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猫かぶり

 はじめましての方ははじめまして。そうではない方はまたお会いできて光栄です^^

 この小説がお目にかかるとはなんたる至福..っ! 読んでくださるなど誠にありがとうございます><


 稚拙な文章で申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。


 それでは、最後までお付き合い願います。

 ああ、なぜこんなことになっているのだろうか。

 神様、あたしが何か間違ったことをしたんだったら謝ります。だけどこの仕打ちはあんまりじゃありませんか? 別に好きでこいつのことを知ったわけじゃないし、好きでこいつの秘密守ってるわけじゃないし。


 好きで、好きでこいつとキスをしてるわけじゃねぇええんだよおおお!






 事の発端は二日前。

 いつもように親友のみのりと一緒に帰っていただけなのだ。今思い返せばあの時の忘れ物なんて次の日に学校に行ってからでもよかったのに、どうしてよりによってあの時取りに行ってしまったのだろうか。



「あ!」



 いきなり声を上げるあたしを、稔はびっくりして見つめてきた。そりゃそうだ。さっきまでまったく他愛もない話をしていたのにいきなり声をあげたら誰だって驚く。

 目を丸めて稔があたしに問いかけて来る。



「び、びっくりした。いきなり何なのよ、彩那あやな

「ごめん稔! 先に帰ってて! ノート忘れて来た!」



 と叫びながら走り出す私を止めることが出来たらどれだけいいか。

 一層目を丸めた稔が一瞬キョトンとしてから慌てて身体を反対方向に向けた。



「え? の、ノート!? ちょ、待ってよそんなの明日でもよくない!?」

「だめなんだって! 今日のうちの予習しとかないと絶対明日のテスト無理だもんっ!」

「ちょっと彩那!? 小テストよ!?」

「それでも!」



 自分でいうのもなんだけど、あたしは真面目だ。中間テストはもちろんのこと小テストとかでも絶対いい点は取りたいってくらいに真面目だ。稔とか他の友達には真面目すぎるよー、っていつも言われてるけど、おかげさまで成績もいいし大学進学も問題ないんだからあたしのやってることは合ってる。はず。いやいや合ってるよ絶対。

 反対に稔はあり得ないくらいの究極の面倒くさがりや。中間テスト、小テストが共に近づいて来ても一切勉強に打ち込む姿を見ない。ってかテストが近づいてくれば近づく程どんどんリラックスするタイプである。それなのに成績はいい。なぜだ。あたしはこれだけ真面目に勉強して学年成績二位、稔は勉強する姿を一切見た事ないのに学年成績は五位。なぜだ。稔曰く『適当に聞き流してれば全て呑み込む天才型なのよ、私は』。

 世の中って不公平だよね。


 とにかく学校からあんまり離れてなかったから一分も走ってればすぐに学校についた。でも、あたしも稔も既に放課後になってる時点で学校から出て来たから、学校に戻ると殆ど誰もいなかった。

 夜じゃないだけいいか。お化けとかそういう類いは一切信じないんだけど、やっぱり夜の学校って不気味だと思うのよね。


 急いで校舎内に入って上履きを履くと、疲れてしまったから息切れしながら階段を登って行く。高校二年生にもなるとわざわざ三階まで階段でいかないといけないから大変すぎる。来年が憂鬱になってくるわ。

 やっとのことで三階までたどり着くと、誰もいないはずの教室のドアが閉まる音がして、思わず柱の後ろに隠れてしまった。

 そっと顔を覗かせると、男子生徒が耳に携帯を当てて一人立っていた。

 あれ? あれって....。水無瀬君?


 水無瀬みなせ愁也しゅうや君。サラッサラの黒髪から覗く(クォーターだから)青まじりの茶目に端正な顔立ちは男の子なのに思わず綺麗だと思ってしまうほどのイケメンで、運動神経も抜群。謙虚で温和で優しくて、男女共に友人が多い。その上学年成績は唯一あたしを抜かす、学年一位の完璧超人少年だ。

 あたしとあまり交流はないけど、同じクラスだし学年一位、二位同士だから勉強の世話になることも時々ある。本当に謙虚で優しい男の子で、そりゃ女子にモテるわとも思う。

 そんな水無瀬君が、こんな時間にこんなところで何してるんだろう?


