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 「今日は目線の練習にしましょうか」


 今日の怖さ減退訓練はお昼を食べた後から始まった。昨日は夜勤だったのでこれから休みなのだ。2人はまた小さいガゼボに座っていた。


 「ヨルグさん?」


 返事が無いのでヨルグさんの顔を覗き込む。ご飯の後なので眠くなってしまっただろうか?


 「お疲れでしたら、休みにしますか?またいつでも出来ますし」


 「いや、大丈夫だ」


 ハッとしたようにヨルグさんがこちらを見る。


 「本当ですか?疲れてたら言ってくださいね」


 「あぁ」

 

 彼は大丈夫と言うが、何だかいつもより元気が無いように見える。今日は早めに終わらせてまた後日長めに時間を取った方が良いか。


 「じゃあ今日は簡単な物を教えますよ〜」


 軽くガッツポーズをし、彼に笑いかける。


 「あぁ、よろしく頼む」


 彼の目元が緩んだような気がして、私は内心ホッとする。


 「これは初めて会う人、特に子供に効果的だと思うんですが、ヨルグさんは背が高いので小さい子供とお話する時は屈んで目線を合わせましょう!」


 「そんな事で良いのか?」


 ヨルグさんが肩透かしを喰らったような顔をしている。


 「上から見下ろされるって本能的にも怖がっちゃうと思うんですよ。自分と同じか、ちょっと下からの目線だったらそこまで......」


「こうか?」


 ヨルグさんが唐突に立ち上がり、私の足元でしゃがんだ。顔がいつもより近い。


 「そ、うですけどもうちょっとゆっくり屈んでもらえると有り難いです、たぶん子供がびっくりしちゃうので......」


困った様に笑うと彼はしまった、と眉間に皺を寄せた。


 「すまん」


 彼は素早く元の席に戻った。


 「いえいえ!さっきの様な感じで、後はゆっくり動く事を意識したら良いと思います!」


 良い感じだ!と親指を立てて見せる。


 「......そうか?俺の目は怖いと昔から言われて来たんだが......」


 ヨルグさんが私から目を逸らし呟く。大きいワンコのように見えるのは私の錯覚だろうか。


 「うーん、ヨルグさんは目が怖いと言うより、眉間に皺が寄っちゃってるのが怖く感じるんじゃ無いですかね?」


 彼の顔を良く見るために椅子を近づけ少し距離を詰める。


 「うーーーん、私が怖く感じないから確かなことは言えないですけどねぇ」


 ヨルグさんの顔をジーッと見つめていると、彼が私の顔をチラリと見た。


 「ふっ、お前が眉間に皺寄せてどーする」


 心臓近くの血の流れが勢いを増した気がした。


 「ヨルグさん!今のですよ!」


 「何がだ?」


 「あー!戻っちゃった」


 一瞬彼が柔らかい顔で笑ったのだが、それもあっという間に不機嫌に見える顔に戻ってしまった。


 「でも今日は大進歩だから良いことにしますか」


 自覚が無いのか、ヨルグさんはハテナを浮かべていたが、初めて彼の笑顔を見れたのだ。今日は良い訓練が出来た。今日は切り上げて自室へ戻ろうか、と立ち上がると彼が唐突に私に声をかけた。


 「何か欲しいものはあるか」


 「欲しいものですか?」


 いきなりなぜ欲しい物を聞かれたのだろう?私は思考を巡らせるが特に欲しいものも無く、ただ首を傾げた。


 「俺だけ得をしてる、だろ?」

 

 「お礼的な事ですか?」


 それなら、と考え私はあ!と手を鳴らした。


 「私乗馬が苦手なんです、ヨルグさんが良ければ今度教えてくれますか?」


 「乗馬か。分かった。今度遠乗りでも行くか」


 「やったー約束ですよ!」

 

