北の城塞都市ノルデンベルク
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雪を割る風が頬を刺す。
道の先、霧の向こうに見えてきたのは、灰色の石壁で囲まれた巨大な都市。
数百の塔が並び立ち、夜明けの光に反射して銀のように光る。
――北の守護都市、ノルデンベルク。
氷雪と戦乱の境にそびえる最後の人間領だ。
セリナ「やっと着きましたね~」
ヴェント「濃厚な2日間だったな!」
セリナ「変な言い方しないでください! ヴェントさんがモンスタートラップ踏みまくったからですよ!」
ルミナ「ほんと、数えたら十二回よ。しかも罠の八割が“初見でわかるやつ”だったわ」
ヴェント「だってさぁ、石ころの下に爆炎符置くとか反則じゃない?」
アリア「普通、気配で気づくと思うけどね……ヴェント、探知能力の訓練を少ししたほうがいいですよ」
シルフィナ「みんな責めすぎ。……ヨシヨシ、ヴェントがんばったね」
ヴェント「うえーん、怖かったよー!」
セリナ「そこ! 子どもみたいに泣かないの!」
石畳の街道には馬車と行商人の列が続き、門前では冒険者たちが検問を受けていた。
行き交う人々の装備は分厚く、全員が何かしらの戦士。
ノルデンベルクは“前線都市”と呼ばれるだけあって、街そのものが要塞のような威圧感を放っている。
ヴェント「よし! 気を取り直していこう!」
ルミナ「切り替え早っ……まぁいいけど」
シルフィナ「もうすぐ雪が強くなるし、宿を先に探した方がいいかも」
セリナ「はいはい、わかってます。ギルドで通行証も発行しないとですしね」
アリア「それに、ノルデンベルクの食堂は美味しいんですよ。スパイス入りの獣肉シチューが絶品で」
ヴェント「うおー、それ食べたい!」
ルミナ「……あなたってほんと現金ね」
和やかな空気の中――
突然、鋭い声が響いた。
ライゼル「待っていたぞ、悪魔憑き!!」
ヴェント「……お前は……レイチェル?」
ライゼル「ライゼルだ!! ライゼル=アルテイン!! 勇者アルディスの加護を受けし、正当なる勇者だっ!!」
ヴェント「ああ、ライゼル! 久しぶり! どうしたんだ、こんなところで? 道にでも迷ったか?」
ぽんぽん、と気安く頭を叩くヴェント。
ライゼル「ええい! やめろ! 子ども扱いするな!!」
ガレオス「ライゼル様、やめましょうって……!」
ライゼル「うるさい! とにかく! お前のような悪魔憑きを成敗して、俺の魔界進撃への足掛かりにしてやる!」
ルミナ「はぁ? 前に“人間だ”って認めたでしょ?」
ライゼル「い、いや……あの……」
ヴェント「ん? なんだって?」
ライゼル「なんでもない! 今回は見逃してやる!!」
勢いよく踵を返し、雪を蹴り上げて走り去るライゼル。
ガレオス「本当にすみません。何度もご迷惑を……」
ヴェント「あんた、あいつの仲間か?」
ガレオス「はい。私は戦士のガレオス。こちらは武闘家のバルド、賢者のノル様です」
バルド「失礼しました! おい、行くぞ! またライゼル様が迷子になる!」
ガレオス「……まったく。では、失礼します」
ノル「ヴェント氏に噛みついたこちらにも非はありますが……そんなものを持っているのは危険だ」
ノルの目が、静かにアリアのカバンを射抜いた。
ノル「すぐに教会で処分を。……それと――」
フードを深くかぶるセリナに視線を向け、少しだけ目を細める。
ノル「いや、いい。……お気をつけて」
勇者一行は去っていった。
雪煙の中、彼らの背中が次第に遠ざかる。
ルミナ「アリア、ばれてたわね」
セリナ「私にも気づいてたみたいです。敵意はなかったけど……妙に静かでしたね」
ヴェント「なんだったんだ今の? また変なのに絡まれたな」
シルフィナ「……アリア。出して」
アリア「…………」
アリアは静かにカバンを開き、中から黒い布で包まれたものを取り出した。
布の隙間から覗くのは、肉と骨が絡み合ったような“右腕”。
それは、まるで生き物のように小さく動いていた。
ヴェント「な、なんだよそれ!? 動いたぞ!?」
アリア「“悪魔の右手”です。私たちが再会したクエストの、あの悪魔討伐のあと……ドロップしました。
協会に出すか迷ったんですけど……なんとなく捨てられなくて」
シルフィナ「悪魔の部位の伝説、だね」
ルミナ「“全ての部位を集めると願いが叶う”……でしょ」
アリア「はい。目的があるわけじゃないんです。でも、どうしてか……持っていなきゃいけない気がして」
ヴェント「いいなぁ~! 俺なら伝説の剣とか欲しいな、なくなったゼノアスの聖剣とか!」
アリア「ふふ、私が叶えてあげるよ♡」
シルフィナ「でも私たちの目的は“部位集め”じゃないよ?」
アリア「……わかってます。魔界に着いたら、たぶん別行動になると思います」
アリアの声は小さく、どこか遠くを見ていた。
その横顔を、雪明かりが静かに照らす。
ルミナ「まぁ、先のことはいいじゃない。今はまず――」
ルミナが両手を叩いた。
ルミナ「ギルドで通行許可証をもらいましょ。北部は書類が厳しいからね」
ヴェント「よっしゃ! 今度はトラップなしで行こうぜ!」
セリナ「その前に足の雪、ちゃんと落としてください!」
シルフィナ「ふふ、ほんと賑やかだね」
アリア「……ね。こういう時間、悪くない」
夕暮れの空が赤く染まり、ノルデンベルクの石壁に長い影を落とす。
雪が舞い、鐘の音が遠くで鳴り響いた。
その時――アリアのカバンの中で、“悪魔の右手”がかすかに脈動した。
まるで、何かを待ち望むように。
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