表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/16

好きになるのは勝手だけど、なぜこいつ?

 長くなった。

 お母さんとお父さんがまた喧嘩してる。ってか最早日常茶飯事と化してるよね。本当に嫌になって来る。二人とももうちょっと大人になってくれればいいのに。原因は聞いてないし聞きたくないけど、どうせまたくだらないことだ。お父さんがお母さんの食べ物に文句を言った。お母さんがお父さんの態度に文句を言った。お母さんがいらついていた。お父さんがいらついていた。

 どんな小さな事だって二人に取ったらすぐに大喧嘩に発展するような問題だ。


 あたしは土日に家にいるのは嫌いだ。理由なんて、言うまでもない。





「もしもし稔?」



 携帯を耳に当てながら部屋のドアを開くと、お母さんとお父さんの声がまだ聞こえる。いい加減にしてよ、本当に。

 稔の返答を待ちながら溜息をついてドアを閉めた。



『おっ、彩那! よくぞ電話してくれた!』

「ってかあんたが電話しろって言ってたんじゃない」

『まあそういうことだよね。んで用件なんだけどさ、勉強会しない?』



 .............はい?



「え、ごめん。何? 今なんだかあり得ない単語が稔の口から聞こえた気がするんだけど」

『勉強会よ。勉強会。勉強すんの。学年第二位の有賀彩那から勉強が教わりたいのよー』

「............稔、酔ってんじゃないでしょーね」

『どういう意味だよ』



 ツッコミが入りました。

 だってそうでしょ。そう思うでしょ。稔から勉強会の誘い? よりによって宇宙一の面倒くさがりやの立原たちはら稔からの誘い? とてもじゃないけど信じられるわけがない。



『ぶっちゃけ宿題写さして欲しいだけなんだけど』

「だよねー! やっぱそうだよね! 稔が勉強なんてしたいわけないもんねっ。そうだよね、ああよかったー」

『....そこまで言うか?』



 いやぁもう心底驚いたよ。稔から勉強会の誘いを受けるなんて何が起こったのかと思っちゃった。ああほんとよかった。



『とにかく家が嫌ならすぐにでも来てよね。明日提出の数学とか手付けてないから』

「...手付けてないってあんた、プリント五枚だよ? しかも先週もらったやつじゃん」

『あんたねー。私が本当に机に座って真面目に数学のプリントやるとでも思ってるわけ?』

「思ってないけどさ」

『即答かよ』



 やがて稔との会話を終わらせてから、あたしは数学のプリントを溜息と共に鞄に詰めた。それから文房具、携帯、財布...は多分いらないだろうけど一応持って行く。あとは....まあ特にないな。

 普段持ち歩いてるものを適当に鞄に詰め込んでから部屋を出た。台所の方を見ると二人の言い争いは終わったみたいだけど、閉まっているドアからもいやーな空気が漂って来る。

 ...一応行き先だけ教えとこうかな。


 台所に近づいてそろっとドアを開けると、お母さんがキッチンに立っていてお父さんはソファに座ってテレビを見ていた。ってかお昼も食べて今一時なのになんでお母さんキッチンに立ってんの? 皿洗いか?

 二人を一度見回してからお母さんの背中に呼びかける。



「お母さん」

「んー?」



 振り向かずに皿を洗いながらお母さんが答えた。



「ちょっと稔んちに行って来るね」

「あら、どうして?」

「...稔曰く勉強会」

「稔ちゃんが勉強? 珍しいこともあるもんねー」

「だよねー。じゃあいってきます」

「いってらっしゃい」



 最後にこちらに振り返ってから小さく笑ったのであたしも一応笑い返した。それからお父さんにもいってきます、と言うと小さくだがいってらっしゃいと返って来る。

 ...お互いに対してだけなんだよなぁ、この二人が険悪になるのって。あたしに対しては大喧嘩したあとでも普通に接してくれるし。あたしに八つ当たりしたくないのか? してるけどね、時々無意識に。









