――スライムドラゴン、再び――
(^^)/
教師「いやぁ、素晴らしいエキシビションでしたね! 午後からは勇者アルディス様による“勇者学”の講義になります!」
ヴェント「ふぅ……すげぇ一日だったな」
ルミナ「じゃ、私は帰るわね」
ヴェント「え?」
ルミナ「“え?”じゃないわよ。私は生徒じゃなくて講師なの。――明日から、あんたの魔術学の講師はこの私よ」
ヴェント「なっ……!?」
ルミナ「しっかり復習しときなさいよ、弟くん♪」
ヴェント(……最悪だ……)
夜。
ヴェントの部屋。机の上には風の魔法陣が描かれたノートが広がっている。
ヴェント(今日はかなりいい感じに魔法を使えたな……)
ヴェント(週末にでもまたトカゲ狩りに行くかな)
翌日、学園。
ルミナ「なーに?魔力の流し方、まだ理解してないの?」
ヴェント「わかってるよ!でも風の流れが……!」
ルミナ「言い訳しない!“魔術学の基本は呼吸と集中”って教科書の一番最初に書いてあるでしょ!」
ヴェント「うるさいなぁ……」
ルミナ「何か言った!?」
ヴェント「言ってませーん!!」
ルミナ「いい? 風は気まぐれだけど、制御できれば誰よりも早く、誰よりも遠くへ届く力になるの。あなたも風みたいに、もう少し頭を冷やしなさい!」
ヴェント「……はいはい」
生徒たち「アーデン先生って鬼教官だな」「弟いびりがすげぇ」「でも教え方は完璧らしいぞ」
ヴェント(……面白がりやがって……)
ーー週末。
ヴェント「待ちに待った週末だ!」
エリシア「気を付けるのよー!」
ルミナ「アンタ、ちゃんと宿題しなさいよねー!」
ヴェント「うっせーな!行ってきまーす!」
森。
薄暗い林の中を走る足音。
ヴェント「このあたりにトカゲがいるはずだけど……」
風で草木を払うと、2メートルはある緑のトカゲと、
ゼリーのように透けた“スライムでできたトカゲ”が姿を現す。
ヴェント「なんだあれ……? 初めて見るな」
剣を構え、笑う。
ヴェント「まぁいい、どっちにしろ狩りだ! てやあああ!」
風の斬撃が走り、トカゲを一刀両断する。
ヴェント「よし! 次は……!」
踵を返してスライムトカゲにも斬撃を放つ。
スパッ、と切れたかに見えた体は、ぬるりと再生を始める。
ヴェント「……は?」
再び切る。再生。
切る。再生。
そして、尾の一撃を受け吹き飛ぶ。
ヴェント「いってぇぇぇ! なんだよこいつ!!」
さらに背後から毒液が飛び、ヴェントの頬をかすめた。
ヴェント「うわああああああ!!!」
逃げる風が森を切り裂き、枝葉を舞い上げた。
自宅。
ヴェント「ただいまぁ~……」
エリシア「おかえ――って、どうしたのそのケガ!? また悪魔!?」
ルミナ「悪魔なんてそうそう出ないでしょ。今は天使教が魔界の門を封じてるんでしょ?……って、ほんとにボロボロじゃない。大丈夫?」
エリシア「《シャインヒーリング》……とりあえずこれでよし。――で?何があったの?」
ヴェント「森の中でトカゲ型のスライムと出くわして……戦ってみたんだけど、あんなの見たの初めてで……」
エリシア「トカゲ……」
彼女の瞳に、一瞬、過去の光が宿る。
エリシア「................................あ」
ヴェント「な、なにか知ってるの?」
エリシア「うーん……ありえるかもね。もう12年くらいたってるし。当時はドラゴンだったんだけど――お母さんも戦ったことがあるのよ」
ヴェント「!?」
エリシア「でもね、あの時はナデシコおばさんとエファレントさんの娘――ヒマワリちゃんが焼き尽くしたはずなんだけど……。時間をかけて復活したのかもしれないわね。ふふ」
ルミナ「笑い事じゃないって! ヴェントが負ける相手なら、普通の人じゃ危険よ!」
その時――。
警報が鳴り響いた。
市民A「モンスターだー! モンスターが出たぞー!」
市民B「竜型スライムだー!!」
エリシア「あら……やっぱり、ヴェントの魔力で成長しちゃったみたいね」
ヴェント「……なんてタイミングだよ」
エリシア「二人とも、ここにいなさい。お母さんが行ってくる」
ルミナ「待って! そのヒマワリさんって人が勝てた相手なんでしょ? 私が討伐してくる!」
ヴェント「俺も行く! 負けっぱなしなんて性に合わねぇ!」
エリシア「でも、DCが倒したときは十八歳だったし、あの子は特別だったのよ?」
ルミナ「バカにしないで! 私だってできるわ!」
浮遊魔法を発動し、ルミナが空へ舞い上がる。
ヴェント「おい! 待てよルミナ!」
走り出すヴェント。
エリシア「もう……誰に似たのよ、ほんとに……!」
市街中心部。
暴れるスライムドラゴン。家屋を砕き、路地を舐めるように這う。
ルミナ「《多重魔弾・七星陣!》!」
光の弾が降り注ぐが、スライムの体は吸収してしまう。
ルミナ「くっ……魔力まで喰うの!?」
ヴェント「《ウィンドスラッシュ》!」
斬撃も効かず、尾の一撃で吹き飛ばされる。
ルミナ「ヴェント!!」
ヴェント「ぐっ……まだ、だ……!」
その瞬間、街全体が光に包まれた。
上空から降り注ぐ、やわらかな光。
エリシア「《ホーリーレイ・サークル》!」
スライムドラゴンの体が溶けるように弱体化し、
動きを止める。
エリシアが片手を掲げ、光の鎖で縛り上げる。
エリシア「ふぅ……捕獲完了。あなたたち、よく頑張ったわ」
ルミナ「母さん……」
ヴェント「くっそ、俺たちじゃ全然歯が立たなかった……」
エリシア「悔しい? ――なら、このスライムドラゴンを倒せるように修行しなさい。それがあなたたちの次の目標よ」
夜。
家の灯が静かに揺れている。
ヴェント「母さん、俺……冒険者になるよ」
エリシア「どうしたの、突然?」
ヴェント「母さんの戦い方を見て、わかったんだ。――学園じゃ俺は強くなれない」
ルミナ「まぁ、授業の内容じゃ限界があるしね」
ヴェント「これから毎週あのスライムと戦って、いつか一人で倒せるようになったら……その時、俺は街を出る」
風がカーテンを揺らす。
エリシアは静かに目を伏せ、やさしく微笑んだ。
エリシア「……そう。なら、まずは生きて帰る練習から始めましょうか」
ルミナ「ふふ、言ったわね、弟くん。置いてかれないように頑張りなさいよ」
ヴェント「お前こそな、妹」
エリシア「ふふ……ほんと、そっくりね」
夜風が三人の笑い声を運んでいった。
それは、確かに新しい旅の始まりの音だった。
(^^)/




