恋は本当に大変なものだ。
お久しぶりでございます。いろいろあって長い間投稿できなくてすみませんでしたorz
お詫びといってはなんですが、明日も投稿するつもりでいます。
少し長めです。
結局この実験に成功したのはあたし達の班以外には二班しかいなく、それも学年三位の神楽さんの班と、稔と遠田の班。まあ、つまりは学年トップファイブの班だ。当然といえば当然か。そういえばトップファイブって全員物理取ってんだな...。
ってか三班しかできてないから明美先生にはこっぴどく怒られた。いやいや、元はといえば貴方のせいでしょーに。
「それにしてもうちは遠田がいてくれたから助かったよー。いくら式くれたといっても遠田がいなかったら絶対出来なかったなぁ」
「だから予習しときなさいって言ったじゃない」
現在放課後。またもや稔の部活が終わるまで待っている所を、休憩中の稔が教室に入って来て会話をはじめた。
あたしの冷静な言葉に稔が頬を膨らませた。
「どっかの天才二人と違って私は予習しても分からないことが多いのっ」
「....天才はあいつよ。あたしは予習をしっかりやったから出来ただけ」
水無瀬を会話に引っ張りだした稔に少し機嫌悪そうに言うと、じっと彼女がこちらを見た。
「....何?」
若干睨みつけながら言うと稔が慌てて両手を前にかざした。
別に殴るわけじゃないからそういう反応やめてよ。傷つくじゃない。
「いや、水無瀬君と喧嘩しても天才なのは認めるんだなぁ、って思っただけ」
「別に喧嘩したわけじゃないよ。それに、天才なのは誰だって否定できないことでしょ?」
「まあ...そうだねぇ。彩那は学年二位なのになかなか追いつかないしね」
「........」
「あ、いや、う、うそ! 嘘! ごめんなさい地雷踏みました何も言ってません!」
ほんとにもう。
水無瀬のせいでずっとムカムカしてるんだよ、あたしは。だからといって本人に毒を吐けるわけじゃないし、ストレス発散も出来ないし。
ああもう!! この胸の中のムカムカは誰にぶつければいいのよ! 実験が成功したと分かった後にニコニコ顔で『やったね。さすが有賀さん』とか笑顔を振りまきやがって! おかげさまであたしは『いやぁ、水無瀬君のおかげだよ♪』とか返さないといけない羽目になったじゃねぇか!
....というか、そんなあたし達を美里ちゃんがじっと見てたのが一番気になるんだよね....。稔からの連絡であたしと水無瀬がなんでもないって分かってるはずなんだけど。ってか分かっててほしいなぁ。これ以上あいつの恋愛沙汰に巻き込まれたくない。あたしは夏菜ちゃんだけでもう充分懲りたよ。
「そういえば、彩那」
稔が声をかけて来たので顔をあげた。
「何?」
「宮谷ってあんたのこと好きなの?」
..................................。
「......はい?」
「いや、噂で聞いたんだけどさ、あんたと宮谷って中学からの付き合いでしょ?」
「そうだけど...」
「仲いいの?」
「....悪くないと思う...」
中学でも一年と三年の時に同じクラスになったわけだし、ああいう性格だから誰とでも気軽に話すのが宮谷君だ。男子の中でもそれなりに交流が多かったし、よく話したけど....。
「好きって...所詮噂でしょ?」
「そうなんだけどさぁ、今日あんた達をずっと監視してて本当かなって思ったんだよね」
「監視なんてしてちゃ実験が出来ないのも当然だね」
「うるさいよっ。とにかく、宮谷って何かとあんたのこと見るのよ。しかもよく話しかけられるでしょ?」
「..........」
そんな、ことは、ないと思うんだけど....。
「だからってあたしのことが好きってわけじゃ—」
「男が女を何回も見るのに恋愛感情以外に一体何があるっていうのよ!」
「...........」
「それにしても水無瀬君もそれに気づいてるっぽいし、美里ちゃんもいるからまあ、あの班は見事な四角関係だね」
「いやいやいや、なんで水無瀬君が出てくるのよ」
「いやだって、あんたと水無瀬君が付き合ってるかもしれないって噂は美里ちゃんだけが知ってるわけじゃないんだから」
「...........」
なんですと?
