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秘密守り

なんだか一話目より短くなってしまった。


「有賀さーん」

「.........」



 堂々と声をかけてくんなこの下衆野郎が。散々人を騙しやがって許さねぇ。おまけに人のファーストキスを奪いやがってますます許せねぇ。ってかそんな下衆野郎の言う事を素直に聞いてるあたしもどうなの?


 無視を通して歩き続けると後ろからタッタッタと足音が聞こえて来る。なぜ近づいて来る!



「有賀さんってばー」

「.........」



 大体こいつの猫かぶりはマジで完璧すぎる。こうやって見てるとやっぱり昨日、おとといの水無瀬君のままー、なような気もするんだけど。

 現実はそう甘くないわけで。



「....無視通してんじゃねぇぞてめぇ」



 肩が掴まれたと思うと、極上の笑顔を浮かべたまま水無瀬が小声であたしに言い放った。

 こ、わ、怖っ!? 思わずものすごいスピードで後ずさりしちゃったじゃないの! バクバクする心臓を押さえて水無瀬を睨み上げると、相も変わらず笑顔を浮かべたままこっちを見てる。

 因みに現在学校に登校中。教室に入った瞬間に話しかけられることとかなくなるようにわざわざ遅く登校してきたっていうのになんでよりに寄ってバッタリ会うのよ! あんたいつもは登校するの早いでしょーが!!



「な、何なの!? びっくりさせないでよ!」

「お前がさっさと返事しないのが悪いんだろ。こっちはわざわざ優しい水無瀬愁也のままで呼んでやったのにさ」

「自分で言うな! 大体こんな所で本性さらけ出しちゃっていいわけ? 誰かが聞いてたらどうすんのよ」

「聞いてるわけねぇだろ。こんな時間だぞ? 大体全員が登校してるし、誰かがいたとしても半径五メートル以内に入ったら俺は優しい俺にスイッチオンするから」

「.........」



 もう嫌だこいつ。



「....ねぇ、もしかしてとは思うんだけど、あたしが誰にも言ってないと思ってるでしょ」

「は?」



 カマをかけてみると以外と水無瀬は驚いてこっちを見た。

 ふっ。少しは苦しむがいい。



「あんなことされて誰にも言わないと思ってたら大間違いよ。言っとくけど稔には言っちゃったし、ついでに美里みさとちゃんと果鈴かりんにも言っちゃったわ」



 ふふん、と笑ってみせてから水無瀬を盗み見ると、あいつは酷く驚いていた。けれど、あたしが言い終わると同時にスッと目を細めた。それからキョロキョロと周りを見回してからいきなり肩を掴んで来た。



「いっ!?」



 そのまま壁に押し付けて来たと思うと、水無瀬の端正な顔が近づいて来た。



「ちょ、まっ! 嘘、嘘つきましたごめんなさい嘘ですっ!!!」



 両手を顔の前にかざして水無瀬の顔を押し返すと、今度は水無瀬がふふんと笑って見せた。

 こいつ.....っ!!



「しょーもねー嘘ついてんじゃねぇよ。俺が本気だったことくらい分かってんだろ、バーカ」

「っ〜〜〜っ!!!」



 声にならない叫びを上げて真っ赤になった顔で水無瀬を睨みつけたが、微動だにしない。それどころかピンッとあたしの額にデコピンをしてからニッと口角を上げて学校の方に歩き出した。

 飄々とした様子で歩きやがってー!! 乙女の純情振り回してんじゃないわよ! 一体何様のつもりなわけ? しかも、なんか、言いたくないけどめっちゃああいうキスに慣れた様子だったし、いろんな女とピーッッとかやってんじゃないでしょうね....!!



