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 「あれから2週間経つんですが......」


 「あらあら」


 私は紅茶を優雅に飲むアシア様に愚痴った。恋愛話しをしよう、との提案に喜んで乗ったのだ。


 私たちは警備の騎士を少し遠くに待機させ、小さめのガゼボでお茶をしていた。


 「副師団長が私を好きかどうかはもう、なんかどうでも良いと言うか」


 「そうね〜勘違いされたままなのは嫌よね」


 アシア様がうんうんと頷く。


 「クレイグ...様の事を悪く言いたくないんですが、私があの人の事を好きだと思われてるのもちょっと......」


  「言うわねイヴリン。でもそうね、あの人は少し癖があるから」


 癖どころではない気がするが。


 「でも知ってた?あの人私に夢中なのよ」


 アシア様が口元を手で覆いながらクスクスと笑う。なるほど、彼女が手綱を握っているなら安心かもしれない。


 「今度お二人の馴れ初めも聞かせてください」


 微笑ましくなり、もっと2人の事を知りたくなった。


 「ええ今度ね。今日はあなたと副師団長の作戦会議よ!」


 アシア様の目が闘志にメラメラと燃えている。私の話を粗方聞いたアシア様はどうにか私たちの仲を取り持ちたいようだ。


 「でも2週間は長いわね。彼、確実にあなたを避けてるわよ」

 

 「ですよね......土日は王城に戻ってきてる筈なんですけど、探しても全然会えなくて...」


「これは倒し甲斐があるわね」


 アシア様が悪い顔つきをしている。何か企んでいる様だ。


 「今度パーティーがあるんだけど、そこにあなたの代わりに副師団長を警備につけるのはどうかしら?」


 「私が居るのに受けてくれますかね?」


 「あなたが体調不良で休んだ事にすれば良いのよ」


 ニヤリとアシア様が笑う。


 「なるほど、待ち伏せ作戦ですね?」


 「そう!あなたはご令嬢に紛れるも良し、メイドに紛れるも良しだけど」

 

 「そうですね......分かりました。考えておきます」


 その後は2人で恋愛観について語り続け、クレイグがアシア様に会いにきた事でお開きとなった。


 


*****



「今日はよろしくね、ヨルグ副師団長」


 アシア様が俺に軽く頷く。スウェイルが体調不良で休む事になり、俺が代わりに警護を請け負う事になったのだが、他にも頼める騎士が居たのではないか?


 少し腑に落ちなかったが、今日は大きなパーティーなので警護の人数が多い方が良いのだろう。俺は深くは考えなかったが、頭の片隅ではスウェイルの体調を心配していた。


 今日のパーティーは仮面舞踏会と呼ぶのか、客は皆それぞれ好きな仮面を着けて楽しそうにダンスをしている。執事やメイドも仮面を着けているので、もしここで誰かに襲われても顔を確認するのが大変だろうと思った。俺は少し警戒を強めアシア様の周りに目を配った。


 俺の心配を他所にパーティーは滞りなく進み、日が暮れた頃にはちらほらと帰る者も出始めアシア様も王城へ帰る用意を始めた。


 執事がアシア様の上着を持ち、彼女に着せる。彼がアシア様から離れ、元の持ち場に戻るかと思いきや何故かこちらに向けて歩いてくる。もしや俺を襲う気か?だが彼は手に何も持っていない。


