夕焼けに染まる空
幸せな時間はいつだって容赦なく逃げていく。
気付けばお昼を食べ、帰りのフェリーに揺られていた。海面は淡く金を帯び、遠い水平線に沈みかけた太陽が、静かに道標のような光を残している。髪を潮風に少し乱されながら、私は考えていた。
――今日の一日、彼は、楽しく過ごしてくれたのだろうか。来てよかったと思ってくれただろうか。――
そんな思いが渦を巻くうちに、心は次の景色を求めていた。一度と言わず、二度、三度――いや何度でも、叶うのなら。
彼と一緒に歩く道を、まだ見ぬ景色を、幾つも並べてみたくなる。欲張りだと笑われても構わない。ただ、その隣にいる時間をまだ終わらせたくなかった。
夜ご飯を食べながら、彼と美味しいと目が合った瞬間、言葉が喉から零れた。
――また、一緒にどこか行きたいです。――
少し間を置き、彼はふっと微笑む。その笑みは、水面にそっと落ちた波紋のように静かで、けれど私の胸には確かな熱を残した。
――確かに、行きたいですね。――と。
これは社交辞令なのか、それとも本音なのかその時は判断がつかなかった。いや、私はきっと、本音だと思いたかったのだ。ずるい、とも一瞬思った。あの優しい笑顔で、あの柔らかな眼差しで頷かれてしまえば、私の心は全部持って行かれてしまう。そして、もっともっと望むようになってしまう。彼は気付かないだろう、私の視線が、どれほど長く、深く、彼の輪郭を追っているのかということを。