栄光と旅立ちの杯
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王都ガルディナ、夕陽が白亜の闘技場を朱く染めていた。
熱狂に包まれた武闘大会の幕が、静かに降りようとしている。
吹き抜ける風が、まだ砂と火薬の匂いを残していた。
王家席の前――、表彰台に立つ二つの影。
王冠を戴く老王レオンハルトが、ゆっくりとセリナの前に歩み寄る。
レオンハルト「おめでとう。久しぶりに血が沸き、肉が躍ったわ」
セリナ「ありがと。おじいさんもなかなか面白かったわよ」
衛兵「な、なんと無礼な!」
レオンハルト「よい、よい。……おぬしも何か感じておろう? あの双子……」
セリナ「あら? 知ってたの?」
レオンハルト「知っておるとも。二十年前、決勝で奴らと剣を交えたのは他でもないこのワシじゃ」
レオンハルトはゆっくりと微笑んだ。
その笑みに、歳月と誇りが宿る。
レオンハルト「しかも――青年のほうは、奴によく似ておる」
セリナ「……そう、やっぱりそう見えるのね」
レオンハルト「ふむ。血の因果というやつかもしれぬな」
ーーー
次に壇上へ呼ばれたのは、準優勝チーム。
風に乱れた髪を直しながらヴェントが大きく伸びをする。
シルフィナ「ありがたく頂戴いたします」
ヴェント「やったぜ!」
ルミナ「……また二位……」
レオンハルト「どうしたのじゃ? 準優勝では不服か?」
シルフィナ「いえ、気にしないでください」
レオンハルト「若者の悔しさは良いことじゃ。次こそは優勝を目指せ」
ヴェント「はいっ!」
ーーー
夜――。
酒場の明かりが金色に灯り、人々の笑い声が響いていた。
ヴェント「じゃあ俺たちの準優勝を祝して――かんぱーい!」
ルミナ「結局、負けても飲むのね……」
シルフィナ「ルミナは優勝する気まんまんだったもんね」
ルミナ「当たり前でしょ! この私の率いるチームが敗北なんて許せないんだから!」
笑い声が弾ける。そこへ、聞き慣れた声が割り込んできた。
リーファ「ヴェントさんっ、見てましたよ決勝戦! 本当にすごい魔力でしたね♡」
ヴェント「はは、ありがとな!」
シルフィナ「さすが、私のヴェント」
ガレド「うめええええ! これ何の肉だ!?」
メルア「……セリナ様? お食事、口に合いませんか?」
セリナはグラスを回しながら、遠くのテーブルを眺めていた。
ヴェント、ルミナ、シルフィナ――笑い声が絶えない。
セリナ「いや……いいんだけどね? 一応、同盟みたいな口約束もしたし……」
セリナ「でも、なんかもう……合流しちゃってる感じよね?」
ヴェント「まぁまぁ、かたいこと言うなよ! 飲んで、明日まじめな話しようぜ!」
セリナ「……今日はもう、話す気すらないんだ……」
リーファ「ヴェント様~♡」
シルフィナ「ヴェント~」
メルア「ヴェントさ~ん♪」
ヴェント「あははー!」
ルミナ「……なんでヴェントばっかりモテるのよ……」
ーーー
翌朝――いや、正確には昼過ぎ。
眩しい陽光に、酒臭い空気が残る宿の部屋で。
セリナ「と、いうわけで。……魔界に戻りますよ」
ヴェント「ううぅ……頭が割れそう……」
ルミナ「魔界って……どうやって行くの?」
シルフィナ「最果ての村……だよね……?」
セリナ「そうです! そこにあるダンジョンの最深部に、魔界への門が開いています」
セリナ「正確には空間魔法でも行けなくはないんですけど……私が飛べる座標は決まってて」
ルミナ「歯切れ悪いわね?」
セリナ「……飛べる場所が魔界のかなり奥なんです。瘴気が濃すぎて、入った瞬間に即死コースです」
シルフィナ「論外だね。正規ルートで行こう」
セリナ「ええ、もちろん私も同行しますから」
ルミナ「じゃあ、中央都市経由ね。でも北西部って、魔獣とか悪魔が多いでしょ?」
セリナ「そうですね。北へ越えるには“越境審査”があって、全員の冒険者ランクがダイヤモンド以上、しかも一人はブラックランクが必要です」
ヴェント「俺たちはプラチナだから……クエストこなして昇格しなきゃダメかぁ……」
シルフィナ「私、ダイヤモンドだよ」
ヴェント「すげー! 名前の横に宝石ついてる! かっこいいー!」
ルミナ「……ん? ダイヤモンドって特殊クエストを攻略するか、二十年以上の継続活動が条件でしょ? シルフィナ、あんた一体――ムグッ!」
シルフィナは慌ててパンをルミナの口に押し込んだ。
シルフィナ「ルミナ、それ以上はよくない」
セリナ「……ふふ、まぁ頼もしい仲間がいて安心ね」
セリナ「私もプラチナですから、まずは大都市に行って昇格用の特殊クエストを受けましょう」
ルミナ「ここから一番近いのは――“ネメシスシティ”ね。ここからなら三日で行けるわ」
ーーー
城門前。
王都を出る風が、柔らかく頬を撫でる。
セリナ「じゃあ、ガレドとメルアは先に帰ってて。お父さんに伝言お願い」
ガレド「了解っす! 気をつけてくださいね!」
メルア「セリナ様、どうかご無事で」
ヴェント「じゃ~な~!」
シルフィナ「……じゃ、行こっか。ネメシスシティへ」
夕陽が長い影を落とす。
その影は、四人分――。
風が吹き抜け、遠くの空で鐘の音が響いた。
こうして、栄光の終わりと新たな旅立ちが、同じ瞬間に始まった。
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