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 私は腕が完全に治るまでの間、停職処分となった。母と妹はあの魔道具を手に入れ私に使用した罪でかなり重めの罰を受けるらしいが、私はそれの被害者でもある、という事で停職程度で済んだ。


 「大変ご迷惑をお掛けしました。アシア様」


 停職から復帰し、アシア様へお詫びする為片膝を着き礼をとった。


 「良いのよ、あなたが無事で良かったわ」


 アシアさまが心底ホッとした様な顔で私に微笑む。


 私を囮にすると言った時は楽しそうに笑って居たが、私が怪我をしたと聞いた時はかなり心配してくれていたらしい。お見舞いにも何回も来てくれて居たし。


 王女然と振る舞おうと頑張っているのだろうが、非情になりきれていないようで何とも可愛らしい。


 「あれ、ヨルグ副師団長は?」


 周りを見回しても彼の姿が見当たらない。

 

 「あら、あなた聞いてないの?ストーカーを捕まえたからもう元の仕事に戻ったのよ」


 「えっ......」


彼から何も聞いて居ない。私は思考が停止してしまった。私が復帰してからもずっと一緒に働けると思っていたのだ。


 「イヴリンあなた本当にヨルグが好きなのね」


 アシア様がクスクスと笑う。


 「私が、ヨルグ副師団長を好き......」


壊れた機械の様に反芻すると、何かがストンと胸に落ちてきた。


 「そう、みたいです.......」


  「あらあら、自覚が無かったの?ふふふ、今度2人で恋愛の話でもしましょう」


 「はい......」


上の空で答える。その日はひたすら仕事に没頭するようにした。そうしなければ別の事で頭がすぐいっぱいになってしまいそうだった。


 「うわぁーーーまじかー」


 1人部屋で頭を抱える。


 「いや、私めちゃくちゃヨルグさんの事好きじゃん......えぇー」


 今までの事を振り返るだけで心臓がドクドクと煩く鳴り始める。彼が自分のことを名前で呼んで欲しいと言うなんて、それにあの笑顔!思い出しただけで顔が熱くなる。


 「あっっつ」


 手で顔をパタパタと扇ぐ。だが私は大事なことに気づいてしまった。


  あの人は今どこにいるんだ?


 ベッドに倒れ込み、これからどうしようか考えた。彼に想いを告げたいと言うのは自分勝手なものだが、どうしても彼に伝えたかった。彼はきっと困るだろう。だがこの想いは本人に伝えない限り溢れ続けてしまう。そんな中生き続けていくのはとても辛いと思った。



*****



「あれ、君は......」


廊下を歩いていると見知った顔を見つけた。


 「ウィルフリッド師団長!お久しぶりです!」


 久しぶりに見る彼は相変わらず優しげな顔をしている。


 「えーと、スウェイル!久しぶりだね」

 

 「名前を覚えて頂いているとは、恐縮です」


 授業で数回顔を合わせただけなのに一生徒の名前まで覚えているとは。


 「覚えてるよ〜。ヨルグの事怖がらなかった女の子は君が初めてだったんじゃないかな?」


 のほほんと言われてハッとした。


 「あ!あの、突然で申し訳ないのですが、ヨルグ副師団長は今どこで働いてらっしゃるのでしょうか?」


 「ヨルグ?今は色んな所の騎士に稽古つけてくれって頼まれて色々出回ってるみたいだよ」


 「そ、そうですか......」


忙しくてしているようだ。私がすぐに会うのは難しいか。


 「ヨルグに会いたかったら執務室で待ってたら?」


 はいこれ、執務室の鍵。と鍵を渡された。こんなに簡単に渡して良いのだろうか?


 「え、良いんですか私が持ってて。というか副師団長は色んなところに稽古つけて回ってるんじゃ......?」


 「後でヨルグに返したら大丈夫だよ〜。そうそう、色んなとこ行って、それを報告する為に定期的に王城に帰って来るよ」


 「え!それって何曜日とか決まってますか?」


 「うん、基本金曜に帰ってきて、土日は騎士舎に居ると思うよ」


 「ウィルフリッド師団長っ......!ありがとうございます!」


 なんて有益な情報なんだ。私は感激して師団長の手をとりブンブンと振った。


 「う、うん?どういたしまして?」


 師団長を困らせてしまったが、またヨルグさんに会えると分かってはしゃいでしまう。


 それに今日は金曜日だ。


 「すみません!失礼します!」


 私は慌てて師団長に頭を下げて廊下を駆け出した。


 目指すはヨルグさんの執務室だ。もしかしたらもう彼が戻ってきているかも知れない。


ーーーコンコン


 「ヨルグ副師団長、いらっしゃいますか?」


 数秒待つが返事がない。まだ帰って居ない様だ。私は恐る恐る鍵を開けて執務室に足を踏み入れた。


 広さは私の部屋と一緒程だが、奥に大きい文机が置いてあり周りは書棚に囲まれている。机の手前にソファとテーブルが備え付けられて居て、ここで重要な会議をしたりするのかと想像したらワクワクした。


 いつ帰って来るだろう、とソファに座り待つ事にする。が、想像以上の柔らかさに思わずポスンと横になってしまう。仕事の疲れが一気に襲って来て瞼が下がるのを堪える事ができない。


 私はヨルグさんが来るのを待ちきれずに睡魔に負けてしまった。


 

