北の女王と、知られざる血縁
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ゼゼル「ぐ……ぐぅ……申し訳……ありません、シュリーデ様……」
床に崩れ落ちたゼゼルの身体から、黒い血が滲む。
先ほどまでの狂気は影を潜め、今はただ震えるだけの存在だった。
シュリーデ「今後は気を付けて頂戴ね……」
冷たいが、どこか慈悲すら感じさせる声音。
シュリーデは鉄扇を畳み、ゆっくりとゼゼルへ視線を落とした。
シュリーデ「テオ」
テオ「はい! シュリーデ様!」
シュリーデ「ゼゼルを連れて行って」
テオ「はい!」
テオはゼゼルの上半身と下半身をそれぞれ抱え、慌ただしく走り去っていく。
ルミナ(……あいつ、しゃべれたんだ……)
アリア(ずっと鳴き声しか出さないと思ってた……)
セリナ(やはりただの眷属ではありませんね……)
観客
場内に、遅れてどよめきが広がる。
シュリーデ「……ところで、あなた」
鉄扇の先端が、すっとこちらを向く。
指し示されたのは――ルミナだった。
ルミナ「は、はい……」
シュリーデ「あなた……カイの血縁ね? ここで何をしているの?」
ルミナ「……カイ? 誰かは知らないけど……
空間移動してこの町に着いたら捕まって、
脱出したいならこのゲームに参加しろって……」
思い出すだけで腹立たしそうに、言葉を区切る。
レット「!?」
レットはシュリーデの背後で、必死に身振り手振りを繰り返し、冷や汗をかく。
だがその動きは逆に目立っていた。
ルミナ「そいつに……」
ルミナははっきりと、レットを指差した。
レット「!?」
シュリーデ「レット……どういうこと?
侵入者の情報なんて、私には一切来てないけど?」
レット「も、申し訳ありません!
シュリーデ様のお手を煩わせるまでもないと思い、
独断で動きました!」
シュリーデ「結果、ゼゼルが暴走してルール違反。
あなた……何をやってるの?」
レット「申し訳ございません!!」
深く頭を下げ、床に額を叩きつけるレット。
シュリーデ「……まぁいいわ。レットの処罰は後で考えるとして……」
シュリーデは踵を返し、背を向ける。
シュリーデ「あなた達――ついてらっしゃい」
拒否する余地はなかった。
その場の空気そのものが、従えと命じているようだった。
3人はシュリーデに導かれ、カジノ上階の私室フロアへ案内された。
扉が閉じた瞬間、外の喧騒が嘘のように遠のく。
シュリーデ「まぁ、くつろいで」
柔らかく整えられたソファ、魔界産の照明が淡く灯る室内。
あまりに“上等な客間”に、3人は一瞬戸惑う。
セリナ「シュリーデ様……ありがとうございます」
シュリーデ「いいのよ。炎帝のお嬢ちゃん」
セリナ「……」
その呼び方に、一瞬だけセリナの目が揺れる。
アリア「私たちは……どうなるのでしょうか?」
ルミナ「今のところ敵意は見えないけど……
まぁ、敵意があったところで、逃げ切れる相手じゃないわよね」
シュリーデ「賢いのね。ほんとに……カイの血縁者?」
ルミナ「だからカイって人は知らないってば」
シュリーデ「母親から聞いてないの?」
ルミナ「母さんから? 母さんを……知ってるの?」
シュリーデ「………………」
一瞬、言葉を失ったようにシュリーデは視線を伏せる。
シュリーデ「……何にも知らないのね……」
そのまま、ちらりとだけセリナへ視線を向ける。
セリナはわずかに頷いた。
シュリーデ「ゴ、ゴホン……まぁ、いいわ」
話題を切り替えるように、鉄扇で口元を隠す。
シュリーデ「で? 何しにこんな北の果てに?」
セリナ「最北部に出てしまって……
とりあえず一番近くの街へと、空間移動で……」
シュリーデ「ちゃんと南部の正門から入れば、
レット達に絡まれることもなかったのにね」
セリナ「……以後、気を付けます」
シュリーデ「今夜はゲストルームを開けてあげるわ。
出発は明日以降になさい」
ルミナ「助かります……」
アリア「ありがとうございます」
シュリーデ「それと…………」
ふと、シュリーデの視線が柔らかくなる。
シュリーデ「エリシアのこと……聞かせてくれる?」
その名前が出た瞬間、ルミナの肩が小さく跳ねた。
ルミナ「………………えぇ」
短く、しかしはっきりと答えた。
その沈黙の向こうで、
魔界の女王と、知られざる“母”の因縁が、静かに動き出そうとしていた。
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