精霊の少女
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ヴェント「でやっ!」
風の刃が閃く。巨大な魔獣が悲鳴を上げて崩れ落ちた。
砂煙が晴れると、ヴェントは息を吐きながら剣を収める。
ヴェント「ふぅ……」
ルミナ「こっちも終わったわよ~」
振り返れば、ルミナの周りに転がる中型魔獣の群れ。
その数、ざっと数十。
二人はプラチナランクの討伐クエストの真っ最中だった。
ヴェント「さーて、部位取り部位取り。ルミナはもう取ったか?」
ルミナ「私は戦いながら部位取りもするタイプなの」
ルミナが軽く袋を振ると、魔石がじゃらじゃらと音を立てた。
ヴェント「へーへー、効率のいいこって」
ヴェントは倒した大型魔獣の腹を裂き、魔石を探す。
だが――手が何か柔らかいものに触れた。
ヴェント「ん?」
慎重に切り裂いていくと、胃の中から小さな人影が転がり落ちた。
ドサッ。
それは、長い金緑色の髪をした少女。まだ息がある。
ヴェント「おい!? 大丈夫か!? ルミナ!!」
ルミナ「どうしたの?」
ヴェント「見てくれ!」
ルミナ「っ……!? 生きてる! 《女神の祝福》!」
光が少女の身体を包み、焼け爛れた肌が少しずつ再生していく。
ルミナ「よかった……なんとか間に合ったみたい」
ヴェント「とりあえず、町まで連れて帰ろう。医者に見せよう」
ルミナ「えぇ!」
――
夕暮れの街、病院。
医者は少女を診察し、額の汗をぬぐった。
医者「命に別状はない。半日もすれば目を覚ますだろう」
ヴェント「ありがとう、助かった」
ルミナ「本当にありがとうございます」
数時間後、少女のまぶたが震えた。
少女「う……ん……?」
ルミナ「よかった、目を覚ましたのね」
少女「お姉さんは……?」
ルミナ「私はルミナ=アーデン。あなた、魔獣に食べられてたのよ?」
ヴェント「お、起きたか? 気分悪くないか?」
少女は小さく笑い、柔らかく答えた。
少女「ううん……ありがとう。お兄さんが助けてくれたの?」
ヴェント「おう! 一撃で仕留めてやったぜ!」
ルミナ「また調子に乗って……」
少女はベッドの上で身体を起こし、名乗った。
シルフィナ「私の名前は――シルフィナ。森に住むエルフなの」
ルミナ「エルフ? でも耳は普通の形よ?」
シルフィナ「擬態してるの。ほら」
ぱちんと指を鳴らすと、髪の間から細長い耳が現れた。
ヴェント「おぉ……ほんとだ」
ルミナ「本物のエルフなんて初めて見たわ」
シルフィナ「もう大丈夫。ありがとう、助けてくれて」
ヴェント「元気ならよかった。俺たち仕事あるからもう行くぜ」
ルミナ「気をつけなさいよ。また食べられないようにね」
部屋を出ようとしたその時、
シルフィナ「まって!」
二人が振り返る。
シルフィナ「一緒に行かせて。私も冒険者なの」
ヴェント「……え?」
ルミナ「今なんて?」
シルフィナ「一緒に行かせて!」
――
ギルドの扉を押し開けると、いつものざわめきが耳に飛び込んだ。
リーファ「あ、シルフィナさん! 久しぶりですね! 今回はどこまで行ってたんです?」
シルフィナ「ちょっと北のほうまで……寝てたら、食べられてたの」
リーファ「えぇ!? またそんな無茶を……」
ヴェント「よっ、リーファ。今日もクエスト受けるぜ!」
リーファ「ヴェントさ~ん♡ 何を受けますか?」
ルミナ「……(なんでハートつくのよ)」
ヴェント「この“大蟻大地獄討伐”にする」
シルフィナ「……私も行く」
リーファ「あら、三人で? いいですね、気をつけてくださいね!」
――
灼熱の砂漠。
乾いた風が吹き抜け、砂の海が陽炎に揺れている。
ルミナ「あっさり受けさせてくれたわね……」
ヴェント「シルフィナって、実はすごい冒険者だったんだな」