 遠乗り出来る時間が捻出出来るかは分からないが、未来に楽しみな事があるのは良い事だ、と思った。


 この日の訓練は早めに切り上げ、私たちは夜の警護に向け睡眠を取るため自室へと戻った。



*****



「今日も美しい。今度の舞踏会には君の瞳の色に似合うドレスを贈るよ」


 「あら、ありがとう」


 今日もクレイグの甘い言葉が聞こえて来る。アシア様はそれをさらりと流していた。2人が結婚したらきっとアシア様が主権を握るんだろうな、とぼんやりと考えていた。


 「そういえばアシーにプレゼントがあるんだった」


 クレイグがバルコニーから部屋に入って来る。壁に控えている私たちの目の前を横切る瞬間、彼が床のカーペットに躓き態勢を崩した。


 「クレイグ!」


 私は咄嗟に手を伸ばした。すんでの所で彼を抱き止め、まるでダンスの終盤の様な態勢だ。彼の顔が目の前にある。


 「バカ。気をつけなよ」


 「感謝はするけどな、バカは余計だ」


 自分の足で立ち上がるクレイグに小声で文句を言う。


 「あら、2人は仲良しなのね?それじゃああの話も順調に行きそう?」


 少し離れた所からアシア様のはしゃいだ様な声が聞こえた。


 私は彼女が何の話をしているか分からずヨルグさん、クレイグ、アシア様の順に顔を見た。


 「えー、と。アシア様、あの話とは?」

 

 「本当にやるのか?アシー。まぁ君に危険が無さそうだから反対はしないけど」


 クレイグはプレゼントを持ちアシア様の前の椅子に座り直している。彼は何の話かわかっている様だ。


 「これ以上放置してたら流石に他の方に迷惑をかけるかもしれないもの。騎士の人たちに任せるのが1番だと思うわ」


 少し申し訳なさそうな、しかし信頼を感じる顔でアシア様は私とヨルグさんを見た。


 「申し訳ありません。話が見えないのですが......?」


 隣に立つヨルグさんの顔を伺う。彼は話しづらそうに口を開いた。


 「アシア様のストーカーの話はしたと思うが、そいつが犯行声明を出してな」


 「犯行声明?」


 彼はコクリと頷いた。


 「それがアシア様を攫いに来る、と言う内容だった。それを俺たちが捕まえる手筈になっている」

 

 「?......騎士たちが捕まえるのならそれで問題ないのでは?」


 何故か神妙な顔をしているヨルグさんは続きを話したくない様だ。


 「あなたに囮を頼みたくって」


 アシア様が何事も無いように言ってのける。


 「囮!?......ですか?」


 「このまま受身だと防御するだけで、相手を捕まえることは出来ないでしょ?だから、あなたに私のフリをして攫われて欲しいのよ」


 「私がアシア様の......?」


 もう何が何やら分からず言葉が出てこない。


 「攫うのがストーカー本人とは限らないでしょ?下っぱを捕まえても当の本人は痛くも痒くも無い。だからわざと攫われて本元を叩こう、と言うわけよ」


 「......なるほど」


 計画を聞けば、尤もな様な気がした。騎士が主人を守るために奔走するのは当たり前だ。


 騎士が主人のフリをするのはあまり聞いた事が無いが。


 「犯人は日時まで指定して来たわ。私たちを舐めてるのよ。彼らに一泡吹かせてやりましょう」


 アシア様の目が好戦的にキラキラと輝く。


 彼女は見た目こそ可愛いが、この国の王女様なのだ。私は主人の強さを垣間見て、この人に仕えて良かったと感じていた。


 「仰せのままに。アシア王女」


 私は騎士の礼をとった。



 

*****



 「えっと、これは聞いてないんだけど」


 「しょうがないだろ。俺だって嫌だわ」


 いつか見た中庭の大きいガゼボに私とクレイグは肩を寄せ合い座っていた。


 いつもは騎士服に身を包んでいるので咄嗟に走ったり出来るぐらい身軽なのだが、今は目の前の紅茶を取るのさえ億劫だ。動くたびに厚い布が擦れる音が響く。


 「似合わないな」


 「知ってるから黙って」


 私たちの事を遠目から見れば綺麗なドレスを着たご令嬢とご令息の恋人に見えるだろう。だが会話に甘さなど微塵も無い。むしろこれから喧嘩が始まってしまうのでは無いかと心配になる程だ。


