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「随分面白い生徒だったね」


 ウィルフリッドが揶揄うような目線を向けてくる。


 「ただの馬鹿だろう」


  心にも無いことを言い、少し気分が悪くなる。


 真面目に取り合うのも億劫で短く返すが、ウィルフリッドは何が楽しいのかクスクスと肩を揺らしていた。


 「馬鹿な子ほど君を怖がるものだよ?ヨルグ。物を知らない子は見た目しか見ないからね」


 今度は優しげな口調だ。ニコニコと見つめられ居心地が悪い。返事をするとウィルフリッドを調子付かせてしまいそうで、俺は黙ったまま翌日の授業の準備を進めた。


 だが脳裏には彼女の顔がチラつく。


 確かにウィルフリッドが言う様に今までに会った事の無いタイプの子だった。生まれてこの方、初対面の相手に怖がられなかった試しがない。


 自分の見た目が相手に恐怖を与える事は充分理解していた。怖さに怯えるものも居れば、謙って媚びを売ってくるような者も多い。


 彼女はまっすぐ俺の目を見てくれた。少しも恐れる事なく。


 いつの間にか手が止まっていたのか、ウィルフリッドのニヤニヤした顔が目に入り俺はハッとして荒く音を立て翌日の準備を済ませた。


 

*****



「ヨルグ副師団長!よろしくお願いしまーす!」


 何度目かの授業で、私はお決まりの手合わせをお願いしていた。


 対するヨルグは真顔で頷く。普段は寡黙なのだが、偶にくれるアドバイスが的確なのでつい頼ってしまう。


 「膝はどうだ」

 

 手合わせ後にそう問われるが、自分では痛みを感じないのでどう答えるかと一瞬迷った。


 「アドバイス通りに休みを多めに取ってるので調子良いです!」

 

 最近ふらつく事も無いので大丈夫だろう。特に問題ないと答える。


 「そうか」


 私の返答を聞いても安心したようでも無く、興味があるのか無いのか良くわからない。


 副師団長なのに生徒一人一人の事まで気にかけるとは。騎士になる為にはまだまだ学ぶ事が多いな、と私はボンヤリと考えた。


 私が最初の授業で副師団長に話しかけたのが生徒たちを勇気付けたのか、はたまた私が副師団長は良い人だと言ったのが作用したのか、最近は他の生徒も副師団長と手合わせをしている。


 彼的には余計なお世話だったかもしれないが、師団長のウィルフリッドがニコニコしているので良い事だとしておこう。


 気付けばこの特別授業も今日で終わりだ。そして私達3年生はこの学校を卒業する。ウィルフリッドとヨルグも王家直属の騎士ではあるが、もう滅多に会う事も無くなるだろう。


 休憩をしているヨルグに近づく。


 「ヨルグ副師団長。何回も相手してもらってありがとうございました!お陰様で、就職しても頑張れそうです」


 彼はこちらを見て話を聞いてくれているのだが、何故か返事がない。


 「副師団長?」

 

 「ん、あぁ。無理はするなよ」


 何か考え事をしていたのだろうか。


 「はい!ありがとうございました!副師団長もお体には気をつけてください」


 ぺこりと頭を下げ次の授業のために教室へ駆ける。サマンサもちょうど片付けを終えたようだ。私は彼女の背中を追いかけた。


 

*****



今日は私に手紙をくれたアシア様との顔合わせだ。卒業して直ぐに担当のものが荷物を王城の騎士舎へと運んでくれたのはありがたかった。さすが王族。


 用意して貰った部屋は騎士舎の一室で、私が王族近衛だとしても特別対応が変わる事はないらしい。だが学校の寮に比べたら遥かに豪華だ。学校の寮ではサマンサと同室だった。


 卒業式でサマンサと泣きながら抱き合ったのがすぐ昨日の事のようで、胸が少し切なくなる。


 「よーし!頑張るぞ〜」


 頬をパシッと叩いたが、衝撃を感じるだけなので大して意味がなかったかもしれない。緊張は変わらずだ。


 ーーーコンコン。


 部屋の扉が静かにノックされた。扉を開けると、騎士服に身を包んだ男性が立っている。


 「アシア様の所へ案内する。着いてきなさい」


 「はい」


 背筋をピンと伸ばした彼の背中を追い、アシア様の元へ向かった。



*****



 「スウェイルを連れて来た」


 王城の廊下をかなり歩き豪華な装飾がしてある扉の前で男は立ち止まった。男は扉の両側に立っている警備の騎士へ私の来訪を告げた。


 2人の騎士は黙って頷き、豪華な両開きの扉をゆっくりと開ける。踏み込んだ部屋は王女様が過ごすには少し簡素な物の様な気がした。一つ一つがかなり高価な物だろう事は分かったが、ベッドはヒラヒラもしていないし、色味も深い青や少しばかりの金色、と上品なものが多い。


 「アシア様。連れて参りました。」


 私を案内してくれた騎士は、部屋から直接続く広いバルコニーへと進んだ。そのバルコニーだけで私の部屋ほどの広さがある。白で纏められたテーブルと椅子が備え付けられており、そこで王女と思われる人物が落ち着いたオレンジのドレスを着て座っていた。


 「お初にお目に掛かります。これからアシア様の警護に就かせて頂くイヴリン・スウェイルと申します」


 騎士の礼を取る。王女様がこちらを向いた気配がしたが、顔を上げるのは許しが出てからだ。


 「あなたの名前は知ってます。イヴリン。顔を上げなさい」


 聞き覚えがある様な声が頭上から降ってくる。


 どこで聞いたんだっけ、と顔を上げるとそこには明るい茶色の髪を風に靡かせ、形の良い小さい唇が可愛らしい顔が。


 「あ!あなたは」


 「久しぶりね」


 彼女がアシア様か。あの日私が助けたご令嬢だ。あの日から会う事は無かったが、相変わらず凛としていて美しい。思わず笑みが溢れた。


 「あなただったんですね......」


「驚かせてしまったわね、でもどうしても貴方を雇いたくて、ごめんなさいね」


 困った様に謝られるが、彼女の為に働けるのだ。謝る必要はない。


 「貴方を守れるなら私も嬉しいです。どうぞ私を好きに使ってください」

 

 「あら、そんな事言って良いの?私は人使いが荒いわよ」


 澄ました顔でそう言うアシア様は私にチラリと目をやるとクスクスと笑い始めた。


 後に聞いた事だが、彼女があんなにリラックスして笑う姿を護衛の騎士たちは初めて見たらしい。


 いつも気を張って生活しているのだろうか。王女で居るのも楽ではないらしい。


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