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嫌じゃなかったとか断じて思ってない。思ってない。

 なんだかすごく長くなった。後半だけ微妙にR15なのだろうか? というかR15がどこからどこまでなのかがよくわからない...。

 と、とにかく、苦手な方はご注意を! 性的描写ではないとだけ言っておきます!





 硬直するあたし。硬直する水無瀬。そんな水無瀬を睨む宮谷君。

 ......嘘でしょ....。


 水無瀬がゆっくりと宮谷君の方に首を向けた。



「...キスって?」



 と・ぼ・け・た! とぼけたぞこいつ! ここは『とぼけんじゃねぇぞ!』とかお約束のことを言われるのを待っているのか、水無瀬君よ!

 案の定宮谷君は歯ぎしりをすると、より鋭く水無瀬を見据えた。



「とぼけてんじゃねぇよ! 俺は見たんだ!」

「...何を?」

「この前、お前らが二人ともゴミ捨ての当番だった時に、お前が有賀を壁に押し付けてんの見たんだよ!!」

「...........」



 この発言にはさすがに水無瀬が僅かに目を見開いた。


 だけどあたしはパニックである。


 見られてたああああああ!? どうして! いつ! どうやって見られてたの!? どこからみてたの! っていうか見られてるんだったらどうしてもっと早く言わないのよ! 宮谷君が問いつめてくれれば変な言い訳でも考えつけたかもしれないじゃん! 

 ...いやそれは無理だけど。無理だけど! 見られてたんだったら水無瀬が謝って来た後でも縁を切るためには必死に遠ざけてたかもしれないじゃん! 決して宮谷君のせいにしてるわけじゃないけど! かんっぺきにあたしと水無瀬のせいだけど!


 頭を抱えて思考がグルングルンとしてて安定しない中、水無瀬は至って冷静に宮谷君と会話を繰り広げていた。

 ....お前の冷静さは一体どこから来るんだよ。こんな状況で逃げ場なんて皆無に等しい状況でどこから冷静さを引っ張りだしてくるんだよ!



「...だったら何?」

「は?」

「俺がキスしてたとして、俺になんて言ってほしいの?」



 うっわっ! うっわっ! 開き直ったよこいつ! 開き直りやがった!

 はぁ!? という表情を浮かべた宮谷君に全力で同意した。



「てめっ! 好きでもない相手を壁に押し付けて、その上無理矢理キスしてて、その台詞はねぇだろ!!」

「無理矢理じゃなかったら?」

「...何だと?」

「有賀さんが同意してたとしたら?」



 何を言い出すのこいつ。ねぇ、何を言い出すの。



「....同意なんてしてるわけがねぇだろ」

「どうして分かるの?」

「....あいつはお前のこと嫌ってんだろ。大体、あいつの性格上、そんなの同意するはずがない」



 水無瀬が目を細めた。

 あたしは宮谷君の言葉に心の中で全力に頷いた。さすが! よく分かってらっしゃる!



「だから俺が無理矢理キスしたと...」

「それ以外に何がある」



 ふぅ、と水無瀬が溜息をついた。

 ...っていうか、さっきからこいつ全然自分の素を隠そうとしてないんだけど...。宮谷君もそれに対して一切ツッコミは入れてこないし。あたしに散々脅しかけてまで口止めしてたくせにその緩さはなんだよ! バレてほしくないんじゃねぇのかよ!


 眉間にしわ寄せて睨みつけて来る宮谷君に、水無瀬はただスッと視線を合わせただけだった。



「...その通りだ、って言ったら?」



 バキィッ!!


 水無瀬の顔に容赦なく宮谷君の拳が当たった。あたしはハッと息を呑んで口元を覆うと、そのままあまりの衝撃に後ろに飛んだ水無瀬とバッチリ目が合ってしまった。

 あたしの姿に瞬時に水無瀬の目が大きく見開かれた。口の端から血が垂れているのを見てあたしも目を大きく見開く。あたしに対して水無瀬が何かを言おうとした様子だったけど、宮谷君がそのまま寄って来る姿に舌打ちをして立ち上がった。



「ってぇ...」

「ふざけんじゃねぇよ! 周りの奴らには優しい振りをしやがって、本当はそんな奴だったのかよ、水無瀬!!」



 振り返ればあたしがそこに立っているのが見えるような位置だけど、今の怒り狂った宮谷君の目には水無瀬しか映っていなかった。水無瀬も水無瀬でキッと宮谷君を睨みつけていた。



