剣聖の地獄、賢者の災禍
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冷え込む早朝。
山小屋の裏――雪原を踏み固めたような広場に、湿った空気が張り詰めていた。
アルガス「……準備はいいか?」
たった一言で、空気が変わる。
剣聖アルガスの目は、刃そのものだった。
ヴェント「あれ? ジャンと俺だけなの?」
アリア「えっと……そうみたいだね?」
アルガス「当然だ。前衛はお前たち二人であろう」
ヴェント「あ、そっか。剣聖の修行だし……よし、頑張るぞジャン!」
アリア「うん!(ヴェントと二人きり……来たッ!!)」
アルガスは隻腕の袖をひらりと揺らし、じっと二人の魔力を見る。
アルガス「遠距離の魔力斬撃も、型はもう出来ておる。初日から基礎は不要だな……よし」
す、と笑った。
アルガス「今日は“模擬戦”といこうじゃないか」
ヴェント・アリア「「!?」」
老人とは思えぬ圧。
風の流れが止まり、雪が宙で凍りついたかのような錯覚を覚える。
アルガス「二人の戦闘力、身体の使い方、癖……すべて見たい。まずは――一本、入れてみろ」
ヴェント「なぁジャン……今日、俺たち死ぬんじゃねぇか?」
アリア「うん……これは……たぶん死ぬね」
アルガス「心配するな、まだ“3割”じゃ」
ヴェント「ジャンさん……3割だってよ。あれで」
アリア「ヴェント……大好きだよ。私の遺骨は海に撒いてね……」
アルガス「喋っとらんで構えんか……いくぞ!!」
ヴェント「うおおおおおお!! やってやる!」
アリア「援護は任せて!」
刹那、三つの金属が交わり――
朝の静寂が、爆発音のような衝突音で吹き飛んだ。
キィィィン!! ガガッ!! ズンッ!!
雪が弾け飛び、三人の姿が一瞬で消える。
山小屋の中にも、その衝撃音が響いていた。
セリナ「始まりましたね……」
セレナ「やれやれ、あの人ったら。ヴェントとアリアを殺す気かねぇ……」
シルフィナ「剣聖の“本気”って、やっぱり……」
ルミナ「……ねぇ、私の修行って何するの?」
セレナ「うん? 簡単だよ。
――瘴気を孕んだ魔物を召喚するから、それを倒すんだよ」
セリナ「えっ、それ……一人でですか?」
セレナ「そうさ。セリナとシルフィナは瘴気耐性あるだろ? 問題ないよ」
ルミナ「じゃあ、さっさと召喚して?」
セレナ「呑み込みが早いねぇ! じゃあ……いくよ!」
セレナの背後に、真っ黒な魔法陣が広がる。
床板が軋み、空気が震える。
ルミナ「……待って、ちょっと待って。やばい術式展開してない?」
セレナ「ルミナ! 死ぬんじゃないよ!!」
ルミナ「だから段階踏んで!? ねぇ!!?」
魔法陣が天井まで伸び上がり、闇が渦巻き――
セレナ「“大厄災召喚――黒蛇”!!」
轟音と共に、部屋いっぱいの巨大な影が蠢いた。
天井を突き破りそうな黒い蛇。
瘴気が波のように吹き出し、床を這う。
黒蛇「……グルゥ……ギャアアアアアア!!!」
ルミナ「絶ッ対この規模、初日じゃないでしょ!?!?」
しかし――ルミナの瞳は笑っていた。
ルミナ「まぁいいわ……面白くなってきたじゃない……!」
一方その頃。
キィィィィィン!!!
ズガァァァァン!!!
ガガッ!! ガガッ!! ギィィィン!!!
外での衝突音は、まるで戦場そのもの。
セリナ「……これ、私たちの修行より危険なんじゃ……?」
シルフィナ「うん。気の毒になってくるレベル……」
セレナ「大丈夫大丈夫、あの二人はまだ死なないよ。多分ね」
セリナ「“多分”って言いました!?」
雪の中――三つの影が交錯していた。
アルガス「どうした!! その程度か!!」
ヴェント「化け物じじぃ!! 強すぎだろ!!」
アリア「この速度……目で追えない……でも!」
アルガス「ほう、その手の内を――見抜くか」
アリアの瞳が青く光る。
アリア「“見盗り”……!」
剣聖の一挙手一投足を、瞬時に模倣していく。
だが――
アルガス「甘いわい!!」
ドンッ!!!
たった一撃の衝撃だけで、ヴェントとアリアは雪に埋まりかけた。
ヴェント「ぐはっ!!」
アリア「っ……すご……!! これが剣聖……!!」
それでも――
倒れることなく剣を構える二人を見て、アルガスは少しだけ口角を上げた。
アルガス「よし……悪くない。では、次は“4割”じゃ」
ヴェント「まじで3割だったのかよ!!」
アリア「やばい、楽しい……!!」
ヴェント「ジャン!?いけるか!!?」
アリア「うん!(ヴェントと二人で死線を越えるなんて……最高!!)」
剣聖の“地獄の修行”はまだ始まったばかりだった。
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