 稔の玄関に近づいた瞬間にドアが勢い良く開いたから驚いて目を見開いた。目の前に立っていた人物も同じく驚いて茶目を見開いた。

 立っていたのは稔のお兄ちゃんの、立原拓さん。あたし達より一歳しか違わないから普通にため口で話してるんだが、別にいいみたい。注意されたことも一度もないし。

 漆黒の癖毛が普段よりも跳ねてる所を見ると、起きてから髪の手入れはしてないってことだよね。まあ男がちまちまと鏡を見ながら髪を整えるのも気持ち悪いけど。



「彩那! びっくりしたー。何やってんの?」

「びっくりしたのはこっちだよ。あたしは稔と勉強会」



 予想通り拓が眉を上げた。



「稔が勉強だと?」

「うん」

「冗談だろ」

「冗談だよ」

「.........」



 ニッコリと笑ったまま拓と言葉を交わす。

 あたしの言葉に首を振りながら笑うと、拓はポンポンとあたしの頭を叩いた。



「んじゃ、よろしく頼むよ。ちょっとくらいあいつに勉強する意思を叩き込んでくれ」

「無理だと思うけど頑張る」

「おうよ」



 ニカッと笑って拓が歩いて行き、その後ろ姿を少しだけ眺めてから稔の家に入る。あたしを待っていたかの様に(いや実際そうなんだけど)稔の部屋に行き着くと稔のテーブルの上には既に五枚の数学のプリントが並べてあった。もちろん白紙。

 あたしが部屋に入るや否や稔はパァっと顔を輝かせてプリントを嬉しそうに差し出した。


 ....正直、この問題を学年五位の稔が出来ないとは思わない。ってことは面倒くさいだけってことか。

 溜息と共に鞄を置いて、あたしは中からプリントを取り出した。ここまで来ると何を行っても稔は絶対に引き下がらない。あたしの宿題を写すまでは絶対にね。



「はいはい。待って。これで、五枚、っと」

「やった♪ サンキュー彩那♪」

「へいへい」



 無言になってプリントに答えを写して行く稔に溜息をついてから、あたしは自分の勉強を取り出した。勉強っていっても宿題はもう全部終わらしてるから予習なんだけど。



「ああ、そうだ」



 二枚目のプリントを始めた所で稔が顔を上げずに声を上げたので、あたしは教科書から顔を上げた。二問目を終わらした所でビシッとあたしの顔にシャーペンを突きつけて来る。

 ...何?



「ズバリ答えてね」

「何をだし」


「水無瀬君と付き合ってるの?」



 ボキッ、とシャーペンの先の芯が折れた。あまりの威力に芯が宙を舞って稔のプリントの上に落ちた。

 あたしの反応を見た稔がパチパチと瞬きを繰り返す。



「え、図星?」

「んなわけねぇだろーがっ!!!」



 なんであたしが水無瀬と付き合わないといけないのよ!? どこからそんな推察が出て来たわけ!? 信じられない! しかもよりにもよって稔!? 稔に聞かれたんだけどあたし!! 水無瀬に興味ないって知っててその発言をするのあんたは!?


 わなわなと肩を震わせるあたしを見て、さすがに地雷を踏んだと思い込んだ稔が慌てて取り繕った。



「い、いや! 別に私がそう思ってたわけじゃなく!」

「...じゃあ誰?」

「え、えと、み、美里」



 ..............。

 ....なんですと?


 予想外の人物の名前に怒りがしずまっていく。

 美里ちゃん? なんでそこで美里ちゃんの名前が出てくるのかがさっぱり分からないんだけど、稔の様子からして本当なんだろうな。え、でもなんで美里ちゃん?



「ちょっと待ってよ。なんでそこで美里ちゃんの名前が出てくんの?」

「...付き合ってないのね?」

「んなわけないっていっただろうが」

「いや、だから確認だって! いや、そのね? 彩那と水無瀬君が付き合ってなければ言っていいって言われたんだけど、美里って水無瀬君のこと好きなんだよ」



 沈黙。



「............なるほど」



 そういうことね。所謂『嫉妬』ってところか。

 いやでも待てよ? あたしって別に今まで通りに水無瀬と過ごしてるはずだし、あたしと水無瀬が付き合ってるかもしれないなんていう疑惑は、ずいぶん前からあったってこと?

 でもあたしが知ってる限りでは、とてもじゃないけど付き合っているカップルのような振る舞いは一切したことがないはず....。何がどうなってそんな結論にたどり着いたんだろう。



「...なるほどねぇ」



 再び呟くと稔がそうなんだよ、と頷いた。



「いや、でも、あたしと水無瀬、君が付き合ってるなんて、普通に考えてあり得なくない? 今までそんな素振りしたことはないはずなんだけど」



 ヤバい。危うく水無瀬を呼び捨てにする所だった。

 あたしの質問に稔は少し困ったような表情を浮かべた。



「いやぁね? 私もそう思ったから、何がどうなったら彩那と水無瀬君が付き合うことになるの? って聞いたんだよ」



 グッジョブ稔。



「そしたら、金曜日? だったのかな。駅の前で彩那と水無瀬君が話してるのを見たって言ってたわけよ」



 ......駅の、前....。あっ。あっ! あれか! 稔と別れた後に待ち伏せされていた時のことか!