「薄々気づいてたんじゃねぇのかよ、お前も」

「っ!」



 瞬時に声が低くなって口調が変わった水無瀬に、さすがに宮田君が僅かに動きを止めた。だけどそれもつかの間、全てを呑む込むと殺す勢いで水無瀬を睨みつけていた。



「薄々はな。塾でのお前はもっと口調が砕けた感じだったのに、ここにいるお前はちっともそんな雰囲気は見せねぇから、変だとは思ってたんだよ」



 嘲笑うかのように宮谷君が鼻を鳴らした。



「はっ、なんだよ。猫かぶってたのかよ。道理でおかしいわけだ」

「........」

「...下衆野郎が。猫かぶって全員を騙してる上に、女に無理矢理迫るような行為をする男だったのかよ。くそが、幻滅だよ」

「...お前に幻滅された所で痛くもかゆくもねぇよ」



 ドゴッ、と今度は宮谷君の拳が水無瀬の腹に向かった。けど、寸での所で水無瀬が避けたから、その音は宮谷君の拳を水無瀬が受け止めた音だった。思わずあたしが鋭く息を吸うと、そこではじかれたように宮谷君がこちらへ振り返った。

 口元を覆って目を見開いているあたしの姿を見つけると、時が止まったかの様に一瞬全員が動かなくなった。



「.....あり、が....」



 だけどやはりというかさすがというか、水無瀬が止まった私達の中で最初に動いた。掴んでいた宮谷君の拳を離すと、そのまま彼の前から退いた。はっとして宮谷君が水無瀬の腕を掴んだ。



「おいっ! 話はまだ終わってねぇよ!」

「有賀がここにいる状態で何を話せって?」

「....っ!」



 水無瀬の言葉に宮谷君は言葉を詰まらせた。それから一瞬悔しそうな表情を浮かべたけど、渋々水無瀬の腕を離した。そのままあたし達から顔を背けると、水無瀬が溜息をついた。



「いっ...っ」



 宮谷君を見ていたあたしはその声にはっとして水無瀬を見ると、顔を抑えている左手についている口元から流れた血が予想以上に多かった。



「ちょ、水無瀬っ! あんた、大丈夫!?」

「対したこと、ねぇよ」



 とか言いながら思い切り顔しかめてるよ!

 見せてっ、と言いながら思わず水無瀬の両頬を自分の手で包むと、それを見た宮谷君と水無瀬が目を見開いたのに気づかなかった。宮谷君に殴られたことで口の中に相当大きな切り傷ができてしまったのか、口元には結構な血の量がついていた。この様子だと口の中はもっと酷いな...。

 水道! と言いながら水無瀬の身体を翻すと、廊下にある水道に水無瀬の背中を押す。しかめっ面をしながらも口の中の血を洗い流す水無瀬を見ながら、はっとして今の自分の状況を思い返してみた。


 ....あれ。あたし、今宮谷君と水無瀬が解いた誤解を、また招くようなことしちゃってるんじゃね...?

 そろっと宮谷君の方を振り返ると、案の定困惑した表情を浮かべている。



「え、あ、みや—」

「有賀は、水無瀬の猫かぶりのこと知ってたの?」



 予想していたことと違うことを聞かれて度肝を抜かれた。



「は? え、あ、えと、う、うん」

「....いつから?」

「い、いつから? えと...い、一ヶ月くらい前、かな?」



 瞬時に宮谷君の眉が寄る。



「...あんなキスもされてたっていうのに、誰にも言ってないのかよ...」

「.....あ、いや、あの....」



 誰かに言ったらキス以上のことをやられるとはさすがに言えない。というか、あたしも別にそれが理由でバラしてないわけじゃなくて、猫かぶってる理由を知ったからには....なんとなく、バラすのはやるせないっていうか....。

 黙り込んだあたしの背後で、水無瀬がバシャバシャと音を立ててからキュッと水道の元を締める音が聞こえた。そのわざとらしい音に宮谷君がキッと水無瀬の方を見る。

 ...とことん嫌われたぞ、水無瀬。



「そ、それにはいろいろわけがあって...」

「......信じらんない。こんな奴の事情に振り回されるなんてどこまでお人好しなんだよ、有賀」

「...そ、それは自覚してます...」

「.......」



 俯いてしまったあたしを宮谷君がじっと見下ろすのが分かる。黙り込んでしまって、この沈黙に耐えられずにあたしが顔をあげると、宮谷君はあたしの目を真っ直ぐと見てから盛大に溜息をついた。



