近づく心
いつからだろう。連絡先交換出来たら――とか、今日のシフト被っていたらいいな――とか、そんなことを考えるようになっていたのは。
私はもともと、自分のことをあまり周りに話さないタイプだった。感情を話すのが苦手というわけではないけど、「誰かに相談する」ということに、なんとなく抵抗があったのかもしれない。しかし、大学の友達にはなぜかポツリポツリと話せた。ちょっと照れくさかったが、
――気になる人がいるんだよね。――と。
空想の世界ではなく、目の前に実在する人物について話すのは初めてだったかもしれない。
私のアルバイト先では、自身のシフト、担当する生徒については前もって確認することができるが、他の人に関しては、当日に張り出されている紙を見ないと分からないようになっていた。〝当日まで分からない〟――それが、逆に楽しみさとワクワク感を増幅させる。
季節は10月下旬。朝晩は肌寒くなり、長袖に薄手のアウターを羽織る姿が街中に目立ち始めていた。秋が深まり、街の雰囲気もどこか落ち着いた色合いを帯びてくる頃。
そんなある日、職場で12月分のシフト提出の案内が出された。カレンダーに目をやると、ひときわ目立つ日付が目に入る。
――12月24日と25日。クリスマス。
友達とのクリスマスパーティーは別日に予定していた。そのため24日、25日は空いている。きっと街は、キラキラとしたイルミネーションに包まれて、特別な空気になるだろう。幼いころから、暗闇の中に瞬く光は本物の輝きを放つように思えていた。影が深ければ深いほど、その輝きは輪郭を増し、まるで夢の中にいるような気分にさせてくれた。
クリスマス当日である25日にシフトを入れるのは気が引けたため、とりあえず24日だけ。25日だけは、なんとなく、空けておきたかった。
デジタル化が進むこの時代には少し珍しいけど、出勤希望日は紙での提出である。その分、他の人の出勤希望日が見えてしまうという事実(あるいは、誘惑)もあった。見てしまいたいのが人間というものだ。25日は出勤するのか、それとももう予定が埋まっているのか、予定が埋まっているとしたら、それは友達?それとも想い人?気になることは盛沢山である。
そんな思いを抱えながら見てみると――
24日、25日どちらも出勤可能になっていたのだ。
これは…もしかして…
その瞬間、私の中の〝期待〟は、確かな輪郭を持った〝予感〟へと変わった。胸の高鳴りが静かに、しかし確実に広がっていった。