闇の胎動と出立前夜
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夕陽が雪原の端へ消えていくころ、アルガスの小屋にはかすかな湯気と薪の匂いが漂っていた。
居間の真ん中では、セレナが薬草茶を配り、窓際に立つアルガスの横顔にはわずかな疲労と誇りが浮かんでいる。
セレナ「アルガス、ヴェント達はどうだい?」
アルガス「明日でひと段落つきそうだ。そっちはどうだ?」
セレナ「ルミナはもう“完成”してるよ。吸魔の杖も完璧に扱えてる。……じゃあ、明後日以降の話をしようかね」
ルミナが湯気のたつマグカップを持ちながら眉を上げた。
ルミナ「明日でヴェント達の修行が終わるのね?
じゃあ、一日あけて……明々後日の出発にしようかしら」
シルフィナ「うん。一日くらいは休養してもいい。魔界に入る前だしね」
アリア「助かるよ……筋肉痛が三日続いててね……」
セリナ「では明日は最終調整ですね。頑張ってくださいね」
ヴェント「ふぇ〜い……」
コタツにもぐりながら返事をするヴェントに、その場の全員が半笑いになった。
翌朝。
空気が凛と張り詰め、雪が光を跳ね返す。
アルガス「では――総仕上げといくか。……と言っても、別に何かをやらせるわけじゃない」
ヴェント「え?
てことは今日、休み? イエーーーイ!」
アルガス「バカモン。
“総仕上げ”だと言っただろう。今日やることは一つ――
魔力の全開放だ」
空気が凍りつく。
アリア「なっ!?
剣聖様、それは……あれほど“禁止”と言っていたのでは?」
アルガス「俺が禁じたのは“暴走する全開放”だ。
解放そのものを禁じた覚えはない」
アリア(確かに……暴走さえしなければ、戦力は何倍にも跳ね上がる……)
アリア「ヴェント……やってみよう。あなたなら、きっと制御できる」
ヴェント「お、お前まで……。
いや〜怖えぇなぁ……」
アルガス「さっさとやれ。俺とアリアで止めてやる」
ヴェント「……わかったよ。
いくぜ――はああああああああああッ!!」
地面がひび割れ、周囲の雪が爆風で舞い上がる。
ヴェントの魔力が一気に跳ね上がり、風が彼を中心に渦を巻く。
アルガス「アリア、少し離れていろ」
アリア「ですが――」
アルガス「いいからだ。“解放――天照の光剣”」
光が弾けた。
アルガスの“ないはず”の左腕が光の粒子から再構成され、両手に神々しい光剣が宿る。
アリア「なんて……美しい……」
ヴェント「アアアアア―――ッ!!」
唐突に、魔力の波形が変わる。
ヴェント「……!? あ――が……ッ」
アルガス「恐れるな!そのまま一気に解放しろ!!」
ヴェント「はあっ!!」
刹那、空気が黒く濁った。
ヴェント「……『……』……」
瞳の色が変わり、瞳孔が細く縦に裂け、
皮膚は濃い灰色へと変色する。
アリア「ひっ……!」
ヴェント『ニパッ』
異様な笑み。
“ヴェントでありながら、ヴェントではない存在”。
アルガス「ヴェント、意識はあるか?」
ヴェント『アアア……ダイジョウ「逃げてくれ」ブダヨ、オシショウサマ……』
アリア「意識、ある……!?すごい……!」
アルガス「ふん。親に比べれば、まだマシだな」
アリア「えっ? いま何て――」
ヴェント『ララララァァァアアアアア!!』
獣のような叫びと共に、ヴェントがアルガスへ斬りかかる。
アルガス「切込みも甘い。遅い。重さだけの剣だ」
軽くいなされ、風圧が雪山を抉る。
アリア(すごい……剣聖様もそうだけど、ヴェントの一撃が“今までの比じゃない”……あんなの当たったら命がいくつあっても足りない……)
アルガス「早く起きろ!死ぬぞ!ヴェント!」
ヴェント『アミャミャミャ……「切らないでぇぇぇ」ミャミャ……』
アルガス「仕方ない。“奥義――二重抜剣”」
地鳴りのような衝撃とともに砂煙が舞い上がる。
アリア「ヴェント!!」
煙が晴れたとき、ヴェントは仰向けに倒れていた。
アルガス「気分はどうだ? バカ弟子」
ヴェント「…………最高だよ。鬼師匠」
夜。
暖炉の火が揺れ、全員が食卓を囲む。
ヴェント「……ってわけで、闇の力を“ちょっとだけ”制御できたんだよな〜」
ルミナ「闇の力を制御して肌の色が変わるって、普通に意味わかんないんだけど?」
アリア「でも、目は戻ってよかったね」
セリナ(……やっぱり似てますね)
セレナ(これはもう完全に……似すぎてるわ)
アルガス(瓜二つだな……体格だけはヴェントの方が上だが)
シルフィナ「ワイルドでかっこよかったよ、ヴェント」
食後、アルガスが真剣な表情で立ち上がった。
アルガス「明日は休め。……その翌日、出発するといい」
セレナ「そうだね。今日はゆっくりお休み」
アルガス「それと――一つ、言っておくことがある」
場の空気が一瞬張りつめる。
ルミナ「急に改まると怖いんだけど?」
アルガス「……お前たちの母、エリシアが言っていない以上、すべては語れん。
だが――
お前たちの父の話だ」
ヴェント「父さん……!知ってるのか!?」
ルミナ「父は“死んだ”って聞いてたけど……?」
アルガス「……生きておる。魔界でな」
全員の息が止まった。
ルミナ「……確かに、この世界にはもういない……そういう言いかただったけど……」
セレナ「そこでね、もし父親と出くわしても“戦闘にならないよう”に――
これを渡しておくよ」
セレナは小箱を開き、中から三つの腕輪を取り出した。
淡い光を帯びた魔力封印の腕輪。
セレナ「ルミナ、ヴェント、アリアの分だよ」
シルフィナ「え?私のは?」
セレナ「ごめんね……3つしかないの。
それに師匠なら“即殺され”はしないだろ?」
シルフィナ「生きてれば何とかなる理論やめてくれる……?」
アルガス「とにかく――死ぬな。
無理そうなら戻ってこい」
ヴェント「……なんか急な話でこんがらがってるけど、
わかったよ!」
セレナ「今夜と明日はゆっくりしな。……命の洗濯だよ」
暖炉の火が、パチパチと音を立てた。
出発前夜の静けさが、胸にしみわたっていく。
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