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光と風の境界  作者: 770
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旅立ちの風

(^^)/

ノルヴェルの空は雲ひとつなく澄みきっていた。

スライムドラゴンを退けたあの日から、エリシアは家の庭を訓練場に変え、

ヴェントとルミナに新たな修行を課していた。


エリシア「さぁ、今日からは本格的に始めます。覚悟はいい?」

ヴェント「もちろん! あのスライム、次は一人で倒す!」

ルミナ「アンタ一人じゃ無理。だから私が見ててあげるの」

ヴェント「うるせぇ、監視かよ!」

エリシアは苦笑しながら、二人の頭にそっと手を置いた。

エリシア「力はね、競うためじゃないの。誰かを守るために使うのよ」

ヴェント「……うん」

ルミナ「わかってる。母さんこそ無理しないでよね」

エリシア「ふふ、言うようになったわね」


それからの日々は、過酷で、けれど温かかった。

朝は夜明けとともに走り、昼は魔法陣と格闘、夜は連携訓練。

倒れても、立ち上がっても、二人の足は止まらなかった。


ルミナ「ヴェント、魔力の流し方が雑すぎ。ほら、指の角度!」

ヴェント「細けぇなぁ、風は感覚なんだよ!」

ルミナ「理論ができてないと暴発するの!」

言い合いながらも、呼吸はどんどん合っていく。

風と光が交差するそのたびに、庭の花が小さく揺れた。


夜、焚き火のそばで休む二人を眺めながら、エリシアは静かに微笑んだ。

焔の向こう、遠い記憶がよみがえる。

――あの頃の自分たちも、同じように若かった。

賢者セレナは穏やかに笑い、剣聖アルガスは黙って木刀を握らせてくれた。

何度も倒れ、何度も起き上がった日々。

そのすべてが、いま目の前の二人と重なって見えた。


エリシア(カイ……あの子たちも、あなたのように強く生きていけるかしら)

呟いた声は、夜風に溶けて消えた。


――そして八年の月日が流れた。


ノルヴェル魔法学園の講堂。

卒業式の壇上に立つ学長が、朗々と告げる。

「ヴェント=アーデン君。剣術、魔法、体術、いずれも優秀。

 この国家上級魔法学園での最終成績は第2席、よく努力しました!」

拍手が湧き起こる。

ルミナは観覧席でそっとため息をついた。

(まったく……第2席。努力のわりに順位が足りないんだから)

壇上のヴェントは肩をすくめ、照れたように笑った。


式が終わると、彼は森へ向かった。

――あの日の、スライムドラゴンが眠っていた場所へ。

ルミナも黙ってついてくる。


ヴェント「いたな……まだいた!」

空を覆うような巨大なスライムドラゴンが現れる。

ヴェントの髪が風に揺れ、ルミナの杖が光を帯びた。


ヴェント「いくぞルミナ!」

ルミナ「合わせなさいよ!」


風が巻き上がり、光が奔る。

ヴェントは風を纏った剣で切り裂き、ルミナが再生を封じる光陣を展開する。


ヴェント「エアロブレード・連閃!」

ルミナ「プリズム・レイランス!」


轟音と閃光。森全体が揺れる。

スライムドラゴンは悲鳴のような咆哮を上げ、溶けるように消えていった。

静寂の中で、二人の息が重なった。


ヴェント「……やった、倒したぞ!」

ルミナ「ふぅ……今度こそ終わりね」

笑顔がこぼれた。風が吹き抜け、葉の音が祝福のように響いた。


――その夜

ヴェントは剣を腰に、旅支度を整えていた。

エリシア「もう行くのね」

ヴェント「約束しただろ? あの竜を倒したら冒険者になるって」

エリシアは少しだけ寂しそうに笑い、引き出しから黒いペンダントを取り出す。

エリシア「これは大事なお守り。きっとあなたを守ってくれるわ」

ヴェント「……ありがとう、母さん」


エリシア「二人とも、無茶しちゃだめよ? いつでも帰ってきてね」

ヴェント「二人?」

隣に立つルミナが、杖を肩に担いで不敵に笑う。

ルミナ「私も行くに決まってるでしょ、バカヴェント」

ヴェント「はぁ!? 勝手に決めんなよ!」

ルミナ「黙って。アンタ一人じゃ三日で野垂れ死にするんだから」

エリシア「ふふ……ほんと、あなたたち、カイと私そっくりね」


二人は顔を見合わせて笑った。

風がそよぎ、どこか遠くで誰かの声が聞こえた気がした。


――行け、ヴェント。風はもうお前の背にある。


ヴェント「行こう、ルミナ」

ルミナ「うん!」


朝の光を背に、二人は歩き出す。

その背中に吹いた風は、確かにカイの残した“風の意志”だった。

(^^)/

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