掴んで引っ張って行く。確実に宮谷君が見えなくなってから角を曲がると、そこであたしは息を切らしながら本当に宮谷君が見えないかどうかを確かめた。

 充分に距離を引き離したからなのか、マックの看板すら見えない。

 よし。



「ちょっと、彩那ちゃん? 一体どうしたってのよ」

「美智子さんのバカあぁああああああああああ!!!」

「えぇえええええええええ!?」











 



 約束通り投稿できました!! わーいわーい! いやもうほんとよかった...。


 微妙な所で区切ってすみません>< 長くなってしまったので、二話に分けようと思います。今日の夜か明日には投稿します。



 ここまで読んでくれてありがとうございますorz


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