北の女王が差し出すもの
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シュリーデ「へぇ……双子なんだ……」
鉄扇を軽く開き、シュリーデは感心したように息を吐いた。
その視線は好奇心と警戒が半分ずつ混じっている。
ルミナ「ってな感じで、母さんと……
アルガスさん、セレナさんが、私の師匠ってわけ」
肩をすくめるルミナの口調は軽いが、その裏には長い時間が滲んでいた。
シュリーデ「……なるほどね」
シュリーデは一度だけ、静かに目を閉じる。
シュリーデ「エリシアが“母”で、
剣聖アルガスと賢者セレナが師匠……」
シュリーデ「……なんて環境で育って、
よく“普通”でいられたわね」
ルミナ「普通かどうかは知らないけど」
アリア「普通ではありませんが.......」
セリナ「私から見ても……十分規格外ですよ」
ルミナ「ちょっと!」
シュリーデ「ふふ……」
ほんの一瞬、シュリーデの口元が緩む。
シュリーデ「……エリシアはね、
昔から“守る側”の人間だった」
シュリーデ「自分が傷つくことを、まるで気にしないで……
それでも誰かの前に立つ人」
シュリーデ「あなた達の話を聞いて、少し安心したわ」
ルミナ「……?」
シュリーデ「その子が遺したものが、ちゃんと生きてるってことがね」
その空気を断ち切るように、控えめなノック音が響く。
レット「失礼します、シュリーデ様」
扉の隙間から、先ほどとは打って変わって緊張した面持ちのレットが現れる。
シュリーデ「入りなさい」
レット「はっ」
一歩下がり、深く頭を下げる。
シュリーデ「レット、さっきの自分勝手な行動は不問にしてあげる」
レット「……!」
驚きと安堵が入り混じった表情で、レットは顔を上げる。
シュリーデ「その代わり――」
シュリーデは鉄扇の先で、静かにルミナを指した。
シュリーデ「この子の“護送”を、あなたに任せるわ」
ルミナ「……は?」
レット「……護送、ですか?」
シュリーデ「ええ」
シュリーデはソファから立ち上がり、ゆっくりと歩み寄る。
シュリーデ「この子達は南部へ向かう。
正規ルートでね」
シュリーデ「途中で余計な横槍が入らないよう、
あなたが前に立ちなさい」
レット「……ですが、私は……」
シュリーデ「不服?」
レット「い、いえ! 滅相もありません!」
即座に姿勢を正すレット。
シュリーデ「いい返事ね」
シュリーデ「それに――」
シュリーデはルミナへ視線を戻す。
シュリーデ「この子を無事に送り届けられたなら、
”アレ”をあげる」
レット「……っ!」
レットの喉が、ごくりと鳴る。
レット「……命に代えても、務めを果たします」
ルミナ「ちょっと待って、話が勝手に進んでない?」
シュリーデ「魔界ではよくあることよ」
アリア「……まぁ、今さらですね」
セリナ「安全に南へ行けるなら、ありがたい話です」
ルミナ「二人とも順応早すぎでしょ……」
シュリーデ「それにね」
シュリーデは、ふっと声を落とす。
シュリーデ「あなたが“カイの血縁”である以上、
無事に南部へ辿り着いてもらわないと……
困る人間が、何人もいるのよ」
ルミナ「……カイ、ね」
その名前を口にするたび、胸の奥がざわつく。
シュリーデ「今日はもう休みなさい」
シュリーデ「ゲストルームは好きに使っていいわ」
シュリーデ「明日、日が昇ったら出発よ」
ルミナ「……わかった」
アリア「ありがとうございます、シュリーデ様」
セリナ「ご配慮、感謝いたします」
シュリーデ「礼はいらないわ」
シュリーデ「これは“恩”じゃない。
未来への……投資よ」
4人が部屋を出ていく背中を見送りながら、
シュリーデは静かに鉄扇を閉じた。
シュリーデ(……エリシア)
シュリーデ(あなたの子供たちが、
今度は“境界”を越えようとしている)
シュリーデ(今度こそ……
世界は、間違えないといいのだけれど)
北の女王の瞳に映るのは、
まだ見ぬ“魔界と人間界の行く末”だった。
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