****


王様も人使いが荒い。各騎士団に稽古をつけるのは構わないが、こうも毎日色々なところに出向かされるとは。土日が休みでなければやってられない。


 今日も1週間の仕事を報告所にまとめる為に執務室へ向かう。


 鍵を開けようと鍵穴に鍵を差し込むが、違和感を感じて手を止めた。既に鍵が開いているのだ。


 誰かが進入したか。俺は警戒しつつ扉をゆっくりと開いた。


 扉の隙間から部屋を覗くと、誰かがソファに横たわっている。足音を立てない様にゆっくりと近づいた。


 「なっ......!」


 なぜここにスウェイルが居るんだ。しかもソファですやすやと寝ている。


もう腕は治ったのだろうか。見る限りもう包帯などは巻いていない。スースーと寝息を立てる顔は血行も良いように見えた。


 彼女の肩に触れようとしたが、思い直し手を下げる。久しぶりに見る彼女に思わず嬉しくなる自分を何とか抑え、彼女に声をかけ起こそうとソファの前でしゃがんだ。


 しかし彼女が何やらむにゃむにゃと話し始めたので、声をかけるのも忘れてつい彼女の寝顔を見つめてしまった。


 「クレイグ......さま...まも...る......」


 彼女を早く起こせば良かった。後悔してももう遅い。彼女の口から1番聞きたくない名前を聞いてしまって、俺は心臓が冷えていくのを感じた。


 

*****


「......ル、スウェイル」 


 「ん......?」


 誰かが私を呼んでいる。低い声が心地いい。


 「起きろスウェイル」


 「んー、あれ......ヨルグさん、目線合わせててえらいですねぇ......」


「......っよ...ルグ副師団長!」


 途中までクレイグからアシア様を守る夢を見ていたのに、目の前に何故かヨルグさんが居る。しかしこちらは疑うまでもなく現実だ。


 「も、申し訳ありません。ウィルフリッド師団長に鍵を頂いたので、勝手に入らせて頂きました」


 ソファからぴょんっと立ち上がり頭を下げる。


 「......それで、用事は?」


 彼の声が冷たい。いきなり押しかけた事に苛立っているのだろう。


 「は、はい。その......」


勢いで来てしまったが、自分の気持ちをどうやって伝えるか何も考えずに行動してしまった。


 「頼まれてもアシア様とクレイグ様の婚約は解消出来ないからな」


 「......はぁ...?」


 何故今2人の話が出て来るのだろう?意味が分からずに曖昧な返事しかできない。


 もしかしてヨルグさんもクレイグの事を嫌っているのか?


 仲間が出来たような気がして少し嬉しくなる。


 「私たちって仲間だったんですね!」


 「はぁ?」


 同志よ!とはしゃいでしまったが彼のそっけない声で、ピシャリと冷水を掛けられたように萎縮してしまった。


 「す、すみません......。あの、ヨルグ副師団長何か怒ってらっしゃいます?」


 そう問いかけて気付いた。彼が魔道具を砕いた時に気絶した私を運んだのはきっと彼だ。そのお礼をするのをすっかり忘れていた。


 「ヨルグさ、副師団長。あの時私を運んでくださいましたよね?本当にありがとうございました。みっともない所を見せてしまい申し訳ありません」


 思わずヨルグさんと呼びそうになるが、今は大事な話をしているので元の呼び名の方が良いだろう。それに何より、前の私が気軽にヨルグさんと呼べていたのが自分でも信じられない。


 緊張して呼べない......。


 「......あの時の事は覚えているのか?」


 「はい。何となくですが。副師団長がアレを砕いた瞬間色んなものが雪崩のように流れ込んできたのは覚えてます」


 「その後の事は?」


 「その後ですか?」


 思い出そうと数秒黙り込む。確か頭と腕が痛くなって......。


 うわぁ、私胃の中のもの全部吐き出した気がする。


 「その、も、申し訳ありません」


 好きな人に吐く姿を見られたのだ。情けないやら恥ずかしいやらで彼の顔を見られない。俯く顔が熱くなるのを感じた。できれば思い出したく無かった。


 「......謝らなくて良い。それで、用事は終わったな?」


 ヨルグさんは書類から目を上げずにそっけなく言う。


 「え!いえ!まだです、あの......副師団長はあの約束覚えてらっしゃいますか?」


 「約束?」


 ヨルグさんと目が合う。


 「私に乗馬を教えてくれる約束です......」


彼が静かに目を見開いた。


 「あ、あぁ......そうだったな」


 はぁーと一つため息を吐き、頭をポリポリと掻く。面倒くさいと思ったのだろうか。


 「あっ、あの、口約束なので、ご迷惑でしたら全然大丈夫ですので」


 焦って半歩下がる。もうお暇したほうがいいのかも知れない。彼の反応はどう見ても以前の私に対するものより冷たく感じた。


 それも当たり前か。犯罪の片棒を担いでいたようなものだし。それに吐いたし。


 もう失礼します、と言おうと口を開いた瞬間ヨルグさんが書類をパサリと机に置いた。


 「......今度の土曜なら空いてる」


思わぬ答えに彼の顔を凝視してしまう。彼はまた書類に目を落としていた。


 「あ、えっ、良いんですか?」


 「お前がやりたいと言ったんだろう」


 「そ、それはそうですけど......ありがとうございます!今度の土曜、お願いします」


 「あ!鍵!お返ししますね」


 私は鍵を慎重に机に置き、失礼します!と執務室を出た。


 終始不機嫌なようだったが、今度ヨルグさんと出かけられる事が今は嬉しい。私は軽くスキップをしながら自室への廊下を進んだ。


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