シルフィナ「砂漠は得意。……風も、火も、眠ってる」
その瞬間、足元の砂が崩れた。
ルミナ「ヴェント!下よ!」
地面が陥没し、巨大な口が現れる。
ヴェント「なっ……でけぇええええ!」
地中から這い出る巨大なアリジゴク。体長は三十メートルを超えていた。
ヴェント「このっ! ストームスラッシュ!」
風の刃が走るが、表皮を浅く裂いただけだった。
ルミナ「ウォーターボール! サンダースピア!」
雷と水の弾幕が地を打つも、アリジゴクは再び地中へ逃げた。
ヴェント「ちっ、硬ぇし速ぇ!」
ルミナ「厄介ね……」
その時、シルフィナが一歩前に出た。
シルフィナ「どいて」
ルミナ「ちょっと! 危ないって!」
ヴェント「おいシルフィナ! こいつは地中に潜るぞ!」
少女は静かに水筒を開き、砂の上に水を垂らした。
シルフィナ「“精霊よ、我に集い、流れと熱を与えたまえ――水と炎の調和”」
足元の砂が波打ち、周囲一帯に水が広がる。
次の瞬間、空気が一気に熱を帯びた。
地表の水が沸き、巨大なアリジゴクの巣が煮えたぎる。
ヴェント「うおっ!? 地面が熱ぇ!!」
ルミナ「嘘でしょ……こんな規模の精霊魔法、聞いたことない……!」
地中から現れたアリジゴクは、体を痙攣させ、そのまま倒れ込んだ。
完全に“茹で上がって”いた。
シルフィナ「さ、食べよう。カニみたいで美味しいよ」
ヴェント「…………」
ルミナ「…………」
ヴェント「すげぇ……マジで強ぇ……」
ルミナ(今のは……精霊魔法。しかも複合属性……この子、只者じゃないわ)
ヴェント「なぁ、シルフィナ! 来週の武闘大会出るんだけどさ、三対三なんだ。一緒に出てくれ!」
シルフィナ「いいよ。でも条件がある」
ヴェント「なんだ?」
シルフィナ「後で話す。まずはギルドに帰ろう」
――
ギルド。
リーファ「おかえりなさ~い! やっぱり早かったですね!」
シルフィナ「はい。魔鋼石、全部ヴェントとルミナに」
ルミナ「ちょっと!? 討伐したのはほとんどシルフィナでしょ!」
ヴェント「そうだよ、俺たち何もしてねぇし!」
シルフィナ「お金はいらない。魔物を食べるから」
リーファ「いつもそうなんですよ、この人」
シルフィナ「リーファ、武闘大会のエントリーってここでできる?」
リーファ「もちろん! えっ!? 三人で出るんですか!?」
三人はうなずく。
リーファ「すごい! 当ギルドのTOP5から3人が同じチームなんて!」
ルミナ「TOP5?」
リーファ「そうです! “万能の魔術師ルミナさん”、 “神速の剣士ヴェント様♡”、
そして“精霊使いシルフィナさん”! お三方がTOP5のうちの3人なんです!」
ヴェント「俺たち、来てまだ3日だよな!? もうそんな上に!?」
リーファ「ちなみに順位は――シルフィナさんが2位、ルミナさんが4位、ヴェント様が5位です♡」
ヴェント「またルミナに負けてる……!」
ルミナ「ところでシルフィナ。私たちと大会に出る条件って?」
シルフィナ「ルミナには何もいらない。ヴェント」
ヴェント「お、おう? なんだ?」
シルフィナ「――私と、結婚して。」
周囲が一斉に固まる。
ヴェント「ああ、いいぜ……って、ええぇ!?!?!?」
シルフィナ「あなたの冒険は邪魔しない。必要なら力も貸す」
リーファ「シルフィナさん!? ヴェント様は皆の物ですっ!」
シルフィナ「別に、私だけの物じゃなくてもいい」
周囲「ざわざわ……」「結婚!?」「美女ばっかじゃねぇか!?」「ルミナたん結婚してぇぇぇ!」
ルミナ「ま、また……ヴェントが……モテてる……なんでよぉ……!」
喧騒と笑いの中、三人の冒険が本格的に始まろうとしていた。
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