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猫かぶり家族

 水無瀬の言った意味がよく理解できないまま家に帰ると、いつの間にか土曜日になっていた。なんだろう。最近時間が流れるのが速くなってる様な気がする。水無瀬と関わるようになってからだよね。絶対。

 時計を見ると午後一時。しまった。昨日遅く寝たから起きたのが十一時だったんだよな....。朝ご飯食べて朝シャワー浴びたらいつの間にかこんな時間になっていた....。

 そこで、



「そんなこと思うんだったら出て行けばいいでしょ!?」

「お前らがやってけるのは誰のおかげだと思ってんだ!!」

「働いてるのはあんただけじゃないのよ!!」



 ....またはじまった。もう結構前からだけどね、お母さんとお父さんの喧嘩がはじまったの。最初はそんなに簡単に怒りだす二人じゃなかったのに、今ではちょっとくらいですぐにヒートアップしてしまう。

 こういう時に家の中にいるのは憂鬱だから、大抵喧嘩が勃発する時は出かけることにしてる。


 部屋から出て玄関に向かうと、後ろのドアがしまった部屋で二人が叫び合うのが聞こえる。どうせまたお父さんがお母さんに小さな文句でもつけてそれにお母さんが爆発した、っていういつもパターンに決まってる。

 溜息をついて、一応『いってきまーす』と言ってからドアを開けた。


 外に出ると二人の叫び声が一気に小さくなったのに安堵の溜息をついて、どこへ行くわけでもなくあたしはフラフラーっとでかけた。

 どうせ暇なんだから本屋でもいって漫画買ってるかな。そういえば食材もなかったような気がするけど.....、多分怒った後にお母さんが買い物に出かけるから食材はいいや。本屋にでも寄ろうかな。

 商店街をブラブラと歩いて本屋を見つけると、その前に見覚えのある人物が見えた。

 美里ちゃんだ。



「美里ちゃん!」



 声をかけると、本屋に入ろうとしていた美里ちゃんが驚いて振り向いた。そこであたしが手を振りながら駆け寄って来る姿に顔を輝かせて美里ちゃんも手をふる。可愛いなもー。



「彩那! 超偶然! こんな所で何やってんの?」

「こっちの台詞だよ! あたしは本屋に寄って漫画でも買おうと思って」

「あたしもーっ。どうせなら二人で見てく? 買う漫画は同じでしょ?」

「だねっ」



 あははと二人で笑って本屋に入る。趣味は似ているため、しばらく美里ちゃんと一緒に漫画を探すと、やはり二人で立ち読みを始める。立ち読みをはじめると何時間も同じ所に立って読み続けられるから時間を潰すのにはもってこいの場所だけど、急いでる時に『ちょっとだけ』と思って寄っちゃうと大変なことになる。

 因みにあたしはそういうの体験済み。十分くらい寄るはずだったのがいつまにか一時間も立ち読みしてて大慌てで家に帰ったんだっけ。その時も相も変わらずお母さんとお父さんが喧嘩してたからあたしが遅れたのに気づいたのかさえも不明だけど。


 結局今回も一時間半くらい立ち読みをしてしまって、美里ちゃんと一緒に本屋から出たのが三時近くだった。



「ヤバい。長居しすぎた」

「あははっ、分かる。でも本屋ってつい何時間もいちゃうよね」

「だよねっ!」

「結局何も買わなかったし」

「あははっ、ほんと!」



 二人で笑いながら商店街を進んで行くと、美里ちゃんの家の方向があたしとは反対方向なので、信号の手前で手を振って別れる。それから腕時計を見ると三時五分。さすがにお母さんとお父さんの喧嘩は終わってるかな、と思って溜息をついた。

 これでまだ続いてたらあの家でてってやる。稔の家にでも居候しようかな。

 ....こういう時に兄妹が欲しいと思うのよねー。一人でもあたしと同じ気持ちの人がいてくれればあの家で住むのも楽になるのに。一緒に住んでるから二人でずっと愚痴ってられるし。