 うわー....。よりによってあんなタイミングを見られたのか....。ってか水無瀬が美里ちゃんに気がつかなかったってことは、そこまであたしが美智子さんと知り合いだったら怖いって思ってたってこと?

 ....地味にムカつくな。



「ああ...。確かに駅の前でバッタリと会ったから少し話をしたけど....。どうしてそれで付き合ってるって思うわけ?」

「最初はそう思わなかったらしいのよ。でも、昨日彩那に会った後に、商店街に行ったらしいの。そしたら彩那が水無瀬君と一緒にいるのを見たって言ってたから、それで疑問が浮かんだらしいよ」

「..........」



 しくった。まさか水無瀬に送られている所を誰かに見られるとは.....。ヤバい。バカ彩那。いくら午後でこの周辺にうちの学校の子達があんまり住んでないからって、なんで美里ちゃんのことは思い浮かばなかったんだろう....。すぐ近所なのに....。

 膝をついてガクッとうなだれたい気分だ。



「で? そうなの?」

「.....まあ、そうなんだけど」

「マジで!? じゃあやっぱ付き合ってんの!?」

「違うって言ってるでしょ!! 何回言えば分かってくれるんだよ!!」

「だってそれってつまりどっかから送って貰ってたってことでしょ!? それで付き合ってないと思わせる方が無理だよ! 親友としてショックだよ! そんなことが起こってたのに知らなかったなんて!」

「いい加減にしないとその口縫い付けるよ稔!!」



 息を切らして怒鳴りつけると稔はケラケラと愉快そうに笑い声を上げた。

 こいつ絶対いつか思い知らせてやる。



「冗談だって! でもなんで一緒にいたのさ」

「あのね? これには深いわけがあって、ってか絶対美里ちゃんには言わないでよ」

「分かってるって!」

「...水無瀬君ってお姉ちゃんがいるんだけど、あたしとそのお姉ちゃんが結構仲いいわけ。それで昨日お茶を飲みにいったらバッタリ水無瀬君と会ってね? 午後まで居座ってたから水無瀬君が送ってくれたの」



 ずいぶんと省いちゃったけどいいよね。夏菜ちゃんのこととか夏菜ちゃんのこととか夏菜ちゃんのこととか。

 と、あたしの言葉に稔は頬杖をつきながらふーん、と口にした。



「なーんだ。つまんないの。もっと深い面白い理由があるのかと思った」

「面白い理由があったらよかったってことでしょ? とにかく早くプリント終わらしてよ。あんたのせいで予習が進まない」

「へいへい。すみませんねぇガリ勉さん」

「本当にその口縫い付けるよ?」

「あ、そういえばさ」



 華麗に無視したなこのやろう。



「水無瀬君のことが好きな子って多いから、気をつけなよ?」



 .....注意されなくても分かってるつもりだよ。

 はぁ、とあたしは深く溜息をついた。










 人間というものは、何かに気づき始めると、どんな時でもそのことが目に入ってしまうものだ。たとえば、カーテンについた模様とか、友達の背中のシャツにくっついてる糸とか、あたしの場合は友達の好きな人へ向ける視線とか。

 美里ちゃんが水無瀬のことを好きなのは一目瞭然だった。むしろよく今まで気づかなかったな、と自分に言ってやりたいくらいだ。理科が嫌いな美里ちゃんが浮き足立って理科室に移動して、実験中も一生懸命水無瀬に話しかけて、話しかけられると目が少しだけ輝いて、頬がほんのりと赤に染まる。

 可愛いなもー。いや、本当にどうして今まで気がつかなかったんだろう、あたし。


 美里ちゃんと仲はいいけど、実際好きな人の話とかしたことはほとんどない。だから好きな人がいたとしても見当もついてなかったし、美里ちゃんもあたしに対しては同じだ。だからこそ、あたしが水無瀬と付き合ってるかもしれないと思った時に、あたしに聞くことができなかったのだ。

 ...複雑だなぁ、乙女心。


 付き合ってはいないものの、っていうかお互いに対して好印象を抱いてすらいないけど、美里ちゃんがいる前で水無瀬と仲良く話すのもなんだか気が引けて、出来るだけ水無瀬と会話をしないようにした。あたしの妙な態度の意味は理解していたのかしていなかったのかはよく分からなかったけど水無瀬の方もあたしと会話をしようとはしていなかった。