 「やっと会えた」


 執事が黒い仮面を外す。聞こえてきたのは馴染みのある声だった。


 「ス、スウェイル......」


 彼女は執事服に身を包み、短い金髪を後ろに撫で付けている。


  「アシア様すみません、副師団長借りますね」


 「ええ、後でちゃんと結果教えなさいね」


 助けを乞う様にアシア様を見つめるが、彼女は他の騎士と共にニコニコと帰っていく。


 「お、俺はアシア様の警護が.....」


そう言いアシア様の後を追おうとするが、ガシリと腕を力強く掴まれた。


 「今度話しをするって言いましたよね?」


 ニコリと笑顔を向けられるが、彼女の目は笑っていなかった。



******




私とヨルグさんは、パーティー終わりの人気の無い庭のベンチに隣り合って座っていた。


 花の香りが風に乗って鼻に届く。真ん中の噴水も美しい。


 「ヨルグ副師団長。今日こそ話を聞いてくれますよね?」


 語気を強くして圧を掛ける。ヨルグさんは気まずそうにそっぽを向いていた。


 「こっち見てください、副師団長。お願いですから」


 彼は渋々とこちらを向く。


 「本当に話したいだけなんです。あの日副師団長が言った事について」


 「......俺が言った事?」


 「はい。覚えてます?遠乗りに行った日、あなたが私に、クレイグはアシア様の婚約者なんだからって。私がクレイグの事を好きなのは分かってるって言いましたよね?」


 「......あぁ」


 彼は険しい顔で頷いた。


 「何でそう思ったのかは分からないですけど、私が好きなのはあなたです。ヨルグ副師団長」


 彼は目を見開き静止してしまった。私は辛抱強く彼が話すのを待つ。


 「そ、そんな訳無い......もしかして、また魔道具を使ったのか?」


 そうなんだろう、と焦った様にヨルグさんが私に問う。


 「そんな訳無いじゃないですか!まぁ前科があるので説得力は無いかもしれないですが......」

 

力強く否定したかったが、最後は自信の無さで尻すぼみになってしまった。


 「前は何もかもが布に一枚覆われた様な、ボンヤリしたように感じてたんです。でも今はハッキリ分かりますよ。草の匂い、風が肌を撫でる気持ちよさ、陽の暖かさ」


 私はそこで一つ深呼吸した。


 「副師団長の優しさも、力強さも、可愛いところも全部ハッキリ感じます。全部が愛おしいとも」


 彼の目を見つめそう言い切る。彼に伝わっただろうか。


 「で、でも俺の事を怖がってただろう......」


 彼の言っている事が分からず首を傾げた。いつ私が怖がったのだろう。過去を振り返ってみるがそんな記憶がない。


 「うーん、それっていつですか?」


 「あの魔道具を壊してお前が倒れた時だ。この前遠乗りした時だって......」


「私が倒れた時の事は覚えてないですけど、遠乗りの時のは怖がって離れた訳じゃなくて......」


「覚えてない、のか?じゃああれはやっぱり本能的に怖がって......」


 私の言葉を最後まで聞かないヨルグさんに段々とイライラしてきた。


 「だから!怖がってないですって!」


 「わ、私は最初に会った時から優しい人だなって、私なんかをちゃんと見てくれる、すごい人だなって......おもっ......それなのに、っふ......」


 いつまでも私の言葉を信じてくれない彼に、私は思わず立ち上がった。こんなに気持ちを伝えているのに、信じてもらえないのがとても悔しい。目頭が熱くなり、ボロボロと涙が溢れる。


 「お、おい。泣くな...」


泣くなと言われてももう流れてしまったものは止まらない。


 「私は...ぐすっ......あなた...が....好きなんです.....何で分かってくれないんですか」


 「クレイグ様の事は......?」


 それは一番正したいところだ。


 「私があんなやつ......ぐすっ、いえ、とりあえず、あの人はただ学生の時の知り合いってだけです。まっっっったく好きじゃありません!!!」


悲しいやら悔しいやらでつい怒鳴る様に言ってしまった。


 「わ、分かった分かった....信じるから、泣き止んでくれ......」


ヨルグさんは困った様にそう言った。


 「ほ、本当に信じてくれました?」


 「あぁ......そんなに泣かれたらな」


 彼は目を逸らしポリポリと頭を掻いている。やっと信じてくれた様だ。


 「良かった、です.....すみません、泣いてしまって」


 見苦しいところを見せてしまった。私は涙を拭いながら頭を下げた。


 「それじゃあ、私この服を返さなきゃなので」

 

 そう言いながら着ていた執事服を指す。


 「あの、王城で会った時気まずいかと思いますが、挨拶だけでもしてくれたら嬉しいです」


 無理やり笑顔を作り、失礼しますとその場を離れた。


  「......ん?」


 後には1人困惑するヨルグだけが残されていた。

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