 結局人生そうは甘くないけどねー。

 再び溜息をついて角を曲がった瞬間、



「彩那ちゃん?」



 凛とした声に、あたしの友達にそんな声の人はいないと思いながら振り向くと、友達でなくともとても見慣れた姿が両手に大きな袋を持ちながらこっちに向かって微笑んでいた。



「美智子さん!」



 斉木美智子さんは近所に住んでる二十六歳くらいのおねーさん。ある時、家に帰る途中で袋を四つくらい大変そうに運んでるのを見かけて助けるために声をかけたらすごく感謝されて、お茶をしてってとまで言われたんだよね。それからなんとなく気が合って、ここらへんで会う時は必ず声をかけてくれる。



「やっぱり彩那ちゃんだ。すごい偶然ねー。こんな所で何やってるの?」

「あたしは本屋に....。美智子さんこそ、どうしてこんなところにいるの?」

「見ての通り買い物。弟が食べ盛りだからねー、最近たくさん食べないといけないのよ」



 苦笑を浮かべて美智子さんが両手を上げた。

 美智子さんには結構歳の離れた弟さんがいて、土日は部活で殆ど家にいないらしいけど、帰って来た後に山のように食べるらしい。



「そういえば、彩那ちゃん今時間ある? 家すぐそこだからお茶でもするために寄ってってよ」



 ね? と可愛らしく小首を傾げる美智子さんに抗うことができたわけでもなく、あたしは美智子さんの右手にある袋を持って二人で美智子さん宅へよって行く。

 美智子さんの家は二階建てで大きく、白い柵に囲まれた綺麗な家だ。

 表札に斉木があるのを見て、そういえば...と思って問いかけてみた。



「美智子さんって、結婚しないの?」

「え?」

「そんなに美人なのになんで結婚してないのかなって」



 キョトンと目を丸めて、しばらくしてから美智子さんは盛大に笑い声をあげはじめた。

 .....意味が分からない。



「あはっ、...あは、はははっ、あははは、ははは、あはははははは!!」

「え、ちょ、美智子さん!?」

「ご、あははっ、ごめん、ごめんっ! 私、こう見えて結婚してるのよ?」



 .......。



「えぇええ!?」

「絶対知ってると思ってた! だって私の家に来るのはじめてじゃないし、棚の上にある写真とか見て勝手に推測したと思ってたの! いつも家にいないのは出張中だからで、いやだ! 絶対知ってると思ってた!」

「えぇえええええ!?」



 再び笑い転げる美智子さんを驚いた目で見つめた。

 ....知らなかった。いや、言われてみれば棚の上に写真が置いてあったからそれを見ればよかったんだけど....。なんとなく勝手にいろいろ見るのも失礼な気がして見なかったんだっけ。



「人の写真をそんなジロジロ見てないよ! もう! 美智子さんいつまで笑ってんの!」

「ごめ、ごめんっ!」



 ふふふふふ、といまだ笑いを零しながらも美智子さんが家の中に入って行って、あたしも少し眉間にしわを寄せながらも美智子さんの後を追った。前回来てから結構時間が経ってたけど、やっぱりクリーム色と白のまざった綺麗な部屋のままだった。

 玄関から入ってすぐ横にある棚に写真があるのを見て、さっき言われたことも考えて写真を見た。確かに真っ白のウェディングドレスに身を包んで、イケメンと腕を組みながら階段を降りてる写真がある。

 ....しかし美人は何を着ても似合うねー....。正直美智子さんほどの美人はあんまり見た事がない気がするしなー。



「すごい....。美智子さんめっちゃ綺麗」

「やだ! 褒めてもなにも出ないわよ?」

「いやいやほんと! このウェディングドレスだってすっごく似合ってる!」

「あら、ありがとう♪ 恥ずかしいわね、なんだか」



 ほんのり頬を染めたまま美智子さんが袋を置いて笑いを零した。それからその袋の横にあたしも袋を置くと、じっと美智子さんがこちらを見たままだったので少し驚いて身を引いた。