 声をかけようと思って柱から離れた瞬間、



「っっざっけんなっ!! 勝手に出て行きやがったくせにいきなりフラフラ帰って来るとか許さねぇぞ!! 絶対に家に入れんなよ! 入れたらぶっ殺す!」



 聞こえて来た怒声と共に壊れる勢いで携帯が閉まる音に足が止まり、水無瀬君を呼ぼうとした口も開いたまま固まった。

 ....今の、声は、水無瀬君、だよね....? 叫んで、たよね....? あれ...? おかしいぞ。あたしの知ってる水無瀬君はそんな口調じゃないはずなんだけど。

 勉強とかできなくても『あ、そこ間違ってるよ』とか、よくできてるところを見ると『うわっ、有賀ありがさんってやっぱ頭いいんだね』とか、普段からあたしや友達とかにたいしても『昨日のテレビ見た? ヤバいよ、俺感動した』とかいうおっとりー、とした口調のはず。

 そんな水無瀬君が(あたしの空耳じゃない限り)『ぶっ殺す』とか口にしてるんだが。


 なんとなく見てはいけない場面を見てしまったような気がしてゆっくりと下がって行ったけど、携帯での対話を終えた水無瀬君がイライラした様子のまま振り向いた。


 バチッと見事に視線が合った。



「..........」

「..........」



 思い返せば、この時一目散に逃げ出したのが悪かった。結局ノートも手に入らなかったし、稔との楽しい帰り道も帰れなくなったし、わざわざ息を切らしてまで学校に行ったのに見てはいけないものを見てしまったし。

 だけどあの時逃げていなければ、あたしはどうやって言い訳をするつもりだったのだろう。








 そして次の日。なんとなく危険な気がして結局水無瀬君のことは稔には言わなかった。いや、あれはどう考えてもあたしの空耳ではないんだけど、きっと水無瀬君がマジ切れした時にああなるんだろうなぁ、って勝手に解釈したら稔にそれを教えて実は水無瀬君が猫かぶりだったとか回されたくないあたしの貴重の気遣いであって決して言ってしまったら水無瀬君が鎌を持って追いかけて来る夢を見たわけでもなんでもないし。

 .....なんで鎌だったんだろう....。マジで怖かったんだけど....。



 学校に行く時には稔は一緒ではない。確かに一緒に帰るけど、それは親友だからであって別に帰り道が一緒だから、という理由から来るわけではない。十分くらいは駅まで一緒だけど、稔は電車に乗ってあたしは歩ける距離に住んでいるからいつも駅で別れる。時々駅から出て来た稔と一緒になることはあるけど、やっぱり一人で登校することが多い。

 だから教室に入った瞬間に水無瀬君と視線が合った時、傍らに稔がいないことを強く呪った。


 パッと視線を逸らしてそのまま何事もないように席についた。正直それしか方法が思い浮かばなかったし、水無瀬君がいきなりあたしを教室から引っ張りだしたりはしないだろうとも思ったからだ。

 案の定その日いっぱい水無瀬君はあたしと接触を図ることはなかった。一日中視線を感じていたけど。いや、近づくことならきっとできたと思うんだけど、あたしはずっと稔にくっついていたから話しかけてくることはなかった。たとえ稔が同じクラスにいなくても他の友達と一緒に過ごすことでなんとか水無瀬君から離れることができたのだ。


 ま、そのお陰ですっかり安心しきっていたあたしは、トイレに行くために下駄箱で稔を待たせて、再び階段を登って行ったのだ。それから用を足してトイレから出た瞬間、



「ねぇ」



 固まった。驚いたからじゃない。いや、確かにびっくりしたわけだけど、その声には確かに聞き覚えがあって、間違いなく彼はあたしに話しかけて来てると分かったからだ。

 ゆっっっくりと首を振り向かせると、.....やっぱり.....。

 水無瀬君が腕を組んで壁に寄りかかっていた。そしてこちらを見ている。無言で。



「み、なせ君」

「.........」



 沈黙を貫き通す水無瀬君。汗ダラダラのあたし。



「水無瀬君、こ、こんな時間にここで何やってんの?」

「............」

「こ、ここ、女子トイレの前だよ?」

「有賀さんさ、」



 ビクっと身体が震えた。そのまま水無瀬君の視線ががっちりとあたしの視線と交わる。



「昨日の放課後学校に来てたよね?」



 ピキッと再び動きが固まる。あたし、もしかしなくても、大ピンチじゃない?

