門の前の決闘と、魔界への第一歩
(^^)/
ーーー朝
ヴェント「ふんっ!……ふんっ!……よし、もう百回!」
まだ夜気が残る冷たい空気の中、ヴェントは一人で素振りを繰り返していた。
剣が振るたび、霜のついた草が細かく震え、白い息が空へと散っていく。
アリア「……あ、ヴェント。早いね。もう起きてたの?」
静かに歩いてきたアリアが、寝起きとは思えない整った姿で立っていた。
ヴェント「あぁ、アリア。おはよう。なんか……落ち着かなくてさ。ほら、明日もう出発だからよ」
アリア「……魔界、だもんね。私はまだ実感ないけど、童話の中の世界みたいな気がしちゃう」
ヴェント「だけど行くしかねぇ。行くからには気合いは入れておかねぇとな!」
アリア「安心して。ヴェントに何があっても、私が守るから」
ヴェント「な、何言ってんだよ! 今は俺の方が強いし!」
アリア「ち、ちがっ……そ、そういう意味じゃないし! ていうか、まだ私の方が強いわよ!」
ヴェント「はぁ!? 言ったな! 証明してやるよ!」
アリア「望むところよ!」
二人は同時に踏み込み、剣と剣が空気を裂く。
激しい衝突音が、朝靄の森全体に響き渡った。
ーーー
ルミナ「……朝から元気ね、あの二人」
セリナと一緒に村の縁に立ち、戦いの音を耳にしながらため息をつく。
セリナ「止めなくていいんですか?」
ルミナ「いいのよ、ああ見えても二人とも限度はわかってるわ。すぐ終わる」
ーーー
ヴェント「っだ~、また負けた~!」
雪の上に大の字で倒れるヴェント。
アリア「ヴェントは魔力を込めた瞬間、攻撃の軌道が丸見えなんだよ。もっと魔力を制御しなきゃ」
ヴェント「お前以外には通用してるんだよ!」
アリア「ふふん」
ーーー
アルガス「さて……明日には出発だが、一つ確認しておかねばならんな」
剣聖アルガスが、焚き火横で腕を組む。灰色の髭に光が反射して揺れる。
セレナ「アリア、荷物の中の“アレ”……どうするつもりなんだい?」
アリア「う……」
ヴェント「まだ持ってたのかよ!」
アリア「な、なんとなく処分できなくて……」
アルガス「まぁ部位を付ければ力は手に入る。危険だが、もしもの時の切り札にもなる。セレナ、鑑定してやれ」
セレナ「はいはい。アリア、出しな」
アリアがカバンからそっと取り出したのは、黒紫の靄を纏う“悪魔の右手”。
部屋の空気がひやりと変わる。
セレナ「……ふぅ。これ、よく生きてたねぇ。ネメシスで出くわしたんだって?」
アリア「はい。でも本体は弱かったですよ?」
セレナ「じゃあその悪魔も拾っただけなんだろうね。この右手の能力は──“死者使役”。ゾンビ使いの魔手さ」
ルミナ「ヒッ……い、いやよそんなの!」
ヴェント「いいじゃねぇかルミナ、付けちまえよ!」
ルミナ「絶ッッ対いや!!」
シルフィナ「……もし万が一の時なら……私が付けるよ」
ヴェント「え、シルフィナ?」
セレナ「師匠ならまぁ即死はしないだろうしね〜」
シルフィナ「その“生きてればなんとかなる”理論やめてくれない!?」
アルガス「まぁ、とにかく……死ぬな。無理だと思ったら引き返せ。それだけは守れ」
ヴェント「あいよ!」
セレナ「さ、夕飯にしな!」
ーーー夜
ご飯を囲んで、7人で最後の穏やかな夜を過ごす。
話題はくだらない話から、未来のことまで。
笑い声が絶えず、夜空には雪が舞っていた。
ーーー翌朝
ルミナ「本当にお世話になりました! 行ってきまーす!」
ヴェント「ありがとなー! 師匠ー!!」