「え、何?」

「いや、あんまりじっくり見た事なかったんだけど、彩那ちゃんってとっても美人ね」

「........はい?」



 いや、真顔でそんなこと言われてもすごく困るんだけど。



「とても高校一年生には見えないわー。すっごく美人。これは一目では分からないけど、じっくり見て美人だって分かるタイプね。モテるでしょ?」

「モテ、はい!? あたしが!?」

「そうよー! 彩那ちゃん以外に誰がいるっていうの! 髪の毛はすっごく綺麗でサラサラだし、目も丁度いい大きさだし、鼻と口もすっごく綺麗な形してるー」

「ちょっと美智子さん! いきなり何なの!?」



 あまりにも驚いて数歩下がっても美智子さんが追って来る。



「いやだー、どうせならうちの弟のお嫁さんにでもなってよー。こんな綺麗な顔をずっと見てられるんだったら幸せだわー」

「見ず知らずの男と結婚させようとしないで! 美智子さん! ちょ、追いかけないでー!!」



 身の危険を感じるくらいの勢いで美智子さんが追って来て、あたしが身体の前で止めるために両手を差し出した時だった。



「おい、姉貴。外にまで声が漏れてんぞ—」



 男の子の声と共にドアからひょっこりと顔が除いて、その顔を見た瞬間に目の前に美智子さんが迫っていたことも忘れて愕然とした。相手も手に鞄を持ったまま目を見開いてあたしを見てる。



「み、み、み、水無瀬ぇえええええ!!!!?」

「......有賀」



 なんでこんな所にこいつがいるのよ!? どんな腐れ縁!? なんでどこにいたってこいつと関わりがあるのよ私は!!

 水無瀬に指を突きつけたまま心の中で絶叫を繰り返すと、水無瀬はあたしと同じくらいに驚いた表情のまま、横で全てを傍観してる美智子さんに向いた。

 やっぱり美智子さんも同じくらいに驚いた表情をしていることから、あたしが藤ケ丘に通ってるとは知らなかったのか。ってか水無瀬と知り合いだってのは知らなかったってとこかな。

 いやいや、そんなことより。



「なんで水無瀬がこんな所にいんのよ!!」

「ここは俺の家だ」

「なんで!? まさかあんたが美智子さんの弟とかやめてよ!!!」

「そのまさかだ」

「嘘でしょ!? 苗字が違うじゃん!!」

「嘘じゃねぇよ。姉貴は結婚してんだから苗字違うのは当たり前だろ。バカか」

「バカっていうな!!」

「というかお前こそここで何してやがる」

「やがるって言うな!! あたしは美智子さんに誘われてお茶をしにきたの!!」

「はぁ? マジかよ」

「何その顔! 何その『なんだこいつ超めんどくせぇ』って顔!!」

「そう思ってんだから仕方がねぇだろ。マジなんでいんだよ、お前」

「くっそ...っ! ほんと失礼だなあんた!!」

「なんとでも言えば?」



 興味なくしたとでも言うように水無瀬は鞄を床に置いて、近くにあった椅子に腰を降ろすと横にいる美智子さんを見た。あたしもイライラしながらも美智子さんを見ると、美智子さんは目を見開いてあたし達を交互に見つめた。



「...嫌だ、ちょっと愁也」

「んだよ」

「....あんた、猫かぶってないじゃない」



 美智子さんの言葉にあたしも水無瀬も固まる。

 ....しまった、のか? いや、美智子さんも水無瀬が猫かぶってるって知ってんだから問題はないはず。

 ないよね?


 美智子さんの発言に水無瀬が深く溜息をついた。



「....バレたんだよ。四日くらい前に」

「うっそマジ!?」

「マジ」

「じゃああたしも猫かぶんなくていいってこと!?」

「じゃねーの」



 ....え? いやいやちょっと待てよ。空耳か? 今のはあたしの空耳か? ってか空耳であって欲しいんだけど。今、美智子さんが『あたしも猫かぶんなくていいってこと?』って聞いた様な気がするんだけど、気のせいであって。空耳であって。これ以上の猫かぶり発覚はマジで無理だから。