「...あり得ねぇ...。俺達ずっとあの猫かぶり野郎に振り回されてたのかよ。マジで信じらんない」



 猫かぶり野郎という単語に対してあたしも水無瀬も何も言わないと、宮谷君はもう一度溜息をついてから踵を返して階段を降りて行く。水無瀬の方を振り返ってから、洗い残していた血を見て再び水を流し始めたのを良い事に、あたしは慌ててその宮谷君の後を追った。

 下の階についてまたもう一階降りようとしてる所を慌てて呼び止める。



「みやたにくんっ!」



 ピタッと動きが止まって、そのまま振り返った宮谷君は、やけに疲れきったように見えた。



「...何?」

「あ、あの...こんな、こんなこと言うのもふざけてるって思うかもしれないんだけど、水無瀬が猫かぶってるのは他の人に言わないでほしいの!」

「.....なんで...」



 予想通り宮谷君が困惑に満ちた顔を浮かべる。

 当たり前の疑問だ。宮谷君はあたしと水無瀬がキスしてるのを目撃してる。それが水無瀬に無理矢理されたキスだということも知ってる。そんな無理矢理キスされた張本人が、キスをした奴の秘密をバラすな! というのは、おかしいと思うのは当然のことだった。

 ...だけど、



「...水無瀬が猫をかぶってるのには、その...結構複雑な理由があって、家族とかも絡んで来るから、だから...バラさないで欲しいんだよね」

「.......」

「あたしがこんなこと言うのもおかしいのは分かってるんだけどっ、でもお願い! 結構...結構複雑だから...」



 さすがに本当の理由を教えるわけにはいかないから、これしか言えないけど...。分かってくれ、宮谷君!!

 目の前にいる宮谷君が溜息をつくのが聞こえた。



「...本当にどこまでお人好しなんだよ」

「.....分かってるけど...」

「安心しろよ。別に誰かに言うつもりはなかったし。言った所で信じてくれる人なんて殆どいないと思うよ?」

「.......」



 ...それは、確かに一理ある。特に女子にそんなこと言ったらただの男子の嫉妬だとか思われて終わりだろうな...。そこらへんも含めてあんな優しい猫かぶってるんだろうか、あいつは。

 黙り込んだあたしにふっと小さく宮谷君が笑った。



「...いろいろやられたよ」

「え?」

「...お前と水無瀬が仲いい理由がやっと分かった気がした」

「....いや、あの、仲良くないし....」

「お前らにそういうつもりはなくても、共有の秘密を持ってる以上、話す事も多くなるだろうし、協力関係も成り立つだろう? それがいくら無意識だったとしても。だから周りからは仲が良さそうに見えたんだな」

「.......なんか、いろいろとごめんね、宮谷君」



 宮谷君が苦笑を浮かべる。



「お前が謝ることはないよ。悪いのは全部あいつだと思ってるし」

「...それには同意する」

「ははっ。....じゃあな、気をつけて帰れよ」

「...うん。宮谷君もね」



 小さく笑って宮谷君が階段を降りて行く。その後ろ姿をしばらく眺めてから、はぁ、と大きく溜息をついた。

 ...とんでもないことになっちゃったなぁ....。

 思いながら来た道を戻って、階段を上って行くと、柱に寄りかかっている水無瀬がこちらを見た。



「...バカじゃないの?」

「...はぁ?」



 なんだよその第一声! 頼み込んだあたしにほかにいうことはないのか!