「そういうことは早くいえよおおお!!!!」
「えぇぇえええ!? だって知ってると思ったんだもん!!」
「知らないよ!!」
美里ちゃんだけじゃないって....っ!! ってことは学校の中ではあたしとあの猫かぶり野郎が付き合ってるって思ってる人が他にもいるってことかよ.....っ!!
「あり得ない....」
「え、いやでもほら! 信じてない人も多いと思うし! 美里ちゃんもきっと違うって言い張るからほら心配しないで!? ね!」
机に突っ伏して言うと、稔がオロオロしたままあたしを慰めようとする。
水無瀬と付き合ってるって.....。そんな噂が流れたらあたし一体何人に目の敵にされると思ってんのよ....っ! うちの学年所か一年も三年も水無瀬のことが好きな子っているのに!
....やだなぁ、リンチとかにあいそうだなぁ。そんなの漫画にしかない展開かもしれないけど....。
「ごめんって彩那! 余計なこと言った! 私の言ったことはもう気にしないで!」
「.....いいよ。平気。稔のことは責めてないし、ほらっ、早く部活戻りなよ。先輩が呼んでるよ?」
あたしの言葉に稔が外に耳を向けると、校庭の方から『みのりーーーっ!』と叫んでいる声が聞こえる。
「ああ、もう! 五分も経ってないじゃん! とにかくごめん彩那! 長引いたら先帰っていいから!」
「へいきへいき、終わるまでここにいるから」
さっさと行きなー、と手を振ると少し心配そうにこちらを振り返ってから稔が走り去って行った。
そして三十分が経過し、五時ぐらいにさしかかった所だった。
「...有賀さん」
窓の外見ていたあたしは、呼ばれた声にハッとした。こんな時間に稔以外に誰があたしを呼ぶっていうのよ。未だにムカムカしていたあたしは少し不機嫌そうに振り向くと、教室のドアの側にいる人物に目を見開いた。
立っていたのは、三年生生徒会副会長、久我夏美先輩だった。
「....久我先輩?」
えーと。世界の全ての人の中でよりによって貴方に声をかけられることは最大の予想外だよ。
名前を呼んでも口を開きかけてから再び閉じただけで、先輩は少し俯いてしまった。
.....なんなの?
「あの、あたしに何か御用が?」
ってかなければここにいないよね。
声をかけると先輩は少しだけ顔をあげた。困惑した表情が浮かべてあったからこっちも困惑だよ。なんだっていうの?
「あのね、聞きたいことがあったの。本当はもう帰るつもりだったんだけど、貴方がいるのを見えたから寄ったのよ」
「...はぁ...」
「............」
.....再び黙り込んでしまった。
「あの、久我先輩? 聞きたいことがあるのなら—」
「水無瀬君のことなの」
声の強さが変わって思わずびくっと身体が震えた。
えっ....水無瀬?
「....え、あの、水無瀬君がなに—」
はっとした。こ、これは、もしかしなくとも、あの噂か.....っ!? あたしと水無瀬が付き合ってるなんていう馬鹿げた噂がまさか三年生に回ってしまってるのか....っ!? だって、だって久我先輩って確か水無瀬のことが好きだし、あたしを問いただしに来たとしても不思議ではない.....っ!
まさか、とか思いながら目を見開いて先輩を見ていると、恐る恐る先輩が口を開いた。
「有賀さんと水無瀬君が、付き合ってるって、本当?」
.....うわぁぁぁああ.....やっぱり........。
「あの、なんか、そういう噂が回ってるみたいなんですけど、ガセネタなんで。本当に。あたしと水無瀬君本当に関係ないんですよ」
だからその泣きそうな顔やめてくださいよ先輩....!!
ったく...!! 水無瀬がはっきりと断らないから先輩がこうやって来てしまったじゃないの!!
あたしの強い口調にしかし、先輩は納得した様子は見せなかった。それどころか、なんとなく睨まれてる気がするんだけど、それは気のせいであってほしい。
「水無瀬君がモテることはよく知ってるの」
「は、はい」
「私の学年でも彼のことが好きな人は五人は知ってるわ。貴方の学年なんてもっと多いでしょうね。一年生にも彼に憧れてる子は多いみたいだし」
「...は、はい?」
何が言いたいんだろう....。
「だから、水無瀬君が誰かと付き合ったら、付き合ってることを秘密にすることは当然だと思ってるのよ」
「.............」
「付き合ってることが公の場に出たら、女子の矛先が彼の彼女に向くことは分かりきってるもの。水無瀬君は優しい人だから、彼女をそんな目に合わせたくないだろうし」
「.......え、あの.....まさか、あたしと水無瀬君が、秘密で付き合ってると、思ってるんですか?」
「そうでしょう?」
違うよ!! なんでそういう結論にしかたどり着かないのよ恋する女子っていうのは!! ワーストなシナリオばっかり自分達のなかでたてていって勝手に傷ついて勝手に人を責めるんでしょうよ!