シルフィナ「また来るよ、セレナ、アルガス。気が向いたらね」
アリア「本当にありがとうございました」
セリナ「恩に着ます。では、失礼します」
セレナ「ケガするんじゃないよー!」
アルガス「元気でな!」
家の前で手を振り続ける老英雄たち。
その姿を背に、5人は北の雪道へと歩き出した。
ーーー
セレナ「……何度見送っても慣れないねぇ」
小さく呟き、涙を指で拭う。
アルガス「大丈夫だ。あいつらは強い。部位なしであれだ。そうそう死なん」
セレナ「……ほんとにね」
ーーー
ヴェント「まっすぐ行けば半日で門に着くって言ってたけど、本当か?」
ルミナ「魔界の門なんて、全然感じないんだけど」
シルフィナ「セリナ、まだ結界は天使教が管理してるの?」
セリナ「管理といっても常駐してるわけじゃないですけど……天使教が封印術をかけ続けてますね。悪魔が外に出ないように」
アリア「なるほど……天使教の力ですか」
ライゼル「また会ったな!! 悪魔憑きィ!!」
遠くの丘から、あの甲高い声が響く。
ヴェント「この声……またタイザルか!?」
ライゼル「ライゼルだ!! ライゼル=アルテイン!! 勇者アルディスの加護を受けし──」
ルミナ「はいはい勇者ね勇者ね。で? 今回も何? 脳みそ凍ってんの?」
ライゼル「ぐっ……! い、いいか! ヴェント! 今度こそ決闘だ!!」
ヴェント「俺あんな子供と戦いたくねぇよ〜」
ライゼル「子供じゃない!! 19だ!!」
ヴェント「同い年なのか!? じゃあ遠慮なく行くか!」
アリア「ヴェント、やめたほうが……」
ヴェント「すぐ終わらせるよ」
ーーー
ノル「──はじめ」
ライゼル「ギャラクティカソード! エンドレスワルツ!!」
舞うような動きから繰り出される斬撃。
光の剣が空を裂き、ヴェントは吹き飛ばされた。
アリア「ヴェント!!」
ヴェント「な、なんだこのパワー!?」
ライゼルの背に、美しい白銀の翼が広がる。
ヴェント「あれは……天使の部位か!」
シルフィナ「そうね。あれは危険よ」
ライゼル「フォースオブミラー!!」
ライゼルが二人に分裂する。しかも実体つき。
ライゼル「デュアルシャイニングブレード!!」
四方向から光刃が襲う。
ヴェント「魔力解放──40%──!」
短い呻きとともに、ヴェントの身体から黒い風が噴き上がる。
ヴェント『ヒャッ!!』
一瞬でライゼル二人を吹き飛ばした。
ノル「……そこまで。降参だ」
ライゼル「お、覚えてろーーー!!」
ルミナ「なんで敵キャラみたいな逃げ方なのよ!」
ノル「強くなったな。……“あれ”を多用するなよ。染まるな」
意味深な目線をヴェントに向け、勇者パーティは去っていった。
ーーー
ヴェント「ここが……門?」
雪の森の中央、空気が歪んでいる場所。
何もないのに、そこだけ世界が揺れているように見えた。
セリナ「正確には結界ですね。大悪魔級が外に出られないように」
ルミナ「私たちは通れるの?」
セリナ「はい、人間とエルフは問題ありません。……では、手をつないでください。空間魔法で散らされます」
ヴェント「え、散ら……?」
質問の途中で、ヴェントだけ勝手に半身が結界に吸い込まれ始める。
ヴェント「ちょ、ちょっと待てぇぇぇぇぇぇ!!」
シルフィナ「もうっ!」
シルフィナが咄嗟にヴェントの腕を掴み、一緒に結界へ吸い込まれていく。
セリナ「私たちも急ぎましょう!」
ルミナ「わかったわ!」
アリア「い、いきます!」
5人は二組に分かれ、揺れる結界の向こう側──
魔界へと消えていった。
(^^)/