「水無瀬君!」



 わなわなと肩を震わせて水無瀬の後を追うと、後ろから可愛らしい声が聞こえた。あたしの声じゃないと分かっていたのか、さっきの極悪面はどこにいったのやら、水無瀬はいつもの優しげな表情のまま振り向いた。ついでにあたしも振り向くと、嬉しそうに瞳を輝かせながら女子生徒が立っていた。

 制服から見るとあたし達と同じ学校。リボンの色からして.....三年生にいる、先輩だ。

 あたし達の学校は女子のリボンと男子のタイの色が学年に寄って違って、一年生は赤、二年生は青、三年生は緑だ。



「.....久我先輩」



 見覚えのある顔だったけど誰だか分からずに首を傾げていると、後ろから水無瀬が呟いたのを聞いて、あ、そうだ! とポン、と手をついた。この人は確か久我くが夏美なつみ先輩だ。なんで知っているかと言うと生徒会副会長だからだ。

 なんか、生徒会長って覚えてるんだけど副会長ってなかなか覚えられないのよね。水無瀬は確か生徒会役員だから顔見知りなのかな。

 .....ってか生徒会にも入ってるのかよこいつ。つくづく優等生の猫かぶってやがる。


 ところで....どうしてそんな気まずそうな顔をしてるの、水無瀬君よ。



「おはようございます」

「おはよう」



 丁寧に礼をするので、あたしを一瞥した久我先輩にあたしも一応礼をした。それから顔を上げるとにっこりと微笑んでいる。水無瀬に向かって。あたしは眼中にないですか。まあ交流ないから当然かもしれないけど。



「ずいぶん遅いのね。普段はもっと早いでしょう?」

「...はい。今日は家の用事で」



 嘘だろ。絶対嘘だろ。あたしの行動パターンを読んで遅く出て来たんでしょ? だってあたし水無瀬と一緒に登校するのはじめてじゃないし! まだほのぼの優しい水無瀬君だった頃は時々登校中に会うことがあったからあたしの登校時間絶対把握してただろ!


 水無瀬の言葉に久我先輩は、そう、と静かに呟いてっきり黙り込んでしまった。

 .....何この気まずい雰囲気。



「み、水無瀬君、先輩、そろそろ学校に行かないと—」

「何か俺に言いたいことがあるんですか? 先輩」



 わざわざ先輩に配慮してあんたのこと君付けで呼んだのに台詞遮ったよこいつ。

 しかも久我先輩もあたしの言葉には反応しなかったのに水無瀬の言葉には顔を上げた。.....ってか、もしかしてあたしって邪魔者? だってさっきから久我先輩がめっちゃ邪魔そうにあたしのことチラチラ見てるもん。


 ....ここは二人に配慮して学校に向かうか、と思って水無瀬を通りすすぎようとする。



「水無瀬君、あたし先に学校に行くから—」

「いいよ有賀さん。ここにいて」

「えっ」



 おいおい。人が配慮してやってるのになんで引き止めるのよ。

 何やってんのよ? みたいな視線を向けると、久我先輩には見えない様に水無瀬は顔をこちらに向かせてあたしを睨みつけた。



「俺も一緒に行くからさ。勉強の話も途中だったでしょ?」

「へっ!? あ、う、うんっ! そうだね!?」



 顔とは対照的すぎる声に思わず顔がひきつって声も裏返った。.....これは、残らなかったら後が怖い。

 でもやっぱり久我先輩は邪魔そうにあたしをチラチラと見ている。当然それに気づかない水無瀬ではないはず。ってことは、先輩と二人きりになりたくないってことか?



「水無瀬君...」

「すみません先輩、俺達すぐに学校に向かわないといけないので.....話があるのなら....」

「......」



 ほら、またあたしをチラ見した。



「....いいわ。また今度にする。引き止めてごめんなさい、水無瀬君」

「いいえ」



 それじゃあ、と言ってさっさと進んで行く久我先輩の後をびっくりして見つめる。ってか先輩、あたしに挨拶はなしですか。

 はぁ、と溜息をついて横にいる水無瀬を見ると、苦虫を噛み潰した様な顔でチッと舌打ちをした。



「え? 何あんた、久我先輩に恨みでもあるわけ?」

「ねぇよ別に」

「.....なんであたしを引き止めたのよ。せっかく気を遣ってあげたのに」

「余計なことすんな。あいつが何を言いたがってたのかお前だって分かってんだろ」



 先輩をあいつ呼ばわりですか。

 .....まあ、なんとなく雰囲気から察してたけど....。



「....どうして聞いてあげないの?」

「あの人と付き合う気はないし、好きでもなんでもない。生徒会役員だってただの形だし、思い入れもなにもないし。....そもそも本当の俺のことを知らないくせに好きになった人を好きになれるとは思えない」

「.......そんなのあんたが猫かぶんなきゃいいだけじゃないのよ」

「うるせぇよ」



 えぇええ.....。ごもっともなこと言ったのになんでそんなこと言われないといけないわけ?