もう...! 冗談じゃないよ! なんで水無瀬のせいでこんなに振り回されないといけないんだよ!
「本当に違うんですよ先輩! なんでそういうことになるんですか!?」
「...だって貴方と水無瀬君は、仲がいいから」
「はい!?」
「前から思ってたのよ。二人とも学年トップの頭脳だし、運動神経もいいし顔もいいし。貴方達以上のお似合いのカップルはいないって思ってる人が殆どなのよ」
「冗談はよしてくださいよ!」
「本当よ!」
叫び返されて思わず言葉が詰まった。
「それに、私は水無瀬君をいつも見てるから分かるけど、彼は貴方の周りでは気を許してる。水無瀬君は一見誰にでも心を開いているように見えるけど、誰にも分け隔てなく接してるってことは、それだけ気を許してないってこと。だけど貴方の周りでは彼は落ち着いた様子を見せるもの。だから、私だけじゃなくてたくさんの人が貴方と彼が付き合ってるんじゃないかって前々から思ってたのよ」
「.............」
「そんなこと思ってる矢先に今度は学校外で二人一緒の所を見たって噂が回るんだから、付き合ってるとしか思えないじゃない!」
えぇぇぇぇえええええ....。なんでそんなことになるのよぉぉ......。
「本当に違うんですよ! 先輩! 本当に付き合ってたらあたしだって白状しますよ! だけど本当に付き合ってないんです!!」
「そうだとしたらどうして彼は貴方の周りだと自然体なの!?」
「知りませんよ!! よく相談に乗るからとか同じような立場だからとかそういうんじゃないんですか!?」
「違うわ! あれはもっと強い絆だもの! そうでなければ私だって貴方を疑ったりしないわ!」
「ああ、もう! 本当に違うんです—」
「有賀さんの言ってることは本当ですよ、先輩」
女子二人の声に突然割って入って来たアルトにあたしと先輩はドアの方に振り向いた。気づかなかったけど、いつの間にか先輩は教室に中に入って来てたんだ。
校庭にいるのを見たから声の持主を見てあたしはとくに驚きはしなかったけど、先輩は目を大きく見開いた。
「....水無瀬君....」
「...........」
先輩が名前を呼んだけど、あたしはムスッとして彼を睨みつける。こいつのせいでこんなことになってるんだから、こいつの口から聞いてみようじゃないの!
「なんだかそういう噂が回ってるみたいなんですけど、俺と有賀さんはただの友達です」
「でもっ」
「回ってる噂は単にバッタリ会った俺と有賀さんを見て勝手に解釈した奴の仕業でしょう。俺だって、誰かと付き合ったら隠すことなんてしませんよ」
「............」
さすがに本人に言われたからなのか、自分の気持ちが殆どバレてしまっていることもおかまいなしに先輩は黙り込んだ。それから水無瀬を見て、あたしに視線を移す。
「....ごめんなさい、有賀さん。悪いことをしてしまったわ」
「え、あ、いいえ、そんな。分かってくれたならあたしは別に....」
先輩が弱く笑って、それから水無瀬を見た。
「....水無瀬君もごめんなさい」
「...いえ」
「じゃあ、また」
床に転がっていた鞄を拾い上げて、先輩は足早に教室から走り出て行った。
......それにしてもあたしの言葉には一切耳を傾けないくせに、水無瀬の一言で納得するとは。あれこそ惚れた弱みってやつかね?
.....ったく、めんどくさ。
先輩が出て行ったドアをしばらく見つめてから溜息をつくと、水無瀬の視線が真っ直ぐとあたしに注がれてるのが感じ取れた。か、考えてみれば、猫かぶってない水無瀬とは四日ぐらい話してないんだっけ。
.....途方もなく長く感じるのはなぜだ?