 「ウィッグずれてない?大丈夫?」


 近くに鏡が無いので数分に一回自分の見た目が気になってしまう。高いウィッグを着け化粧をしているのでそこまで酷い有様では無いと思うのだが。


 「ずれてねぇって。そんなに気にしてると逆に不自然だぞ」


 クレイグに諭されぐっと姿勢を正す。


 アシア様に届いた手紙には今日の正午に攫いに来ると書いてあったらしい。彼女は少し離れた部屋に篭ってもらって騎士たちが目立たない程度に目を光らせている。


 だが王女に届く手紙は全て検閲されているはずだ。一体誰が犯行予告の紙を紛れさせる事が出来たのだろう?


 騎士たちが捜査を進めてはいるが、今だに確信を掴めてはいない。


 「そろそろ時間だね」


 私は彼の手を一度握り、名残惜しく見える様に庭の花壇の方へと歩みを進めた。


 怪しまれない為に警備の数はそのままだが、私が進んでいるのはあえて警備を手薄にしている場所だ。犯人が上手く引っかかってくれれば良いのだが。


ーーーガサッ!!


 生垣の隙間から誰かが飛び出して来る。私は咄嗟に防御の姿勢を取ったが、攫われる事が目的だ。反撃しない様にしなければ。


 生垣から出て来たのは王城で何度も見かけた事がある男だった。いつもアシア様に食事を届けている執事ではないか。


 やはり内部の犯行だったか。


 私は男の顔を忘れない様に見つめつつ、恐怖で身動きができないフリをした。


 男はガシッと私の腰を掴み、俵よろしく担ぎ上げ軽々と運び始めた。


 計画が上手くいったのは喜ばしいが、この体勢はやめてほしい。さっき飲んだお茶が出て来そうだ。


 ドスドスと運ばれて何分経っただろうか。道を覚えようとしたがさすがに長距離だったので覚え切れる気がしない。だが私が攫われた瞬間騎士たちが後を追って来る事になっているので心配はないだろう。


 

 「ぐぇっ!」


 いきなり男は歩みを止め私をドサっと地面に降ろした。尻餅をついてしまい変な声が出る。


 「い、たくは無いけどもっと優しく出来ないもんかね」


 ブツブツと呟きながら立ち上がる。衝撃でウィッグが落ちてしまった。高い物なのに土で汚れてしまっている。アシア様に怒られるだろうか。


 男が立ち止まったのは古びた小屋の前だった。平屋と言うのか、一階しかないような形の建物だ。


 「それで、あなたのボスは?」


 立ち尽くしている男に声を掛けるが、男は先ほどからフラフラとしているだけで一言も発さない。


 何かがおかしい。


 私は近くまで来ている筈の騎士たちを目視で確認しようとしたが、見渡しても人の影さえない。不気味なほど静かだ。近くに民家は無さそうだし、霧まで出て来ている。


 だがあのゆっくりな歩調を追いかけられないほど騎士は落ちぶれていない。きっと何かがあったのだ。


 私はドレスの中に隠し持っていた硝煙弾を打ち上げようと手を伸ばした。しかし手が硝煙弾にたどり着く前に小屋の扉がギギ、と開いた。


 「......あ?......おい、誰だよそいつ!?!?!??!っはぁーーまぁーた失敗だ。ちっ!」


 扉の隙間から覗いたのはペタリとした黒髪の頬が痩けた男だった。イライラと頭を掻きむしっている。


 「あなたがこの人のボス?」


 落ち着いた声で問いかける。


 「はぁ?んな訳あるか」


 男は小屋から出て、私の隣の執事に近づいた。執事の首から小さいブローチを取り外す。


 こいつは話が出来る人物なのかどうか分からずに私は慎重に様子を伺っていた。


 「この人はただの下っぱであなたが命令したんでしょ?」


 男は私の話を聞いているのかいないのか、胸に異常なほど下げたブローチをガチャガチャと何かを探す様に選り分けている。


 「あ、あったあった」


 「お役目終了。帰ってよし」


 男は銀色のブローチ、形的にロケットか?それを手に持ちながら、私の横でフラフラしていた執事の男に向けて命令する。


 すると執事はまたフラフラと向きを変えて今きた道を引き返していく。


 「あなた、いったい何人を......」


「お、お嬢ちゃんこれ知ってるんだ?」


 同じ物ではないが、きっと母と妹が私に使ったものと似た様な物なのだろう。人に害を為す魔道具だ。基本魔道具は今の時代全面禁止となっている。だが噂によれば裏市場で高値で取引きされているとか。


