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  「やめて!!!」


 叫んで立ち上がったがもう遅い。砕けたロケットから私の髪の毛がハラハラと落ちていく。


 「これを使用することは許されていないんだ」


 「いっ、ぐうっっ、っつ......ふっ...ふっっ......」


 目を開いていられない。草の緑が、花の赤が、空の色さえ自分の脳をバチバチと攻撃して来る様で、涙が止まらない。


 心臓が今までの分を取り戻す様にドクドクと脈打っていて、耳の奥が血流でうるさい。身体中の血が熱くなったり冷たくなったりを繰り返している。


 頭の中に元の世界の父と母の声が響き、こちらの世界の母と妹の声が続いて響く。グワングワンと脳が揺れ、頭が割れる様に痛い。


 立ち上がって居られなくなり私は草の上に崩れ落ちた。


 「お、おい、大丈夫か」


 ヨルグさんの手が肩に触れる。


 「ひっ......!?」


 私は彼の手をパシッと弾き、手で頭を覆った。


 「ご、ごめっ......なさっい......」


震えて謝ることしか出来ない。左腕の痛みが鈍い痛みの波になって全身を襲う。


 「うっ......うぷっ...」


私は地面に手をついて胃の中の物を全て吐き出してしまった。そこで私は意識を手放した。



****



私が目を覚まして最初に見たのは数週間前にお世話になっていた救護室の天井だった。


 なぜ私がまたここのいるのか、何が起きたのか思い出すのに数分かかった。


 「っ〜〜〜!!!」


 ヨルグさんにロケットを砕かれた事を思い出しガバっ!と起きたが、同時に左腕が殴られた様に痛んで声も出せずに悶えた。


 久しぶりの痛みだ。懐かしささえ感じる。だがやはり良いものでは無い。


 「あら、目が覚めたのね」


 救護室のお医者さんがカーテンを開き私を見た。50代くらいのベテラン女医さんだ。


 「昨日倒れたのよあなた、覚えてる?」


 「は、はい。何となく」


 確か、ロケットを壊されて、そこから色々情報が流れ込んできたのがすごくしんどかったのを覚えている。その後はどうなったんだっけ。頭痛と昨日の記憶を少しでもマシにしたくて眉間を揉んだが、特に変わりはない。


 「うん、脈も問題無し。部屋に戻って良いわよ」


 彼女のお墨付きを貰い部屋へと戻る。


 ベッドに座りながら私は腕の痛みと、これからどんな顔でヨルグさんに会えば良いかでウンウンと唸っていた。


 

*****



彼女が救護室を出て自分の部屋へ戻ったと知らせを受けた。


 王女をストーカーしていた犯人の報告や処理は粗方済ませたので彼女と話をする時間ならある。


 だが俺は彼女に会いにいくのを先延ばしにして居た。彼女が禁止されている魔道具を使っている事は分かっていた。それを壊せば彼女が普通の痛みを感じる人間に戻ることも。彼女にとっては武器を取られた様なものかも知れない。


 だが俺が懸念しているのは別のことだった。自分本位なのは分かっているが、彼女の本心を知りたいと思ってしまったのだ。


 あの魔道具の作用は精神までに及ぶ。何事にも希薄になる人も居れば過剰に反応するようになる人も居る。彼女はどちらなのだろう。


 感受性が希薄ななっていたから俺の事を怖がらなかったのでは?あの魔道具を壊せば俺を怖がる様になるかもしれない。


 そしてクレイグ様の事もある。もし彼女が自分の恋心に気づいてさえいなかったら。


 魔道具が無くても彼女は俺に笑顔を向けてくれるだろうか。俺はどうしても知りたくなった。


 普段あまり使われる事の無い裏庭に彼女を連れて話を始める。


 彼女に手を出すと素直に魔道具を俺に差し出した。


 これを用意したのは彼女の母と妹か。どんな家庭だったのか、俺は彼女の事を何も知らない事に気付いた。叶うなら、これから先沢山知って行きたい。だが彼女が俺と会話してくれるのも今日で最後かも知れない。相反する気持ちがグルグルと胸の中を回っていた。


 彼女の家族がこれを用意したのなら、彼女の罪は限りなく軽く出来る。せいぜい数ヶ月定職になる程度だろう。

 

 俺は彼女の腕が痛むだろう事に謝罪をし、ロケットを粉々に砕いた。中から彼女のススキ色の髪の毛が落ちて来る。


 今まで抑制されていた分反動が来る事は予想していたが、彼女の苦しがり方は予想以上だった。


 全ての刺激に攻撃を受けている様に震えている。立っている事もできない様で、地面に座り込んでしまった。


 「お、おい、大丈夫か」


 「ひっ......!?」


 救護室に運んだ方が良いか、と肩に手を置くと彼女の手がそれを拒否した。彼女は泣きながらブルブルと震えている。


 払われた手を宙で止め茫然とした。彼女が俺を恐れているのだ。


 残念だ、と思うと共にやはり、と強く思った。


 俺を恐れない女子供が居るわけが無いのだ。学校で彼女と出会った時から微かに灯っていた心の火がフッと消えた気がした。


 「うっ......うぷっ...」


吐いて気絶してしまった彼女をゆっくりと抱え上げ救護室へ運ぶ。


 もう彼女に自分から近づく事はやめよう。俺は心に決めた。

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