 そのまま冷や汗ダラダラで水無瀬君を無言で見つめていても、あっちは確実にあたしが何かを言うまで待っている様子でいる。っていうか腕を組みながら壁によりかかってるその姿、めちゃめちゃ絵になってるんだけど。



「き、来た、かな?」

「....俺さ、昨日の放課後学校に残ってたんだよ」

「う、うん」

「それで電話してたんだけど、それを終わらした瞬間に振り向いたら有賀さんがいたんだよね」

「.....い、いた、ね」

「しかもなんかじりじり後ずさりしてさ」

「...して、た?」

「もしかして、俺の会話聞いてた?」



 はっ! これは確かめてるの!? 確かめてるのね!? ということはあたしが本当にそこにいたかどうかは知らないってことね!? よし! ここは嘘を貫こう!



「ききき聞いてないよ! そんな他人の会話聞くなんて—」

「じゃあさ」



 いきなり一段低くなった声に言葉が止まった。そのまま水無瀬君がジリジリと近づいて来て、あたしは思わず下がり続けて、壁にぶつかってしまった。それでも尚水無瀬君は近づいて来る。



「....今日、どうしてずっと俺のこと避けてるわけ?」

「............」



 ヤバい。これは本当にヤバい。絶対絶命大ピンチなんだけど。しかもなんだか頭の両側に水無瀬君の腕があって逃げられない状況になってる.....! なんで!? なんでこんなことになってるの!? どうすればいいの!? 本当のことを言えば良いの!? マジで分からない!


 百面相を繰り返すあたしをじっと見つめてから、水無瀬君は俯いた。



「.....聞いてたんでしょ」

「えっ!?」

「..電話での会話、聞いてたんだろ」

「....え、ちょ、水無瀬君....?」



 あのー。口調が変わって来てるんですけど。

 声をかけると、水無瀬君はキッと視線を上げた。



「往生際が悪いんだよ。俺が電話してる所、しっかりと見てただろーが」

「!!」



 く、黒水無瀬君になった....っ! な、なんで!? やっぱり昨日は水無瀬君がマジ切れした瞬間とかじゃなかったわけ!? 何これ!? どうなってるの!?



「ちょ、ちょっと水無瀬君!?」

「....俺はな、有賀」



 いきなり呼び捨てかよ....!



「学校では優しくて謙虚で温和な誰にでも好かれる優等生をやってんだよ。だってそっちの方が人生が楽だろ? 変な輩に喧嘩も売られねぇし、先生達には評判はいいし、男にも女にも同じ量の友達が出来る。おまけに女にモテるモテる!」

「....み、...みなせ、...君?」

 


 きゃ、キャラが変わり過ぎなんだが。



「だけどよ、俺の本性はこっちだ。昨日の電話を聞かれるとは計算外だった。ま、周りを確かめなかった俺も俺なんだがな。まさか誰かに聞かれてるとは思わなかったから、振り向いてお前がいた時には驚いたよ。しかも一目散に逃げやがって」

「ちょ、ちょっと待ってよ! これどういうこと!? どうなってんのよ! あ、あんた本当に水無瀬君!? 双子とか他人の空似とかじゃないでしょうね!?」

「俺が水無瀬愁也には見えないくらいに驚いたってことか?」

「そうよ! 水無瀬君はあんたみたいな奴じゃないわ! 水無瀬君に何したのよ!」

「有賀」



 抗議をするために腕に手をかけて水無瀬君を睨みつければ、静かに名前を呼ばれる。それからあたしが手をかけていない方の腕で鞄の中からノートを取り出した。それを突きつけて来る。

 ノートには確かに『水無瀬愁也』と書いてあるし、中身も綺麗な水無瀬君の字だ。



「その中にある問題、俺に一つ聞いてみろ」

「えっ?」

「お前より頭がいいって証明できれば、信じてくれんだろ?」

「........」



 た、確かにあたしより頭がいい人は水無瀬君しかいない。あたしより一つ下で、三位の成績を持っている神楽さんでさえも中間テストの総合点数はあたしより二十点以上の差がついている。水無瀬君とあたしの成績の差は、十点。だけどその十点の差があまりにも大きいのだ。あたしがどれだけ勉強して、どれだけ頑張ってもその距離を縮めたことはない。

