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光と風の境界  作者: 770
20/39

北の城塞都市ノルデンベルク

(^^)/

 雪を割る風が頬を刺す。

 道の先、霧の向こうに見えてきたのは、灰色の石壁で囲まれた巨大な都市。

 数百の塔が並び立ち、夜明けの光に反射して銀のように光る。

 ――北の守護都市、ノルデンベルク。

 氷雪と戦乱の境にそびえる最後の人間領だ。


セリナ「やっと着きましたね~」

ヴェント「濃厚な2日間だったな!」

セリナ「変な言い方しないでください! ヴェントさんがモンスタートラップ踏みまくったからですよ!」

ルミナ「ほんと、数えたら十二回よ。しかも罠の八割が“初見でわかるやつ”だったわ」

ヴェント「だってさぁ、石ころの下に爆炎符置くとか反則じゃない?」

アリア「普通、気配で気づくと思うけどね……ヴェント、探知能力の訓練を少ししたほうがいいですよ」

シルフィナ「みんな責めすぎ。……ヨシヨシ、ヴェントがんばったね」

ヴェント「うえーん、怖かったよー!」

セリナ「そこ! 子どもみたいに泣かないの!」


 石畳の街道には馬車と行商人の列が続き、門前では冒険者たちが検問を受けていた。

 行き交う人々の装備は分厚く、全員が何かしらの戦士。

 ノルデンベルクは“前線都市”と呼ばれるだけあって、街そのものが要塞のような威圧感を放っている。


ヴェント「よし! 気を取り直していこう!」

ルミナ「切り替え早っ……まぁいいけど」

シルフィナ「もうすぐ雪が強くなるし、宿を先に探した方がいいかも」

セリナ「はいはい、わかってます。ギルドで通行証も発行しないとですしね」

アリア「それに、ノルデンベルクの食堂は美味しいんですよ。スパイス入りの獣肉シチューが絶品で」

ヴェント「うおー、それ食べたい!」

ルミナ「……あなたってほんと現金ね」


 和やかな空気の中――

 突然、鋭い声が響いた。


ライゼル「待っていたぞ、悪魔憑き!!」

ヴェント「……お前は……レイチェル?」

ライゼル「ライゼルだ!! ライゼル=アルテイン!! 勇者アルディスの加護を受けし、正当なる勇者だっ!!」

ヴェント「ああ、ライゼル! 久しぶり! どうしたんだ、こんなところで? 道にでも迷ったか?」


 ぽんぽん、と気安く頭を叩くヴェント。


ライゼル「ええい! やめろ! 子ども扱いするな!!」

ガレオス「ライゼル様、やめましょうって……!」

ライゼル「うるさい! とにかく! お前のような悪魔憑きを成敗して、俺の魔界進撃への足掛かりにしてやる!」

ルミナ「はぁ? 前に“人間だ”って認めたでしょ?」

ライゼル「い、いや……あの……」

ヴェント「ん? なんだって?」

ライゼル「なんでもない! 今回は見逃してやる!!」


 勢いよく踵を返し、雪を蹴り上げて走り去るライゼル。


ガレオス「本当にすみません。何度もご迷惑を……」

ヴェント「あんた、あいつの仲間か?」

ガレオス「はい。私は戦士のガレオス。こちらは武闘家のバルド、賢者のノル様です」

バルド「失礼しました! おい、行くぞ! またライゼル様が迷子になる!」

ガレオス「……まったく。では、失礼します」

ノル「ヴェント氏に噛みついたこちらにも非はありますが……そんなものを持っているのは危険だ」


 ノルの目が、静かにアリアのカバンを射抜いた。


ノル「すぐに教会で処分を。……それと――」

 フードを深くかぶるセリナに視線を向け、少しだけ目を細める。

ノル「いや、いい。……お気をつけて」


 勇者一行は去っていった。

 雪煙の中、彼らの背中が次第に遠ざかる。


ルミナ「アリア、ばれてたわね」

セリナ「私にも気づいてたみたいです。敵意はなかったけど……妙に静かでしたね」

ヴェント「なんだったんだ今の? また変なのに絡まれたな」

シルフィナ「……アリア。出して」

アリア「…………」


 アリアは静かにカバンを開き、中から黒い布で包まれたものを取り出した。

 布の隙間から覗くのは、肉と骨が絡み合ったような“右腕”。

 それは、まるで生き物のように小さく動いていた。


ヴェント「な、なんだよそれ!? 動いたぞ!?」

アリア「“悪魔の右手”です。私たちが再会したクエストの、あの悪魔討伐のあと……ドロップしました。

 協会に出すか迷ったんですけど……なんとなく捨てられなくて」

シルフィナ「悪魔の部位の伝説、だね」

ルミナ「“全ての部位を集めると願いが叶う”……でしょ」

アリア「はい。目的があるわけじゃないんです。でも、どうしてか……持っていなきゃいけない気がして」

ヴェント「いいなぁ~! 俺なら伝説の剣とか欲しいな、なくなったゼノアスの聖剣とか!」

アリア「ふふ、私が叶えてあげるよ♡」

シルフィナ「でも私たちの目的は“部位集め”じゃないよ?」

アリア「……わかってます。魔界に着いたら、たぶん別行動になると思います」

 アリアの声は小さく、どこか遠くを見ていた。

 その横顔を、雪明かりが静かに照らす。


ルミナ「まぁ、先のことはいいじゃない。今はまず――」

 ルミナが両手を叩いた。

ルミナ「ギルドで通行許可証をもらいましょ。北部は書類が厳しいからね」

ヴェント「よっしゃ! 今度はトラップなしで行こうぜ!」

セリナ「その前に足の雪、ちゃんと落としてください!」

シルフィナ「ふふ、ほんと賑やかだね」

アリア「……ね。こういう時間、悪くない」


 夕暮れの空が赤く染まり、ノルデンベルクの石壁に長い影を落とす。

 雪が舞い、鐘の音が遠くで鳴り響いた。


 その時――アリアのカバンの中で、“悪魔の右手”がかすかに脈動した。

 まるで、何かを待ち望むように。

(^^)/

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