「とにかくさっさと学校行くぞ。早く歩けよ」

「.....っ!」



 こっちの台詞だよ! そもそもさっきあんたがあたしを行かせてくれたらこんなことになってないんだよ! 何なのこの俺様野郎は!


 言い捨ててさっさと歩き出していく水無瀬を無言であたしは追いかけた。












 あたし達が通っている学校は国立藤ケ丘高等学校という。国立と言っているけれどそんなにレベルが高いわけではない。そもそも毎年の金額がなかなか高いのでそこそこにお金のあるあたしの家でも払うのに苦労している。それでも通わせてくれるのは藤ケ丘の勉強の教え方がとても上手だからだ。黒板に書いてあたし達に知識を押し込むだけじゃなく、一人一人の生徒に回って手伝いをしてくれて、放課後も必ず先生達が残って、勉強で分からない部分があれば聞きに行くと丁寧に教えてくれることもする。

 そのおかげであたしもここまで成績が伸びているのだ。


 ひたすら無言を貫き通して二人で学校の門に入る。上履きを履いた瞬間にチャイムがなったけれど、あたしも水無瀬も急ぐ様子は一切見せない。....いや、あたしはすぐにでも走って登りたいんだけど、水無瀬の方が『俺を通り越したら殺すぞ?』的なオーラを発してるからなかなか進むことができない。

 ....このままだと遅刻なんだけど....。


 あたしの心の声が届かないまま水無瀬と共に階段を登って教室のドアを開ける。既に教室は静寂に包まれていて、先生が教卓に立って話をしていた。だから普段は真面目でどちらも早く学校についてるあたし達が遅刻したのを見ると、先生だけじゃなくてほかのみんなも驚いてお互いのことを見ていた。



「水無瀬、有賀。珍しいな。二人揃って遅刻か?」

「すみません、有賀さんと勉強の話をしていたら話し込んでしまって」

「......」



 呆然と水無瀬を見つめるあたし。

 なんつー言い訳を使うんだよお前。そんなんで許してくれると思って—



「どこまでも真面目な二人だな、お前ら。普段は生活態度がいいから許してやる、早く席につけ」

「はい」

「あ、はいっ」



 ヒラヒラと手を振ってあたし達に席につくよう促すと、あたしと水無瀬は急いで席についた。


 そうかこれか! 猫かぶってるとこんな利点があるのか!

 .....確かに、これが成績優秀だけど問題児である遠田とおだが言い訳につかったら絶対に先生に怒鳴られるに決まってる。だって態度が悪いもん。

 .....つくづく世の中って不公平すぎる。



「...あんたと水無瀬の勉強を話し込む姿とかめっちゃ見たかったんだけど」



 ヒソッ、と隣にいる稔が話しかけて来て、あたしは疲れたように溜息をついた。



「そんなの見てどうすんのよ」

「だって学年トップツーの勉強の話だよ? めっちゃ高レベルでしょ」

「....あのねぇ、」

「いやぁ、見たかったー。だってあんた達二人ともレベル高すぎなんだもん。三位の神楽さんでも二人の勉強には追いつけないって噂だよ? ま、総合点数が二十点以上も差があるんだからそりゃそうだよね」

「........」



 実際そんなことは全然してないし、むしろ水無瀬が先輩に告白されそうになった場面に出くわしていただけなんだけど、さすがにそれは言えない。だって少し斜め前にいる水無瀬がめっちゃこっち見てるんだもん。めっちゃ。

 ジリジリと顔に視線を感じながらも絶っっ対に水無瀬の方を見ない様にしてあたしはひたすら俯いていた。







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