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星降る夜に君は死んだ  作者: 天代 朔
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第21話  麻衣のいない放課後

 昼休みになった。係の生徒が給食の準備をする中、直斗は急いで教室を出ようとした。職員室に戻った先生をなんとか説得して、スマホをなんとか返してもらおうと思ったのだ。

 だが、その前に、窓際の席で麻衣がぐったりと机に伏せっているのが気になった。どうも普通ではない様子だ。土曜日のメールの件もある。直斗は心配になって、席へと歩み寄った。


「麻衣、大丈夫か?  なんか調子悪そうだけど……」


 声をかけると、麻衣はゆっくりと重そうに顔を上げた。その肌は透けるように青白く、目はうつろだった


「……ごめん、直斗。ちょっと、気分が悪くて。……これから、早退するね」


 麻衣は消え入りそうな声で言い、震える手でカバンを肩にかけた。


「え、大丈夫?」

「うん……たぶん、妹の風邪がうつっちゃっただけだと思う」

「なら俺が送っていくよ。家まで——」

「いい。一人で平気。先生にはことわってから帰るから心配しないで」


 麻衣は力なく首を振ると、直斗と視線を合わせないようにして立ち上がった。

 このままだと何も話せないで終わってしまう。

 直斗は周囲に聞かれないよう、小声で麻衣に声をかけた。

 

「あの、武のことだけど――」


 その途端、麻衣が一瞬固まった。そして答えた。


「……連絡、あったよ」

「――!?」

「うん、スマホに。無事だって」


 武はあの後、麻衣にもコンタクトを取ったのか。


「そっか……」 

「ごめん、じゃあ帰るね。また今度話そう」


 麻衣はそれだけ言うと、逃げるように教室を後にした。直斗はその後ろ姿を見送ることしかできなかった。

 麻衣の体調、事件のこと。武からの連絡……話したいことは山ほどあるのに、それができない。

 直人は言いようのないもどかしさと、胸騒ぎを覚えた。やっぱり麻衣は、俺にすら相談できない、何か思い秘密を抱えているのではないか――

 がらんとした麻衣の空席を、昼時の陽光が虚しく照らしていた。


♢ ♢ ♢


 すべての授業が終わり、放課後を告げるチャイムが鳴った。

 麻衣のことがあって、昼休みには、結局職員室にはいけなかった。しかも間の悪いことに、今日はこれからすぐに天文部の集まりがある。スマホを返してもらうため、説教され反省文を書く余裕はない。そんなことをして時間に遅れたら、他の部員たちから非難轟々だろう。

 直人は仕方なく図書準備室に向かった。ドアを開けると、そこにはすでに部員全員が顔を揃えている。そのすぐ後で、田中先生が快活な足取りで入ってきた。


「お、揃ったな」


 事件直後の憔悴した様子から一転、今日の田中先生はどこか憑き物が落ちたように明るい表情をしている。


「みんな、急に集めて悪かった。実は先週の職員会議で決まった事があってね」

「あの……」


 直斗は田中先生の話が始まる前に、麻衣が学校を早退したことを伝えた。

 

「ああ、わざわざすまないな。だがそれならもう本人から聞いてるから安心しろ。気分が悪いから早退すると、七瀬がお昼前に職員室に来たんだ」


 田中先生はうなずいて、それから部員たちを見渡し、ニッと白い歯を見せた。


「――さて、当面見合わせとなっていた部活動だが、正式に再開されることが決まったぞ! 警察の現場検証も終わってるし、これ以上生徒たちの活動を制限するのも良くないという方針になったんだ」


 その言葉に、一年の恵をはじめ、部員たちの顔が一気に明るくなる。彼らは直斗と違って、天文部と星空が本当に好きなのだ。


「それに伴ってだ」


田中先生がパンッと手を叩いて皆の注目を集めた。


「秋の文化祭に向けて、ウチの部も活動を本格化させたい。そこで、三週間、月一の天体観測会を実施しようと思う。そこで撮った写真を発表するのが目的だ」

「三週間後……ですか?」


 直斗は思わず声を上げた。


「そうだ。五月の観測会は雨で延期になって今月にずれ込んだうえ、あんなことになってしまったからな。だから、せめて来月、夏休みに入る前に一度は実施したい」

「でも、場所は?」

「もちろんこの新校舎の屋上だが、問題あるか?」

「待ってください」


 直斗はこらえきれず、ガタッと椅子を鳴らして立ち上がっていた。


「北川先生が亡くなったばかりなのに、犯人もまだ捕まってないのに、なんか不謹慎じゃないですか」

「おい滝沢、お前何言ってんだよ」


 田中先生を遮るように、斜め向かいの席から冷ややかな声が飛んできた。

 三年生で副部長の、門脇だ。


「なんで不謹慎なんだよ。観測するのは新校舎の屋上なんだから、事件のあった旧校舎とは関係ないだろうが。それに毎月一回定例で観測するのはうちの部の伝統だし、みんな楽しみにしてるんだよ。新参者が余計な口出すな!」

「なんだと――」


 直斗は門脇を鋭くにらみつけた。

 自分は別にいい。むしろもう一度屋上に行けば、事件について何か新たな発見があるかもしれない。だが麻衣はどうか? ただでさえ様子がおかしいのに、同じ場所同じ時間で夜空を観測することに耐えられるのか? かといって、天文部の部長として欠席するわけにもいかないだろう。


「北沢、もしやお前怖いのか? 情けねえなあ。周りを見てみろ、そんなビビっているのはお前だけなんだよ」

「……はぁ? 門脇、今なんて言った?」

「だから、ビビるなって言ってだよ。それに犯人はもう決まってる、前も言ったろう? 尾崎だよ、尾崎!」

「お前、それ以上言ってみろ!」


 また武のことを犯人扱いしやがって――

 直斗は思わず立ちあがり、鼻で笑う門脇の胸倉をつかみそうになった。  


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