「バカとはなんだ! バカとは!」

「宮谷と組んで俺が猫かぶりだってバラせば、信憑性も増すだろ。なんでバラそうって思わないんだよ」

「バラしてほしいわけ?」

「そういうわけじゃねぇよ」



 はぁ、と息を吐いた。



「あんたにはあんたの事情がある。あたしにはあたしの事情がある。いいじゃんそれで。言ってほしいんだったらまた宮谷君と組んでバラすけど?」

「.....それはやめろ」



 ふひひという不気味な笑い声をあげると、



「あ、いたああ!! 彩那!」



 ビクッとあたしも水無瀬も肩が跳ねた。驚いて声がした方へ振り返ると、稔が手を振りながら体操着でこちらを向かって来ている。...うわぁ、すっかり忘れてた...。

 息切れながらあたし達の所まで駆け寄って来ると、あれ、水無瀬君! と言いながら水無瀬にも挨拶をする。ニッコリと瞬時に切り替わった水無瀬が挨拶を仕返す。そんな水無瀬を胡散臭そうな目で見たい衝動があったけど、今の所は心の目に任せておこう。



「どうしたの? 稔。部活終わった?」

「それがさー、今日はなんか特別訓練であたしだけ残るらしいの。だから彩那は先帰ってていいよ?」

「えっ? いや、いいよ、待つよ」

「いいっていいって! 本当に六時半ぐらいまであるからさ、そんな時間まで引き止めておくのはさすがに悪いから! あっ、水無瀬君! この子のこと送ってやって!」

「えっ?」

「は?」



 と驚くあたし達を放っておいて、稔はじゃあねー! と手を振りながらさって行く。

 ....嵐のような子だなほんとに。


 隣で水無瀬が溜息をついた。



「俺も今から帰る所だし、どうせ道は同じだから送るよ」

「はぁ!? あんた懲りてないわけ!? あたしとあんたの噂が絶えたわけじゃないんだから、他の生徒に見られたらどう言い訳するつもりなのよ!」



 っていうかどうして人を送ることになるとそんなに律儀になるのよ!



「別に付き合ってないんだからいいだろ? 帰り道が重なって勉強の話をしてたとでも言えば誰でも信じるよ」

「.......」



 いや、まあ、確かに学年一位と二位が勉強の話をしてた、って聞けば納得はするかもしれないけどさ。遠くから見た人があたし達にその疑問をぶつけずに勝手に解釈したらどうするつもりだよ!

 とか心の中で叫んでる間に水無瀬はとっとと階段を降りて行ってしまってる。



「宮谷とのことで話もあるから一緒に帰っても損はねぇだろ」

「.........」



 ...それはさすがに一理ある。

 仕方ない、と腹を括って、あたしは教室に戻って鞄を掴むと、水無瀬と一緒に帰ることにした。










 とあっさりと言ったものの、やっぱりなんとなくこいつと一緒に見られることに抵抗を感じたから斜め後ろについて歩いていた。それが気に入らないのか何回か水無瀬がこちらを振り返ったけど、特に何も言わなかったからあたしも気にしてない振りをした。

 時間が時間ということもあってうちの学校の生徒は全然見当たらない。学校に残る生徒達はだいたい五時ぐらいまでは部活があって、ない人はその生徒を待っているのか、先に帰ってしまうのが殆どだから、中途半端な時間で学校から出て来たあたしと水無瀬が誰かに会う確率は非常に低い。

 といっても警戒はするよ。もちろん。これ以上噂が増えたらとてもじゃないけど耐えきれない。

 はぁ、と溜息をつくと、チラッと水無瀬が肩越しにあたしを見た。



「お前、ずっとあそこにいたの?」

「え?」



 さっきから一言も話してないのにいきなりそんなことを言われてあたしは目が点。

 ....すいません、もうちょっと分かりやすく言ってくれませんかね。



「...あのー、何の話?」

「さっき。俺と宮谷が話してる時に、お前ずっとあそこにいたの?」

「あぁ....えと...た、多分?」

「多分ってどういうことだよ」

「いや、二人の会話がどこから始まったのかは知らないからよく分かんないけど...あたしがいたのは二人が階段を上って来てる時だった」

「.......」

「そもそもどうやってあんなことになったのよ」



 あたしが盗み聞き(いや別にあの場合は不可抗力だよね!?)を始めた時には二人とも会話の途中だったと思うから、何がどうなってあんなことになったのかはよく分からない。二人は部活も違うから、いくらどっちも部活の時間が同じだからって偶然一緒になって話していたとは考えにくい。