 チラリと美里ちゃんを何回か盗み見るとそれはもう至極嬉しそうな表情だった。

 ....いや、マジでどうして今まで気がつかなかった? あたし...。



「有賀、これよろしく」



 隣から呼ばれてはっと右に顔を向けると、宮谷君がスタンドを持ってあたしを見てる。

 え、これよろしくって、どういうことですかね宮谷君。



「....え、何が?」

「調整して」

「なんでスタンドが二つあんの?」

「こっちの方が早く進むかと思って」

「いや、そりゃそうだけど、同じスタンドでやった方が長さとかいちいち変えなくていいからこのままでよくない?」

「....そうかぁ?」

「すぐ終わらせたいからって楽しようとすんなっ」



 手にあった紙を丸めてペイッと宮谷君の頭を叩くと、チッ、わぁあったよ、と言いながらスタンドを戻しに行く。その後ろ姿を頭を振りながら見送る。宮谷君って、変な所で抜けてるよね。

 美里ちゃんと水無瀬が続けている実験に視線を戻すと、美里ちゃんが一生懸命メモリを記録していたけど、水無瀬がじっとこっちを見ていた。驚いて目を見開くと、呆れような表情をしてから実験に視線を戻す。

 ....なんだ今の失礼すぎる視線は...。










 そういえば、水無瀬が誰に『絶対に家に入れんなよ!』って言ってたかは分かったけど、その絶対に家に入れてほしくない人って、誰だ? 夏菜ちゃんではないと思うし、美智子さんに言ってたんだから二人の知り合いってことだし....。

 わからん。


 現在掃除の時間。ゴミ箱を裏庭まで運んでいてそんなことを考えていると、噂をすればなんとやら。

 同じくゴミ捨て当番だったらしい水無瀬とバッタリ出くわした。....なんでよりによって周りに人がいない時に会うかね、あたし達は。



「.........」

「.........」

「.........」

「.........」



 なんだこの沈黙。



「....あの、退いてくれない?」



 あんたのせいで巨大ゴミ箱に近づけないんだけど。

 てっきりそのまま居座ると思ってたのに以外と素直に退いたので少し驚いてからあたしの持ってるゴミ箱を巨大ゴミ箱の中に入れた。だけどその間もずっと背中に視線を感じていたからいらついて勢い良く振り向いた。



「何?」

「別に」

「.........」



 コロス。こいつ絶対にいつか殺してやる。



「なんか用があるんだったらさっさと—」

「お前さ、なんで急に狭川に気遣ってるわけ?」

「........」



 やっぱりあたしの行動は完璧バレてましたか。そうだよねぇ。当たり前といえば当たり前だよねぇ。認めたくはないけどこいつって洞察力はすっごいもん。

 何の事? ってとぼけても無理だと分かってたから、溜息混じりに捨て終わったゴミ箱を抱えた。

 


「...別に。変な勘違いされてたからそれをちゃんと証明しておこうと思って」

「変な勘違い?」

「駅前で話をしていた時と、土曜日にあんたがあたしを送ってる所、見られたの」

「....あぁ...」



 納得した声出したぞこいつ。



「...え、ちょ、まさか美里ちゃんがいるの知ってて....?」

「誰かがいるのに気づかないほど落ちぶれてねぇよ」



 ....それはあたしが落ちぶれてるってことかよオラ。


 え。いや、ちょっと待ってよ。美里ちゃんがいるのを知った上であたしと話をしたりあたしを送ったりしたってこと?



「え、でもあんた美里ちゃんの気持ち知らないわけじゃないでしょーよ!」

「まあな」



 やっぱり...! あたしが気づいて(まあ稔に言われて気づいたんだけど)水無瀬が気づかないはずがなかった...!



「知っててあたしと話したり送ったりしたわけ!?」

「当たり前だろ。たかが一人の勘違いが怖くて行動なんてできるかよっての」

「そういうことじゃないじゃん! 美里ちゃんがそのせいでどれだけ悩んだのか知らないあんたじゃないでしょ!」

「知ったこっちゃねぇっつってんだよ。そもそも気持ちに答える気はさらさらないんだからあいつが勘違いしたってどうもしねぇよ」

「...っ!」



 .....なんですって...?

 ....知ったこっちゃねぇよって言った? こいつ。勘違いしたってどうもしねぇよって言った? こいつ。


 ....あんなに、あんなに水無瀬のことを好いてる美里ちゃんに、勘違いしたってどうもしねぇ、って言った?