 自信満々のまま水無瀬君はあたしを見つめている。

 分かってる。虫の良すぎる理屈で目の前にいるこの男の子が水無瀬君じゃないって決めつけてる。でも、そう思ってしまうほどにこの男の子は水無瀬君っぽくないのだ。



「...いい」

「は?」

「わざわざそうやって証明してくれなくても、あんたが水無瀬君だってことくらい分かってる」

「........」



 そう言ったあたしに対して両目を大きく見開いた水無瀬君は、確かにあたしや稔の知ってる水無瀬君に見えた。

 ああ、これが水無瀬君なのだ。口が悪くて意地悪そうなこの腹黒い水無瀬君が、本当の水無瀬愁也なのだ。


 ....よりによってなんであたしが知るのよー....。最低な立場だわ.....。



「.....なんで、そんな、わざわざ猫なんてかぶってんのよ」



 ポツリポツリと言葉を紡ぐと、水無瀬君はニッと笑った。



「言っただろ。こっちの方が人生が楽だってよ。中学からずっとこれで貫き通して、断然簡単だよ。ちょっとくらい失敗しても俺のことは先生達はすぐに許してくれるのに、俺と同じ失敗をした態度の悪い奴は散々怒られる。だったら失敗しても許してくれる奴になりてぇだろ?」

「....水無瀬君」

「ありがぁ。このこと絶対誰にも言うなよ」

「は?」



 誰にも言うなって.....。今まさに誰かに言っていいって許可を訊く所だったんだけど。

 聞き返したあたしに、水無瀬君は溜息をついた。



「は? じゃねぇだろ。お前が言っちゃったら俺の人生計画は台無しになんだよ。本気で頼むぜ」

「そ、そんなのずるい! みんなを騙してるみたいなもんじゃない!」

「騙してるんなら騙されてる方が悪いんだよ。大体、運動神経と頭脳はともかく、性格まで完璧な男なんているわけねぇだろ。普通なら違和感覚えるっつーの」

「水無瀬君!」

「うるせぇ。有賀、もしお前が他の奴らにバラしたりしたら、どうなるかは分かってんだろうな?」

「は? そんなの知るわけ—っ」



 気づいたら水無瀬君の顔がすぐ目の前にあった。


 それから、気づいたら水無瀬君の唇に、自分の唇が当たっていた。



「!?」



 目を見開いて驚いていると、あたしにキスをしたまま水無瀬君が目を開いてこっちを見てる。その美しい瞳にキスされていることも忘れて思わず見惚れてしまいそうになったけど、脳の隅っこで必死に理性が叫んでいて、我に返る。

 瞬時に顔を引き離そうとしたけど、いつのまにかがっちりと頭の後ろの水無瀬君の手があって一向に離れる気配がない。


 息をするために僅かにあけた口の中に、濡れた何かが入って来て、それが水無瀬君の舌だと理解するまで少し時間が経ってしまった。だけど理解してからは一層強く水無瀬君を押し返そうとしたのに微動だにしない。



「んっ、っ、はっ、み、んんっっ!」



 荒い吐息が漏れても尚、水無瀬君はあたしの舌を絡めとる。さっきまで開いていた瞳も伏せていて、開いたままのあたしの目には彼の美しい睫毛が見えた。

 だけどそんなことに気を回している暇はない。



「んっ......っ、んんん....っっ!」



 必死の音を出して抵抗をしても水無瀬君のキスは止まらない。

 だけどこれ以上はだめだ。このままだと理性が粉々になってしまう。身体が溶けてしまうんじゃないかって思う程に熱い。水無瀬君の胸板に押し付けているあたしの手の力も抜けて行っている。

 だめだ。これ以上は、だめ。


 一度強く唇を吸い上げてからふっと水無瀬君が離れて行って、あたしは息を切らしながら彼を睨み上げた。あたしとは対照的に息一つ乱れていない。



「な、何、すんのよ、このクソ水無瀬!」

「それが嫌だったら誰にも言うなよ。誰かに言ったら、キスだけじゃすまねぇぞ」



 お、恐ろしいことを言いやがったこいつ!! あっさり人のファーストキスを奪っておいてその台詞は何!? 許せない!



「こんの....っ、猫かぶり野郎がぁあ!!」

「なんとでも言えばいいだろ」



 飄々とした様子で水無瀬は床に落ちていた鞄を拾い上げると、何事もなかったかのように階段の方に歩を進めた。それから一度だけ振り向いて、未だに床に座り込むをあたしを見て、ふんっ、と鼻で笑った。



 ....あんの、野郎.....! 鼻で、鼻で笑いやがったぁあああああああ!!

 

 許さない!!! 絶対に許さない!!!




 これが、あたしと水無瀬の、秘密の共有の始まりだった。




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