 となると、宮谷君が水無瀬を呼び出したのか、水無瀬が宮谷君を呼び出したのか....。いや、前者だな。



「...俺は今日の部活は早めに終わらせるつもりだったから、他の奴らがまだ部活やってる間に、着替えてて、丁度更衣室から出て来た時に宮谷が俺を呼んだんだよ」



 やっぱり...。



「なんだか知らないけど怒ってる様子だったから、お前関係だろうなとは思ったけど」

「...なんで宮谷君が怒ってたらあたし関係なのよ」

「それ以外にあいつが俺に話しかけて来る理由はないだろ」

「........」

「とにかく、最初はまあ穏やかに勉強の話とかしてたんだけど、これがどこに向かってるのか察した俺が話を終わらせるために校舎に入ったんだよ。そのまま追いかけて来るから、聞きたいことは他にあんだろ? と聞けば黙り込んだ。そのまま俺が階段を上って行ったら、お前のことが話題にあがったわけ」

「.....じゃああたし本当に悪いタイミングであそこにいたんだね...」

「そうだな。すげぇタイミングだったな」



 いや、あたしは悪いと言ったんだけど。

 と、そこまで思ってより重大なことを思い出した。



「ってちょっと! 今更だけど、あんた宮谷君に猫かぶりのことバレて平気だったわけ?」

「言っただろ。あいつだって薄々気づいてたんだ。俺も無理にあいつの前で偽物装ってたわけじゃないし、バレても別になんともないと思ってたから」

「...あの...なんであたしにはあれだけの酷い口止めをしといて、宮谷君には何もなし?」

「お前と違って口が軽くないから」

「...あんたねぇ....っ」

「大体あいつも言ってただろ。言った所で誰も信じてくれないって。あいつはあれを分かってるけどお前は分かってない。この違いだよ。まっ、さすがに二人で組んだんだったらいろいろ違うだろうから確かめたんだけど」



 あたしの家がある通りに曲がりながら水無瀬が言って、あたしの口角は引きつった。

 どこまでバカにしやがるんだこいつ。



「...ってか、何気に宮谷君のこと結構信頼してるんだね」

「他の奴らと違ってなにかと付き合いは長いからな」

「ふぅん...」



 あたしの家の前まで来て水無瀬が立ち止まった。あたしは鞄の中をあさって鍵を見つけると、それをドアに差し込む前に車がないことに気づいた。

 ...車がないってことは、二人とも帰って来てないのかな...。

 溜息をついてドアを開けると、お礼を言うために水無瀬の方を振り返った。

 けど、あたしが何かを言う前に水無瀬が口を開けた。



「それで、正式にお前に自分の気持ちがバレた宮谷のことはどうするんだ?」

「....どうするって...」



 どうするも何も、あたしには何もできないでしょう。返事が欲しいと言われたわけじゃないし、なんていうか....ちゃんと告白されたわけじゃないし...。

 俯くあたしに水無瀬が眉をあげた。



「なんだよ。フラないのか」

「...いや、だってちゃんと告白されてないじゃん」

「でも宮谷の気持ちを知ってるってお前もあいつも分かってるじゃねぇか」

「そうだけど、なんか、そこであたしが返事があげるのは違う気がする...」



 水無瀬が息を吐いた。



「好きじゃないんだったら好きじゃないってはっきり言ってやれよ。あいつもそっちの方がすっきりするだろ」

「...あんたは気持ちを伝えた側じゃないからそんなことが言えるのよ」

「無駄に返事を引き延ばされた方が酷じゃねぇのか?」

「...そんなのことは、ない...と、...思う、けど」

「めんどくせぇなー。そんなに深く考えずに、好きだったら好きって言って、好きじゃなかったらとっととふっちゃえばいいじゃん」



 キッと水無瀬を睨みつけた。



「あたしはどうしてあんたに彼女が出来るのかが時々すごく疑問だよ」

「へぇ、俺の魅力が分からないと」

「はぁ? 分かりたくもないよ。大体、あたしの中では魅力という点では宮谷君の方が勝ってるよ」

「はっ、じゃあどうしても選べと言われたら、俺よりも宮谷の方がいいんだ」

「当たり前だよ!」

「へぇ...?」



 呟かれたと思うと、ズイッと水無瀬が一気に間合いをつめた。あたしが驚いて家の中に後退すると、顔に怪しい笑みを貼付けたまま水無瀬が更に近づいて来る。バタンッとドアがしまったと思うと、グッと腰に水無瀬の腕が回された。



