開戦
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すごろく会場は、魔界北部最大の賭博場の地下に広がる巨大な円形闘技場だった。赤黒い瘴気が薄く漂い、幾層にも連なる観客席には、角を生やした悪魔、翼を持つ魔族、ゾンビのように崩れた姿の者まで、無数の異形がぎっしりと詰めかけている。低いうなり声と期待に満ちた歓声が混ざり合い、空気そのものが震えていた。
レット「さぁさぁ、皆様お待たせいたしましたぁ!!」
高らかな声と共に、中央のステージにスポットライトのような魔光が落ちる。黒いマントを翻したレットが両腕を大きく広げ、観客を煽った。
ゼゼル「今宵のすごろく挑戦者はこの3名〜!」
テオ「バーッ!!」
間延びした叫びと同時に、別方向から魔光が三本走り、アリア、ルミナ、セリナの三人が浮かび上がるように照らされた。
レット「人間界から迷い込みし三名!剛腕の戦士アリア!凄腕の魔術師ルミナ!そして呪術の天才セリナァ!!」
観客席が一斉にどよめく。
悪魔A「人間だとぉ!?」
悪魔B「ひゃはは!生きて帰れると思うなよ!」
悪魔C「賭け金はどっちが先に死ぬかだ!」
アリアは歯を食いしばり、低く息を吐いた。
アリア「……完全に見世物ですね。逃げ場もなさそうです」
ルミナは会場全体をぐるりと見回し、乾いた笑みを浮かべる。
ルミナ「こんな大舞台で……すごろく? 魔界って狂ってるわね」
セリナは二人の表情を素早く確認しながら、わずかに指先に呪力を集める。
セリナ(まずいですね……ここは完全に向こうのフィールド。しかもさっきまで“沈黙”がかかっていて、二人と相談もできなかった……)
レット「実況は任せたぜ!デンチャン!」
天井付近の闇がうねり、小型のゾンビ悪魔が巨大なコウモリにまたがった姿で現れる。腐りかけた羽ばたきの音と共に、空中を旋回しながら、マイク代わりの魔道具を掲げた。
デンチャン「お任せあれぇ!!てめぇら!いくぜぇ!!」
デンチャンはコウモリの背から身を乗り出し、闘技場中央の魔法陣を指差した。
デンチャン「死のすごろく――沈没戦!!スタートだぁぁ!!」
突如、セリナの喉にかかっていた圧迫が消える。
セリナ「……ぷはっ。やっと喋れるようになりました……」
ルミナ「え? ちょっと待って! 始まったの!? ルール説明なしで!?」
アリア「魔界では、こういう遊戯は説明不要ということなんでしょうか……」
セリナ「とにかく、まずは相手の出方を見ましょう。焦れば負けです」
レットは楽しそうにサイコロを二つ手に取った。
レット「よっしゃ!3ターン以内に殺してやるぜ!ダブル!」
ルミナ「ダブル?」
セリナ「サイコロを二つ振れるんです。出目が良ければ一気に距離を取れます。ただし……」
デンチャン「出目はぁ……6と2!!トータル8だぁ!!」
レットの駒が一瞬で8マス先へ跳ねる。
レット「まずまずだな。さぁ、そっちの番だぜ?」
セリナ「このターンはこちらも様子見で良さそうですね。無理にダブルは危険です」
アリア「では、私が振ります」
アリアが一つだけサイコロを転がす。黒い水晶のようなサイコロが転がり、静止した。
デンチャン「出目はぁ……5!!」
次の瞬間、アリアの駒の位置から、レットの姿が掻き消えた。
アリア「……え?」
巨大な魔力モニターが空中に展開され、そこに映し出されたのは、灼熱の砂漠。砂嵐の中に立つレットの姿だった。
ルミナ「なにこれ……転送された?」
デンチャン「コマの差は3ぃ!!3の障害はぁ!!地竜サンドワーム!!」
砂の中から、巨大な地竜が四体、音を立てて躍り出る。
レット「サンドワームか……ちょっとダルいな」
巨剣が一閃され、一体の胴体が真っ二つに裂ける。他の三体も立て続けに倒れていく。
セリナ「このすごろくはターン制です。基本的に“先頭のプレイヤー”が戦闘を行う仕組み……」
ルミナ「さっきのダブルって、前に進むだけで損じゃない?」
セリナ「いえ、あります。さっきデンチャンが“コマの差”と言いましたね。あれは差が大きいほど、飛ばされるエリアのモンスターが凶悪になります」
アリア「……つまり、差をつけすぎるのも危険だと」
セリナ「えぇ。そして、もし誰かがゴールした場合、その時点の“コマの差×2倍”の障害を、後ろのプレイヤーが一気に受けることになります」
ルミナ「3であの地竜でしょ……。5とか6だったら……」
セリナ「魔神獣クラスが出ると考えていいでしょう」
アリア「……考えたくもありませんね」
全身に細かな裂傷を負ったレットが、再び盤面へと戻ってくる。
レット「お嬢さんたち、作戦会議は終わったかい?」
ゼゼル「次は私がいかせてもらおうかしら〜。ほいっ♪」
デンチャン「出目はぁ……1!!」
ゼゼル「……ダブルにしておけばよかったわね」
――次の瞬間。
ルミナ「今、向こうは9……私たちは4以下に抑えたいわね……」
アリア「慎重にいきましょう。セリナ、どうぞ」
セリナ「……では」
デンチャン「出目はぁ……あぁっと!6ぅ!!」
ルミナ「……あ」
ゼゼル「あら〜、追い抜かれちゃった〜」
デンチャン「コマの差は2ぃ!!2の障害はぁ!!ケルベロスだぁ!!」
視界が反転し、次の瞬間、セリナは燃える三つ首の魔獣の前に投げ出されていた。
セリナ「……ケルベロスですか。これなら……まだ、なんとかなりそうですね……」
燃え盛る咆哮が空間を震わせる。
――その頃。
ヴェント「悪魔を襲う……魔獣?」
焚き火の側で、村長が深刻そうに頷いた。
村長「そうなのです。本来、魔獣は悪魔と友好的な存在なのですが……村の西の森に、白く輝く魔獣が現れ、悪魔ばかりを狙って襲うのです」
シルフィナ「……白い、魔獣……」
ヴェント「よっしゃ!飯のお礼に、俺らが退治してきてやるよ!」
村人「おぉ……ありがたい!」
ヴェント「そうと決まれば明日の朝出発だな!な、シルフィナ!」
シルフィナ「うん。白色っていうのが少し気になるけど……見てみなきゃ何も分からないしね」
ヴェントは焚き火の炎を見つめながら、拳を握り締める。
その頃、すごろく会場では、三人の運命を賭けた“沈没戦”が、静かに、しかし確実に死へと転がり始めていた。
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