「....有賀」
「話しかけないでよ。あんたを許したわけじゃないんだから」
「..........」
あんたのせいでどんな屈辱を味わったと思ってるのよ。それどころか美里ちゃんの気持ちもなんでもないかのように扱って。
ふんっ、とそっぽを向いて頬杖をつくと校庭を見下ろした。パァーン、と乾いた音がして、五十メートルの距離を三人の女子生徒が走って行く。
後ろで水無瀬が溜息をつくのが聞こえた。
「.....この前は悪かった」
「....謝って済む問題でもないでしょ。あたしだけじゃなくて美里ちゃんまで傷つけたんだから」
「........別にあの場に狭川がいたわけじゃねぇだろ」
「そういう問題じゃない」
即座に返事をすると、見えてるわけじゃないけど眉を寄せる水無瀬が想像できた。薄く窓に反射する水無瀬が頭をガリガリとかいてから、再び溜息をついた。
「狭川のことも、さすがに言い方が悪かった。そのことも謝るよ。.....お前にああやってキスしたことも、ごめん」
「.........何急に素直になっちゃって。気持ち悪い」
「てめぇ....」
「あんなことされたのに、あたしはまだあんたの秘密をバラすことをしてないんだよ?」
言いながら振り向くと、水無瀬が少し驚いた表情をした。それからすぐに顔を伏せる。
「ああ...。ありがとう」
.....何なのよ。急に素直になっちゃうと調子狂うじゃん。
心の底から反省してるようになんだかしょんぽりとしてしまった水無瀬に、あたしは溜息をついた。
「あたしと話さない方が秘密もバレないっていうのに、なんでわざわざ謝りに来るのよ。らしくもない」
水無瀬が苦笑を浮かべた。
「......案外、辛いもんなんだよ」
「...何が?」
「本当の自分を知っている人が、周りにいないのが」
「........だったら、猫なんかかぶらなければいいじゃない」
「そんな簡単にできるわけねぇだろ。俺はもう、掘りすぎてしまった穴の中にいるようなもんなんだから」
「........」
......何言ってんだか。最初から猫かぶろうなんて考えなければ、抜け出せない穴なんかにはならなかったのに。
「それもあんたのせいでしょ?」
「.....まあな。だけど、今までは平気だったんだよ。学校で本当の俺を知っている人はゼロだったんだから。それはつまり素を出さずに一日過ごすってことだ。一回聞いたらすっげぇ疲れると思うだろうけど、案外楽なんだよなぁ。バレちまってる人はいないから何をやっても誰も何も言わなかったし」
「.....それは軽くあたしのことを責めてるわけ?」
「別にそういうわけじゃねぇよ。ただ、一回俺のことを知ってる人がいると、素を出したくなるんだよ。特にお前は俺に無駄に媚びないし、一緒にいて楽だから」
「.........」
なんで急にこんなこと言ってるのこの人。ほんとに謎なんですけど。大丈夫かな? 熱とかあるわけじゃないよね?
「だけど、素を出せるたった一人の人物に無視を通されることがこんなにも辛いとは、思わなかったんだよ」
「...........」
「んでまぁ、そうなってしまった原因が俺だったから謝りに来たわけ」
「.......そっ」
「...そっ、て、お前なぁ。人が謝るのにその態度はねぇんじゃねぇのか?」
「散々人のことを振り回したんだから、そんなに簡単にあたしが許すと思わないでよね」
はぁぁぁぁ、と水無瀬が長い溜息をついた。
「まっ、どうせそんなことだと思ったよ。お前が簡単に人を許す奴じゃねぇことくらい予想の範囲内だ」
「よく分かってるじゃない」
「まあな」
一拍だけ長く見つめ合ってから、水無瀬は机にかけてあった自分の鞄を手に取った。それからスタスタと教室から出て行こうとするところで、あっ、と声をあげた。
少し目を見開いてそっちを見ると、ニッと水無瀬が口角をあげた。
「一応言っておくけど、反省はしてるが、後悔はしてねぇからな」
言い残してビュンッとものすごい速さで廊下を走って行く音が聞こえた。
わなわなと肩を震わせてあたしはガタンと座っていた椅子を押し倒しながら立ち上がった。
「ふっざけんなあああああああああああ!!」
しばらく書いてないからなんだか文才が落ちてる気がします。いやもうほんとごめんなさい! 石でもなんでも投げてください!
明日も投稿するつもりですが、できなかったら.....もう見捨ててくださっても文句一つ言いません....。