 なんとなく危険を感じながらも美智子さんと視線を合わせると、美智子さんはニヤリと口角を上げた。



「そーかそーかー。愁也の猫かぶりバレてたんだ?」

「......えーと.....」



 キャラが急変したんだけど。やめてくれよ。実はあたしも猫かぶりだったんだー、とかいうカミングアウトはマジでやめてよ。



「愁也が猫かぶりのことで彩那ちゃんのこと信用してるってことはあたしも信用していいよね?」

「えっ...」

「あたしも猫かぶりなんだよねー」

「..........」



 なんだその爽やかな笑顔。なんだそのめっちゃくちゃ爽やかな笑顔。あたしが水無瀬の秘密を抱えているのにどれだけストレスを抱えているのかを知ってての発言ですか美智子さん!?

 目を見開いて美智子さんに見入ってると、美智子さんはガハハ、と気品なか笑い声を上げた。



「いやぁ!! 愁也の猫かぶり知ってる人なんて彩那ちゃんが三人目くらいじゃない? これは楽しい! しかも愁也のこと怖がってないケースとかはじめてじゃない!? 何これ超楽しい!」

「....姉貴」



 絞り出す様な声で水無瀬が美智子さんを呼んでも美智子さんは興奮状態のまま笑い続ける。先程の結婚を聞いた時の笑いとは違いすぎる声に目を見開かずにはいられない。

 ....ってかなんだこの家族。猫かぶり家族かよ。まさかの。



「.....なんで、美智子さんまで猫かぶってんの?」



 あたしの問いかけに涙を吹きながら美智子さんが隣にいる水無瀬をチラリと見つめた。口元にはまだ笑みの名残がある。



「いやだってね、愁也がこんな状態でしょ?」

「こんな状態?」

「完璧超人美青年を演じてるじゃない」

「...ああ....」

「そんな性格のいい奴が弟にいるあたしがいい奴じゃなかったらおかしいじゃない? それに『弟さんはあんなにいい子なのに』とか近所のおばさんに言われたくないじゃん?」

「..........」



 まあ、確かに水無瀬の猫かぶりがあんなんなんだから家族もいい人ばかりだと勝手に思い込んでたんだけど.....。思い返してみれば美智子さんのキャラはすっごく優しくて美人の理想のお姉さんってタイプ。水無瀬は優しくてイケメンで頭も良い、運動神経が出来る理想のタイプ。

 .....元々スペックがいいから出来る猫かぶりだよね。


 ....ってかなんだこれ。なんであたしこんなことになってんのよ。なんでよりに寄ってあたし? ほかの誰でもよかったのにあたし? もうマジあり得ない。


 水無瀬と美智子さんが会話を始めたところで(というか嫌そうな顔をする水無瀬に美智子さんが一方的に質問攻めしてるように見えるけど)家のチャイムが鳴り響いた。

 ....こんな時間に誰が来るっていうのよ、と思って首を傾げると、目の前にいる二人は嫌そうな表情になったまま固まった。

 ....え?



「.....だな」

「...そうだろうなー。迎えに行ってよ」

「嫌だ。姉貴が行け」

「はぁ? ざっけんな。あんたが行きなさい」



 チッと舌打ちをして水無瀬が腰を上げた時に、チラリとあたしを見た。



「...有賀、攻撃されても俺は知らないからな」

「は?」



 ちょ、そんな意味深の言葉をかけてそれ以上は何もなし!? なんであんたはそう言葉が足りないのよ、水無瀬!!




 .....とてつもなく嫌な予感がしてきた。






 

 微妙な所で切ってごめんなさい。でもなんだか長くなりそうだったので、次の話でまとめてしまおうと思って....。

 そんなに遅れなかったかな? もう一つの小説の方も同時進行中で書いてたので、少し遅れてしまったのはすみません。というか基本的に不定期更新ですみません。



 東北地震については外国住みである私もすぐに聞きました。日本に住んでいる家族や友人の無事は確認できていますが、放射線もあるし、地震や津波の影響でまだまだ非常に大変なので油断はできない状態です。

 皆様のご家族や友人もご無事であることを祈っております。



 ここまで読んでくれてありがとうございました。

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