旅立ちの風
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ノルヴェルの空は雲ひとつなく澄みきっていた。
スライムドラゴンを退けたあの日から、エリシアは家の庭を訓練場に変え、
ヴェントとルミナに新たな修行を課していた。
エリシア「さぁ、今日からは本格的に始めます。覚悟はいい?」
ヴェント「もちろん! あのスライム、次は一人で倒す!」
ルミナ「アンタ一人じゃ無理。だから私が見ててあげるの」
ヴェント「うるせぇ、監視かよ!」
エリシアは苦笑しながら、二人の頭にそっと手を置いた。
エリシア「力はね、競うためじゃないの。誰かを守るために使うのよ」
ヴェント「……うん」
ルミナ「わかってる。母さんこそ無理しないでよね」
エリシア「ふふ、言うようになったわね」
それからの日々は、過酷で、けれど温かかった。
朝は夜明けとともに走り、昼は魔法陣と格闘、夜は連携訓練。
倒れても、立ち上がっても、二人の足は止まらなかった。
ルミナ「ヴェント、魔力の流し方が雑すぎ。ほら、指の角度!」
ヴェント「細けぇなぁ、風は感覚なんだよ!」
ルミナ「理論ができてないと暴発するの!」
言い合いながらも、呼吸はどんどん合っていく。
風と光が交差するそのたびに、庭の花が小さく揺れた。
夜、焚き火のそばで休む二人を眺めながら、エリシアは静かに微笑んだ。
焔の向こう、遠い記憶がよみがえる。
――あの頃の自分たちも、同じように若かった。
賢者セレナは穏やかに笑い、剣聖アルガスは黙って木刀を握らせてくれた。
何度も倒れ、何度も起き上がった日々。
そのすべてが、いま目の前の二人と重なって見えた。
エリシア(カイ……あの子たちも、あなたのように強く生きていけるかしら)
呟いた声は、夜風に溶けて消えた。
――そして八年の月日が流れた。
ノルヴェル魔法学園の講堂。
卒業式の壇上に立つ学長が、朗々と告げる。
「ヴェント=アーデン君。剣術、魔法、体術、いずれも優秀。
この国家上級魔法学園での最終成績は第2席、よく努力しました!」
拍手が湧き起こる。
ルミナは観覧席でそっとため息をついた。
(まったく……第2席。努力のわりに順位が足りないんだから)
壇上のヴェントは肩をすくめ、照れたように笑った。
式が終わると、彼は森へ向かった。
――あの日の、スライムドラゴンが眠っていた場所へ。
ルミナも黙ってついてくる。
ヴェント「いたな……まだいた!」
空を覆うような巨大なスライムドラゴンが現れる。
ヴェントの髪が風に揺れ、ルミナの杖が光を帯びた。
ヴェント「いくぞルミナ!」
ルミナ「合わせなさいよ!」
風が巻き上がり、光が奔る。
ヴェントは風を纏った剣で切り裂き、ルミナが再生を封じる光陣を展開する。
ヴェント「エアロブレード・連閃!」
ルミナ「プリズム・レイランス!」
轟音と閃光。森全体が揺れる。
スライムドラゴンは悲鳴のような咆哮を上げ、溶けるように消えていった。
静寂の中で、二人の息が重なった。
ヴェント「……やった、倒したぞ!」
ルミナ「ふぅ……今度こそ終わりね」
笑顔がこぼれた。風が吹き抜け、葉の音が祝福のように響いた。
――その夜
ヴェントは剣を腰に、旅支度を整えていた。
エリシア「もう行くのね」
ヴェント「約束しただろ? あの竜を倒したら冒険者になるって」
エリシアは少しだけ寂しそうに笑い、引き出しから黒いペンダントを取り出す。
エリシア「これは大事なお守り。きっとあなたを守ってくれるわ」
ヴェント「……ありがとう、母さん」
エリシア「二人とも、無茶しちゃだめよ? いつでも帰ってきてね」
ヴェント「二人?」
隣に立つルミナが、杖を肩に担いで不敵に笑う。
ルミナ「私も行くに決まってるでしょ、バカヴェント」
ヴェント「はぁ!? 勝手に決めんなよ!」
ルミナ「黙って。アンタ一人じゃ三日で野垂れ死にするんだから」
エリシア「ふふ……ほんと、あなたたち、カイと私そっくりね」
二人は顔を見合わせて笑った。
風がそよぎ、どこか遠くで誰かの声が聞こえた気がした。
――行け、ヴェント。風はもうお前の背にある。
ヴェント「行こう、ルミナ」
ルミナ「うん!」
朝の光を背に、二人は歩き出す。
その背中に吹いた風は、確かにカイの残した“風の意志”だった。
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