「ふっざけんな!! あんたそんなのが許されると思ってんの!!?」

「誰の許しがいるってんだよ!」



 あたしが爆発すると、水無瀬も叫び返したから一瞬言葉が詰まってしまった。



「美里ちゃんがあんたのこと好きなの知ってて、あたし達が一緒にいるのを見たらどう思うかくらい知ってて、それでどうもしねぇ!? やめてよ! いい加減にしてよ! あたしのことを踏みにじった上に美里ちゃんの気持ちまで踏みにじるのは止めてよ!」

「じゃあどうして欲しいっつーんだよ! 俺に告白しろってか!? 俺に狭川と付き合えってか!? はじめから希望させずに興味がねぇって示した方が、あいつも諦めがつくだろ!」

「優しさのつもり!? それで優しくしてるつもりなの!? だったらやめてよ! 美里ちゃんはね、どれだけ諦めた方がいいって示されたって諦めたりはしない! そんなの、そんなの分かってるでしょ!」

「分かってるからやってんだ! お前の問題でもねぇくせに口出すんじゃねぇよ!」

「美里ちゃんはあたしの友達なの!! あたしのせいで悩んだんだったら、あたしが美里ちゃんのために怒るのは当たり前でしょ!?」

「てめぇには関係ねぇんだよ!」



 吐き捨ててゴミ箱を片手に抱えたまま水無瀬が立ち去ろうとする。

 だけどそれ以上進む前に一歩踏み出して、あたしは水無瀬の腕を掴んだ。



「話はまだ終わってない...!」

「俺のは終わったんだよ」

「あたしのは終わってないって言ってんの!」

「お前しつこい! これ以上話すことはないだろっ」



 再び水無瀬がいらだちを露にしたけど、これだけはさがるわけにはいかない。わざと美里ちゃんを傷つけて、自覚してるくせに、飄々としやがって!



「あるから引き止めて—」



 ガッとものすごい勢いで腕を掴まれたと思うと、ダンッと壁に押し付けられた。ゴミ箱が音を立てて地面に転がり落ちたけど、あたしも水無瀬も微動だにしない。

 はっ、と驚いてあたしが息を吸って、力を込めたままあたしの腕を壁に押し付けた水無瀬はゆっくりと言葉を紡いだ。



「お前には関係ないから引っ込んでろって言ってんだよ。話はもう終わったから黙ってろ」

「...っ、どうして! どうしてそんなに冷たくいられるのよ!」

「.....どうでもいいだろ。もう黙れよ」

「どうでもよくない! 美里ちゃんは—っ!」



 柔らかい何かが唇に当たった。壁に押し付けられたまま、一瞬頭の中が真っ白になったけど、水無瀬の唇とあたしの唇が当たっているのを自覚してあたしは大きく目を見開いてからすぐに腕に力を込めた。だけど、力を込めた瞬間に水無瀬がより強くあたしを押さえつけて、キスも激しさを増した。

 目を見開いたまま水無瀬を見ていると、そろっと水無瀬の瞼が上がった。あたしが見つめていることに対して驚きは一切みせず、止めてほしいって訴えかけようとして開けた口に、濡れた感触が入って来て身体が強ばった。

 な、にを、するの、こいつ! 好きでもない女とそんなにキスがしたいのかよ!!!



「...ん、ちょっ、んっ、くっ...! やめっ、て!」



 押さえられていない右手で水無瀬の胸板を押してもびくともしない。それどころか、抵抗をしようとすればするほどキスが激しくなっていくだけだ。

 水無瀬の舌があたしの舌を絡めとろうとした瞬間に水無瀬の舌をガッと噛んだ。瞬時に水無瀬の動きが止まって、視線を外さずにいた瞳が少し開いてから舌が抜けて行った。腕にこめられた力も弱くなったのであたしは瞬時に身を引いた。

 荒く息を繰り返しながらも口の中にかすかに血の味がして、それだけ強く噛んだのかと思って水無瀬を見上げた。予想通り痛みに顔を歪めながら水無瀬は口を押さえて、座り込んでしまったあたしを睨みつけた。

 睨みつけたいのはこっちだよ.....っ!!



「何、すんのよっ!!!」

「...黙ってろって言ったのに黙らねぇからだ」



 じっと冷たい目で水無瀬を睨んでいるあたしを見てから、水無瀬は無言で立ち去っていった。






 今度は、引き止めなかった。





 遅れてしまってすみませんorz

 一応毎日ボチボチ書いてたんですが、なにせインターネットに接続できる時間があまりないものですから....。


 遅れてしまってすみませんでしたorz



 ここまで読んでくれてありがとうございます><

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