 今回のストーカーは犯行時刻も指定し、攫いにいくとまで言い退けた。余裕があるのか、はたまた馬鹿なのかと思っていたが、彼の狙いは王女様ではない。"王女様を攫う"事だ。魔道具の効果がどこまで使えるのかを試したかったのだろう。


 「私これでも騎士だからさ、あなたを止めなきゃいけないんだよね」


 軽く言い放つが、この男が他に何を持っているのか分からない。下手に手出しが出来ないのも事実だ。


 「でもあんた1人だけで大丈夫なのか?他の騎士は居ないように見えるがね」


 そう言われて反論が出来ない。なぜまだ彼らは来ないのか。


 「まぁたぶんここには来ないよ。俺があいつに姿を眩ますブローチを渡したからね」


 先ほど執事から取っていたのはそれだったのか。


 私はまずい事になったな、と履いていたヒールを静かに脱いだ。


 「王女様を連れて来るようにっておつかい出したんだけどな〜、人を操るのってのは簡単に行かんね」


 男はヘラヘラと笑っている。


 今のうちに隙をついて硝煙弾を打ち上げようか。手を動かすが男はそこまで甘くなかった。


 「おっと、俺なら抵抗するのはやめとくけどね。俺が何を持ってるかお前は知らないだろ?」


 沢山のブローチをジャラジャラと鳴らす。


 「それもそうだ。で、私はどうすれば良いわけ?」


 降参だ、と両手を肩の上でヒラヒラとさせた。


 「そうだなぁ......最近手に入れたのを試したいと思ってたんだ」


 男は吐き気がする様な笑みで私を見た。


 男は小屋の中へ私の腕を掴み無理やり小屋の中へと引き摺り込む。小屋の中は電気が点いてはいたがかなり薄暗く、家具なども最低限の物しか置いていない。仮の滞在所の様な物だと推測できた。


 「じゃそこに膝ついてくれるかなぁ」


 私は大人しく床に両膝を付く。


 「これ、最近手に入れた筋力増量の魔道具なんだけど、まだ試した事が無いんだよね。王女様で試しても良いかな〜と思ってたけど、まぁ君でも良いか」


 男の話を聞いた私はホッとしてしまった。この場に居たのが私で良かった。


 「じゃあリラックスしてね」


 私の顔に男の顔が迫り、男の饐えた匂いが鼻につく。


 男がパッと身を引き、左足を芯に右足を蹴り上げる予備動作を取った。


 男の細い脚から繰り出されたとは思えない重みが防御した左腕から体に伝わる。


ーーーボグッ!!


 水音と硬いものが折れた様な嫌な音が小屋に響いた。


 「......は?」


 私は折れた左腕を気にせず右手で男の脚をガシリと掴んだ。そのまま背負い投げをするように男を扉の方へと放り投げる。男は投げられた衝撃とショックでガクガクと震えている。


