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正義感

作者: 寝て待て
掲載日:2025/12/12

この作品はフィクションだ。というよりむしろフィクションであってほしい。この小説は私自身への警告でもある。

 私は小さい頃は自分勝手だった。自分が良ければそれでよかった。だからSNSで友達の陰口を叩いたことがある。興味本位でクラスメイトの女子を盗撮したこともある。結局それで怒られることもなかった。だからそのまま大学生になった。大学ではサークルにも入らなかったから、暇な時間ばかりだった。一人で考える時間が増えたので、気づいてしまった。それは間違っていること。悪いことだということ。悪いことをすると天国には行けずに地獄に行くということに。だから決めた。悪いことはよして良いことだけをしようということを。

 私はそこから心を入れ替えた。人と接する時は謙虚な姿勢でいよう。不登校の子供達を支援している団体に寄付をしよう。留学生を支援するボランティアにも参加しよう。これですこしでも以前犯した罪を忘れることができたら、そう思った。そう、本当はいいことをしたいというよりは、昔犯した罪が忘れられなかった。だから罪を忘れるために良いことをしようと思ったのかもしれない。だが、まあどちらでもいいだろう。良いことをすると人から褒められるし、自分も良いことをすると気持ちが良い。

 大学4年になった。良いことをしよう、良い人であろうという気持ちはもはや義務感に変わっていた。もう今となっては良いことをしていない自分というのが想像できなくなっていた。大学4年になると授業ももうないから、アイドルを推すようになった。日本では宗教が根付いていないから、こうして崇拝できる対象が自分の中にできたのは新鮮な気持ちだった。他のファンの人とも繋がりたいと思ったから、SNSを始めた。いわゆる「推し活アカウント」なるものだ。SNSでファンと繋がるのは楽しかった。だが、SNSを始めて分かったのは、自分より推しへの熱量が高く、自分よりも多額の金銭を用いて推し活をしている人がいることがわかった。正直羨ましかった。

 ある日、私たちの「界隈」で有名な人、つまりトップオタクである人が不正をしていることがわかった。どうやらチケットを不正に入手していたらしい。これはルール違反だからいけないことだ。そう思った。別にこの人を蹴落としたいとかそういう気持ちではない。私は、SNSでこのトップオタクの不正を暴露した。すると、今までにないほど「いいね」がついた。「リツイート」もたくさんされた。心臓が高鳴る感覚を覚えた。きっともうこの人はこの界隈にはいられないだろう、そう思った。正義は勝つ。悪は必ず負ける。幼い頃から戦隊モノや昔話でそう習ったが、これは本当であったのだな、私は確信した。

 そこから私はもう夢中だった。正義の鉄槌を下さねば。アンパンマンだって、スーパーマンだってそうだ。裁判所の執行官だってそうだ。正義を実行するには多少の強制力が必要だ。多少強引なやり方だったとしても、正義のためには仕方がない。推しの画像を使ったアカウントでナンパをしている奴、グッズを転売している奴、こいつらは全員晒しあげた。やっぱり「いいね」や「リツイート」がたくさんされた。私のやっていることは間違いない。実際、リプライでも「本当にそう思います!!」、「同志がいて嬉しい」など、好意的なコメントがほとんどだった。

 また正義の鉄槌を下さねば。そう思ってタイムラインを巡回していると、あるアカウントが目についた。そのアカウントの人物は、実際にライブ現場に行くことはなく、オンラインを中心に推し活をしている、「在宅」だった。俺はムカついた。こんなやつファンではないと。だからこう投稿した。「在宅のやつって現場にも行かずにツイートばっかりしてるけど、推しからしたら金入ってこないから何のメリットもない。在宅はファン名乗んな」。また「いいね」「リツイート」がたくさんつき始めた。だが、今回は様子が違った。他のやつらの反応は、「え??何言ってんの?」「在宅組も推しの魅力をインターネットで普及しています。彼らも立派なオタクです。彼らを侮辱しないでください。」「こういう変な正義感振りかざす奴ムカつくわwww」。え?? 俺が間違えてるの? おかしい、そんなはずはない。これまで自分は正義の鉄槌を下してきたはずだ。

 ふとテレビを見ると地球温暖化についてのニュースをやっていた。地球温暖化のせいで多くの生き物が絶滅の危機にあるらしい。これは政府だけの責任ではなく、私たち市民にも責任がある、そう偉い人が発言していた。そうか、私は気づいた。本当に悪いのは、、、、 私が執行することができる最後の正義って、、、、 私は私ができる最も偉大な正義を遂行することにした。

正義とはなんだろう。正義とは私たちが思っているよりも脆弱なものかもしれない。

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