「ちょ、ちょっとっ!」

「じゃあお前は、」



 チュッと音を立てて水無瀬が首もとにキスをした。そのまま唇を耳まで這わせると、低い声で囁く。



「宮谷にこんなことして欲しいんだ?」



 その声を聞いてあたしが身震いしたのをいいことに、口元に笑みを浮かばせながら耳を甘噛みして、そのまままた首もとに下がって行く。慌ててあたしが水無瀬の胸板を押し付けたけど、当然びくともしない。



「ち、違うっ! ちょ、みなせっ」



 あたしの声を無視し、水無瀬は顎の下に口付けをすると、頬を上ってそこにもキスをする。それから、腰に回していない方の手であたしの頬を支えると、力強く唇に自分のを押し付けた。

 一瞬酔いしれそうになった自分の理性を慌ててかき集めて、身体を動かそうとしたけど、身体どころか顔さえ動かない。がっちりと固定されてしまっている。



「んんっ! んんっ!」



 と必死に音をたてるけどそんなものにおかまいなし。水無瀬は綺麗な睫毛を伏せたままキスを繰り返す。熱っぽく繰り返されるそのキスのせいでどんどん力が抜けて行くのが自分でよく分かる。胸板を押し付けていた手からはいつのまにか力が抜けて、いつの間にか水無瀬の腕を弱く掴んでいる。

 なんだか、傍から見ればとてもじゃないけどあたしが抵抗してるようには見えない気がする。


 いやだからって抵抗してないわけじゃなくてっ!

 と、そこまで思った所で、唇を割ってあたしの口の中に何かが入って来る。そのままあたしの口内を浸食して、歯列をなぞると、逃げ惑っていたあたしの舌を簡単に絡めとった。

 もうその瞬間に何も考えられなくなっていた。


 ただ荒い吐息だけが耳に聞こえてきて、今のあたしには水無瀬が自分に触れていることしか認識できなくなっていた。

 一瞬だけ水無瀬が唇を離すと、思考が回復するような気もしたけど、あたしを見て何を思ったのか、そのままさっきよりも強く唇を押し付けて来た。何度も何度も角度を変えて何回もあたしの舌を絡めとって行く。

 腰に回されている腕にグッと力が入り、容易く水無瀬の元へ引き寄せられると、そのままその腕がスッとシャツの中に入り込んだ。背中に当たる水無瀬の手が布越しではないことが分かってはいても、キスのせいで正常に考えられなくなっていた。


 キスがどんどん深くなって行き、背中に円を描いていた水無瀬の手がスッと背中をのぼっていった瞬間にカッと目を見開いた。

 そのまま殆ど吸い取られてしまった力の最後を振り絞ってグッと水無瀬の左腕を押さえつけた。

 ピタッ、と動きが止まったと思うと、水無瀬の唇が離れて行く。


 ズザザザザ、とものすごいスピードで水無瀬と距離を取ってから、荒い呼吸を繰り返す自分を必死に落ち着かせようとした。体中が熱くなっている。水無瀬を見上げると、なぜだか少し目を見開いていた。

 だがそんなことはどうでもいい。



「あんた、今何を、しようしたのよ!!」

「....何って?」

「とぼけるなああああ! 思いっきり人のぶ、ブラのストラップを外そうとしてたじゃねぇかよ!!」

「だったら?」



 コ・ロ・ス。



「もう出てけええええ!!! 早く出てけええええ!!! 送ってくれたことに感謝をする気も起きないわ!!!」

「言われなくても出て行くよ。宮谷への考え方は、今の俺のおかげでずいぶんと変わっただろ?」

「失せろおおお!!!」



 絶叫するあたしにニヤリと口角をあげたまま、水無瀬は玄関のドアを開けて外へ踏み出した。

 あたしは目に涙を浮かべながら口の中で呪いを繰り返していて、一通り呪いを繰り返してから今起こったことを思い返してみた。瞬時に体中が熱くなる。

 ....いや、いやいやっ! 別に全然! 全然違うし! 嫌じゃなかったなぁ、とか思ってないし! 思ってないからっ!!


 あああああああああぁぁぁ.....、と弱り切った声を吐き出してあたしは床に突っ伏した。



 この時、ドア越しにいた水無瀬が今の行動に自分自身が驚いていたということを、あたしは知る由もなかった。 














 一人称だと他人の考えてることが書けないからちょっと大変...。



 ここまで読んでくれてありがとうございますorz


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