 「ば、ばけもの......」 


化け物とは失礼な。この男と同じ物を使っているだけなのに。いや、彼を放り投げた事を言っているのか?だとしたら体を鍛えた賜物なので余計失礼だ。


 男は怯えながら立ち上がるが、足がプルプルと震えている。私は男の腹目掛けて思い切り足蹴りを繰り出した。男は吹き飛び背中から扉に突っ込んでいく。


 扉は古くなっていた様で、飛ばされた男の衝撃でバタン!と外に向かって倒れてしまった。


 私はすっかり変な方向に曲がってしまった左腕をプラプラさせながら男を追う。


 「これ痛く無いけどさ〜、治るのいつになるの?ねぇ?」


 男が動かないのを確認しつつ、右手で硝煙弾を空に打つ。執事の移動距離からしてそこまで遠く無い筈だ。近くの騎士が誰かしらこの煙を見るだろう。


 もう少し殴ってやろうか、と倒れている男に馬乗りになり胸ぐらを掴むが左腕が使えないので殴れない事に気づいた。


 頭突きをしてやろうか、と悩んでいると聞き慣れた声が聞こえた。


 「スウェイル!!」


 ヨルグさんが走ってこちらへ向かって来る。


 「あ!ヨルグさん!近くに居たんですね〜良かった〜」


 1人でこの男を引き摺りながら王城に戻るのはしんどそうだと思ってたので、彼が来てくれて助かった。


 「スウェイル、お前腕が......」


  「あっ、いたた......」


 1人で犯人と相対していた事に自分でも知らず緊張していたのか、ヨルグさんの顔を見てすっかり安心してしまっていたようだ。左腕の事をすっかり忘れていた。


 今更痛がって見せたが、もう手遅れの様だ。


 「......話は後だ」


 「は、はい......」


彼は地面に伸びてる男をチラリと確認し、私の左腕にそっと触れた。


「少し我慢しろ」


 そこら辺に扉の残骸が転がっていたので、そこから手頃な木を拾い、懐から取り出した布で固定する。見事な手際だ。途中腕を正しい方向に戻されたが、私よりヨルグさんの方が痛そうな顔をしていた。


 思わず感心して見ていたが、私を見る彼の目は明らかに怒っていた。


 「今他のやつらも向かってる。俺がこいつを引き渡すまで大人しくしてろよ」


 ヨルグさんが男を運んで仕舞えば早いと思うのだが。数分後に騎士たちが現場に到着し、男は腕を縛られた。


 「あ、そいつのブローチ外した方が良いです。たぶん全部魔道具なので」


 魔道具と聞いた騎士たちはギョッとし、恐る恐るブローチを外していく。素手で触るのも恐ろしいのか、布で包んで慎重に運ばれていく。


 「私を攫ったのはアシア様付きの執事ですが、彼は操られていただけのようです。話を聞く必要はあるでしょうが。恐らくまだ呪いをかけられている人は数人居ると思われます」


 他の騎士へあらましを伝えると彼らは頷いて数人を王城へ向かわせた。


 調査が終われば後は司法が裁いてくれるだろう。私はホッとして息を吐いたが、横にいるヨルグさんからの視線が痛い。


 「あの〜、ヨルグさん?」


 「言いたい事は山程あるが、とりあえず王城に戻るぞ」


 相当怒っている様で、私が目を合わせようとしても目が合わない。


 「うぅ、了解です。あれ、靴どこ行った?」


 ウィッグは回収したが、靴が見当たらない。どこかに転がっていってしまったのだろうか。


 「お前靴も履いてないのか」


 「いざとなったら走れる様に脱いだんですけど、あ!あったあった」


 騎士たちに蹴られて転がってしまったのだろう、少し離れたところに2足揃っているのを発見した。


 「足を見せろ」


 「はい?」


 唐突な質問に振り向く。彼は真面目な顔をしていた。


 何で足を見たがるんだ?と不思議だったが取り敢えず自分でも足が見える様にドレスからヒョコッと出した。


 「ありゃ」


 案の定だ、と彼はため息を吐いた。暴れ回った私の足の裏には棘やら石やらが刺さっていて血が滲んでいるところもある。


 「舌を噛むなよ」


 「へ?」


 彼の方を見ようとした途端視界がグラリと揺れた。気づけば私の体は軽々と抱き上げられている。


 「あ、あの私歩けますよ」


 「その足で靴を履くのか?」


 「裸足でも全然......」


そう言いかけるとギロリと睨まれた。


 「す、すみません......」


 叱られた犬の様に縮こまり、大人しく彼に運ばれる事にした。反論したら更に怒らせてしまいそうだ。


 帰り道の道中2人の間には1つも会話は無かった。

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